第七十九話 宿と護衛
しばらくして、俺たちが談笑しているとこの短時間で仲を深めた様子の2人は、この王国の鍛冶屋を堪能して戻って来た。
おそらくリベニアの黒奇石の質や量など、刀を製作するために使う基準を事細かに調べてたのだろう。この天才2人が見れば間違いは起こらないはずだ。今後頼むなら期待しても良さそうだな。
「それじゃ、案内するから付いてきて」
フィティーの案内に従い、俺たちはそれぞれの部屋に向かう。ヒュースウィットではテンランのおかげでそこそこ裕福な暮らしが出来た。が、王城内で過ごすことは無かった。故に俺は今歳相応のワクワク感を胸に、どれほどの暮らしが出来るのか気になっている。
何もかもをヒュースウィットと比べてしまうが、今のところリベニアに負けているとこはない。もしかしたらこれが最初の驚きとなり、上回るものになるかもしれない。
そう思っていると、珍しく俺の期待を裏切らない部屋が目の前に広がっていた。
フィティーの部屋を出て30秒ほど。着いた場所は1文字で表すなら「金」だった。シャンデリアもテーブルもソファもベッドも何もかもが眩しく、どんなに知識に疎くても高いと確信するほどの高級感満載の部屋。
こんなとこで寝れるかよ。と言うのが正直なとこ。
「この部屋は自由に使っていいよ。あと、それぞれの実力を考慮して守護剣士も神託剣士も扉の前には立たせないからそこは納得してね」
「ああ。問題ない」
フィティーにも本来なら護衛として誰かが立つのだが、それを見ないってことはそういうことなのだろう。まったくどこまでも腐った親だ。
まぁ、俺らが居る限り死ぬことはないが。
「それじゃ、私は戻るからゆっくり寛いで」
そう言って1日の疲れをしっかりと感じさせたフィティーは、使えるようになった左目とともに足取り確かに部屋を出ていった。その後ろ姿は力強く、やっと一歩を踏み出せたと、そんな気持ちを読み取れるほどエネルギーに満ち溢れていた。
「ねぇー、キレイ過ぎて落ち着かないんだけど」
「我儘言うなら牢屋にでも籠もってるんだな。そっちの方がお似合いだぞ」
「えーー」
普段、イカれた部屋に住み着いているシルヴィアにはこの空間は酷だ。しかし普通の生活を酷と思うほどイカれた女の言い分を聞いてやるわけにもいかない。
「3人とも好きなベッドを選んで寝ていいからな。俺はフィティーの部屋に寝泊まりするから」
「えっ、何でですか?」
「問題解決のためにだな。フィティーに対して怪しい行動を取るやつが居るんだ。そいつから守るために屋根上に載るんだ。まぁ、フィティーの部屋ってわけでもないな」
完全に間違いなく殺しにかかる殺意を向けた今日のあの一瞬。それはいつ来るかわからない。だからフィティーを監視するように守らなければならない。
決してストーカーとかじゃないからな?ちゃんとした護衛だ。
「ここに来ても不安は付き纏うんですね……」
「でも、大丈夫なの?イオナも寝ないと流石にきついんじゃない?」
「俺、1日10分寝れればその日は動けるから大丈夫だぞ。特異体質に恵まれてるからな、色々と活動には万能なんだよ」
ルミウは将来の俺の嫁なので、俺のことを何もかも知り尽くしているが、ニアとシルヴィアは違う。いくら嫁候補とはいえ、俺の正体を隠していた期間が長すぎた故に知らないことは多い。
偉そうに嫁候補とか言ってるが、実はそんなこと出来ないと、これだけは自己肯定感の低い俺は思っている。
「やっぱりイオナって超人だね。結婚しよ」
「どこの繋がりでそうなるんだよ……」
「イオナ先輩ってシルヴィアみたいな子がタイプなんですか?」
「違うわ。俺は――おい、先読みして刀抜こうとするなよ」
隣で黙って聞いていたルミウが、気づけば刀を握る寸前だった。ルミウの不意打ちは回避するのが難しい。それに隣で死角が多いのならなおさらに。
目を細めて俺を睨むが、カッコよくも可愛くもあるので怯むことはない。
「キモいって何回言えばいいの?」
「うわぁ、ルミウ羨ましい。私なら喜んで一生愛すのに」
「……変人の集まりか……」
ルミウは俺とシルヴィアによって呆れ果ててしまった。こうしてみると異次元の存在である人たちでも、しっかりと人間味があって良いと思う。剣士と刀鍛冶で王国トップ2って中々レアだよな。
カシャン、と鞘に刀を収めるとため息を1つ。落ち着く時はいつもこうするな。
「それじゃ、女子会を楽しんでくれ。ルミウがいれば安心だろうから意識は割かないぞ」
「うん、分かってる。だから戻って来なくていいよ」
「おっ、行く前にツンデレ見せてくれるとか優しいな!じゃまた!」
ルミウに斬られる前にすぐにその部屋を出る。一歩遅ければ確実に峰打ちされていただろう。ふぅ、ヒステリックは怖いな!
出るとすぐにフィティーのいる部屋の明かりが目に届く。この時間で何をしているか分からないが、プライベートを覗くのはよろしくない。
部屋の前まで来ると、優しく聞こえるようにトントンとノックをする。勝手に護衛をしてもいいが、気派を若干扱えるフィティーなら、もしかしたら俺の気配を敵と勘違いする可能性もあるので言う必要がある。
もちろん誤魔化してだけどな。
このことはフィティーに関係があると確信してから伝える。そうでなければ不安要素を増やすだけになるからな。
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