第八十話 絶対的テリトリー
そしてすぐにフィティーは出てくる。10分前と何も変わらない、同い年の美少女だ。
「ん?まだ何か用事が?」
首を傾げて不思議そうに問う。これが普段キリッとしたフィティーからはギャップとして放たれる。その姿はどこかルミウを彷彿とさせるが、ツンデレではないとこは惜しい。
「ああ。フィティー王女が護衛無しだと心配でな。俺は特異体質のおかけで寝なくてもいいから、夜の間だけでも守らせてくれ」
「そんな、申し訳ないよ」
「いいや、隠そうとしても最近寝られてないのはバレてるぞ。何が原因かは聞かないが、少しでも質のいい睡眠をとるために遠慮するなよ」
もしかしたらフィティーも誰かに狙われていることを知っているのかもしれない。だが、寝れていないことには変わりはない。
気派で読み取ったのだが、睡眠時には気派は1番落ち着く。感情の起伏がほとんどないため、体を巡る速さも質も一定だ。だからその日に使ったあらゆる流をその時にリセットし、体力とともに回復する。
だが、フィティーの体を巡る気派は集中しなければ荒れに荒れていた。リセットされてないと判断するには容易いほどに。回復も中途半端過ぎた。
「……隠しても無理なものは無理か。流石だね」
「まぁな。ルミウも分かってたみたいだけど」
だから俺が護衛しにいくことに違和感を覚えず、縦に首を振った。心配しているのは俺だけではない。
「なら、お願い序に話を聞いてもらおうかな」
「フィティーが言うなら、従う以外ない」
「ありがとう」
聞く気はなかったが、フィティーから言われるなら俺も喜んで聞く。お人好しかもしれないが、なんとか出来る力を持つ人が、1人で困る人を助けないわけがない。増しては仲の良い友人ならなおさら。それが当たり前と思う俺は自然と耳を傾ける。
凡事徹底が出来る人は精神が据わっているのだ。
そうして、夜もまだ20時を回る前、再びフィティーの部屋のソファに座った。眠気は全く無く、濃く疲れの溜まる1日だったのにも関わらず元気な俺は改めて特異存在なのだと実感する。
「最近、この部屋に居ても視線を感じるの。毎回上からで、見ても誰もいないし窓の外にもいない。それが気になって寝付けないんだよね。勘違いでもないと思う」
「なるほどな……」
これは間違いなく気づいている。無意識に発を放っていたのか、視線に気づくのは予想外だ。罵倒されて生きてきたフィティーは、そういうのに敏感なのだろう。
「それなら余計、俺の助けが必要だな。今日からめちゃくちゃ気持ちいい睡眠とれるから楽しみにしとくといい」
「なんとか出来るの?」
「もちろん。ちなみに、それは寝てる時も感じるか?」
「時々。最近は無くなったけど……」
「そうか」
寝てる時だけならただの変態ストーカーだろうが、日中もならそれは完全に極悪ストーカーだよな。
「何も気にしなくていいぞ。信じてくれるだろうが、絶対に違和感を感じさせない」
「うん。分かった」
「よし、なら俺は屋根上に載るから好きな時に寝てくれ。寝顔は見ないからそれも気にするなよ」
「ふふっ、ありがとう」
美少女の笑顔はどんな大金よりもご褒美だ。力に代えれるものはお金よりも魅力があり、俺が欲するもの。この期待に応えるのも達成感を味わえて最高だ。
そして少し、リラックスさせるための会話を続けると俺は窓から外に出る。屋根上は微弱な風が吹き付け、気持ちよく朝を迎えられそうだった。
「よし、そろそろ使うか」
この世界で俺だけが使える業。それは集を使った空間感知だ。
体中の気派8割を一瞬にして爆発させるように体外へ放出する。それを集で1つの大きな透明の球体として俺を中心に半径50mで纏わせる。発は敵の感知、還は物体の感知をするのでこれで、その空間に存在する全てを何もかも把握出来るようになるのだ。
つまり、死角が存在せず敵が侵入したら死を意味する。
その空間では俺の絶対的テリトリーであり、僅かな侵入でも俺に敵意を向ければ刹那で仕留めることが可能。サウンドコレクトの最上位互換だ。
使うことは滅多に無いので感覚がおぼつかない。なので実は50mは広すぎたりする。本当なら20mで良かったが、まぁ今日は特大サービスってことでそのままにしておこう。
王城だからなのか、静寂に包まれるこの場所はなんだか居心地が良い。昔の記憶は曖昧だが、似たような場所に居たことは思い出せる。
全く淀みのない澄んた空気感に1人で居る。そんな悲しい思い出だがな。
「サウンドコレクト」
暇だったので、ここからでは届かないルミウたちのいる部屋を形だけでも覗いてみる。女子だけならどんな話をしてるかなど気になるが、そこまで万能な能力ではない。
3人が同じベッドで座っている。が、ルミウは何故か興奮しているような気派で、すぐにニアも同じほど興奮状態になる。一体なんの話でそこまで盛り上がるのか、これは興味津々になざるをえないな。お酒とか呑んでないだろうし……。
それにしても、楽しそうにしてくれるのは俺としても嬉しい。幼い頃に途轍もない精神的なダメージを受けたという共通点のある3人がともに笑い合うのだから、それも当たり前かもしれない。
常に恵まれた環境で生きてきているわけではない天才も、神は天に二物を与えず、と言われるように苦難な道のりを歩んでいるらしい。
いつか報われる時が来てくれれば良いのだが。
そう思いながらも、暇を潰す俺の絶対的テリトリーにはその夜、誰も入ることは無かった。
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