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第七十八話 飢えと絶対王政




 気づけば胴体と離された首が地面に転がる。それを見るとすぐに血の気が引く4人。指1本すら動かすことなく決着をつけてしまったことに開いた口が塞がらない。


 何が起きたのか、それはカグヤ以外知ることはない。殺される直前、スローモーションになる髭を生やした男ですら知り得なかった。


 改めて力の差を見せつけられた彼らは、絶対に歯向かうまいと心に決める。


 「お前たちは挑まないのか?」


 動揺し恐怖する彼らにカグヤは意味もなく問う。


 「冗談だ。これ以上お前たちを殺してもメリットはない」


 怯えて何も言えない彼らを救うのはカグヤ本人。何も答えられないと悟ったが故の発言だ。力の差はあれど紛れもない猛者。そんな彼らを殺すと、これからの計画に支障を来すと判断したようだ。


 「これ以上話すことはない。お前たちは各自、役目を遂行しろ」


 「はっ!」


 一瞬で消えるように立ち去る4人を目で捉えると、カグヤは1人残り、円卓を囲む席に座る。威圧感も淀んだ空気感も消えない。つまり、これはすべてカグヤ1人のものなのだ。1人で猛者をも圧倒する圧。


 知られない世界の者として、最強の座に座るのがこの女だ。


 「せめて、名前だけでも知りたいものだ。世界最強と謳われるレベル6の剣士よ……」


 飢えに飢えても死なない理由。それがこれだ。戦闘狂が故に猛者と聞けば刀を交えたくなる性分。そんなカグヤは偶然耳にした世界最強という言葉に心を踊らされた。


 誰もが口を揃えて言うものだから相当なものだ。そう思うと、興奮から周りの同胞を複数人殺めたことを思い出す。それほどまでにイカれ狂った女なのだ。


 「いつになったら会える……早くこの手で殺したいというのに……」


 グッと殺意で周辺が歪む。自分でも抑えられない衝動に、自分のイカレ具合は十分に把握している。


 カグヤを始めとしたここに集う集団の目的は――憎しみの解放、及び人間の滅殺だ。そのためにこちらの世界に留まり、あらゆる活動を続けている。


 この地に足を踏み入れる者は例外なく殺し、実験として糧となってもらう。何故か送り込まれる人間は誰もが強く、退屈という退屈をしない。カグヤがそれの排除にあたることはないが、それでも敗北はなく、これまでこの世界での平和は保たれている。


 ここでは多くの者に縛りがかけられ、ほとんどが出ることが出来ない。入ってくる人間も、もちろんその呪いにかけられるが、出られた人間は今まで1人を除いて存在しない。その1人も大半の記憶を失っているが故に0に等しい。


 カグヤもその1人であり、誰よりも強い呪いのため外に出ることすら叶わない。


 だから待つのだ。そいつがこの場に足を踏み入れるのを。良きことか、自らこの場に来ることを望んでいるという。ならば好都合。カグヤは多大な時間を無駄にしてもそいつに価値を見出し、我慢している。


 「失礼します」


 寂しくもない思いで退屈を紛らわしていると、筋肉バカのような体躯をした男が息を切らしながらも、伝えようと必死に酸素を吸っていた。レベルを見るにレベル4。落ちこぼれだった。


 「なんだ」


 それを冷静に、いや、来ることを知っていたように対応する。


 「現在、世界最強と謳われるレベル6がリベニアへ到着した様子です」


 報告内容はタイミングのいいことに、そのレベル6についてだった。すぐに興味を示すが、それを表情に出すことはない。


 「名は?」


 「……申し訳ありません。そこまでは。ですが男であり歳は18とのことです」


 「そうか」


 次第に明らかになるレベル6。ここでカグヤは1つの大きく、この上ない自己中心的なことを考えた。それは己の憎しみとは全くの別物であり、絶対なる自信からくる地獄のようなものだった。


 男は転がったままの生首を見て、思ったままガタガタと肩を震わせる。こうなりたくないと、何十回思ったことか。


 「最後に……」


 男は言うか迷った。嘘をつけば即座にバレて殺されるが、全てを報告しろと言われ伝達ミスが起こるのならそれもまた殺される。ならそれをしないようにすればいいと思うが、残念なことに、とても言いにくいことを発しようとしていたのだから背水の陣である。


 何もかもを言わなければいけないルールを作った者を殺したいと憎むほどに精神は追い込まれた。


 そして男は――死を覚悟した。いや、死の概念はとっくに消えているので消滅が正しい。


 「彼はカグヤ様の天敵でもあります。あちらでさえ未知の存在であり、その実力も底が見えないとのこと」


 「……そうか」


 初めて言葉を詰まらせた。今まで聞いたことのない天敵という言葉。意味は理解している。だから詰まるのだ。しかし、気持ちは昂ぶる。そんな男と戦えるのなら今からでも落ち着かないのが普通のように。


 「下がれ」


 「はっ!」


 男は死を免れたことに安堵した。予想外の出来事よりも、死から遠ざかったことが何よりも嬉しかったのだ。これでまだやり残したことを終わらせれる、ウキウキな気持ちを胸にその場を後にしようとする。


 だが、甘くなかった。


 「リベニアに居るのか……はははっ……失望させるなよ、世界最強……」


 そう言った時には既に男の胸には正確に短刀が刺さっていた。どこからか、それは当然カグヤからだった。


 何も思わずその場で倒れ、すぐに息を止めた。


 何が不敬だったか。カグヤには報告が重要なことであったため喜びが勝った。しかし、名前という最大のポイントを聞けなかったことが腑に落ちなかったのだ。


 カグヤにはちょっとした負の感情が死を意味するため、これが当たり前だと思っている。暴君でありながらも最強。絶対王政だ。


 そこに転がる2つの屍。カグヤは新たな目標と思いを胸に笑みを浮かべた。

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