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第六十七話 気派と敬称




 幸福感や高揚感を味わいながら過ごす時間は不思議と短く感じ、逆に不幸感を味わいながら過ごす時間は長く感じる。その言葉通り、フィティーの体に負荷が掛かることで時の流れが遅く感じたのだろう。床にベタッとお尻をつけて座るフィティーを見てそう思う。


 生き物って面白いよな。


 「今のでフィティーの体は死ぬまで自分の還を感じれるようになった。だがそれはまだ低レベルの還だけで、それも感じ取れるだけ。だから後は質を高めて扱えるようにする必要がある。そのために何が必要か、それは発だ」


 「発?」


 「ああ。せっかく還からマスターしようとしたところ悪いが、実は気派の繋がり的に発を使いこなせなきゃ還はマスター出来ないんだ」


 「それならなんで先に還を鍛えることに何も言わなかったの?」


 「フィティーの向上心を無下には出来ないし、1番はさっき言ったように、還を極めて発に移ればより極めやすいからだな」


 体の中を巡り、終点を心臓にする還は発よりも体の流れを熟知しているので質が高い。その還を薄くでも捉えられるようになった体には発の基本が簡単に扱えるようになるのだ。


 とは言っても見様見真似や、俺の言うとおりにしても1回で実行出来るほど雑な仕組みではないので、それ相応の鍛錬に取り組まなければならない。


 「……なんか中途半端って感じ」


 「それは許してくれ。後々、それ相応の報酬を得られるようになるから」


 プクッと頬を膨らませると、見た目よりほんの少し若返った顔が表れる。身の回りに美を纏う女性しか存在しないせいか、そんな表情を見ても何1つ動揺することが無くなってしまった俺は、その報酬を得られるように試行錯誤していた。


 現在フィティーの左目は機能しなくなっている。つまりは義眼と同じなのだ。しかし、だからといって全く使えないということはない。どういうことか、それが今使えるように必要に努力をしている気派が答えだ。


 左目は死んではいない、機能を停止した状態だ。ならば体の中を巡る気派で、気配を感じれるように還で意図的に巡らせればいい。そうすることで周囲何mかの死角は気派で補えるようになる。


 そして何よりも、剣技を使うにあたり気配云々、気派で感じれる全てのことは生死を分ける重要な鍵になる。それを習得出来るならそれに越したことはない。


 還をどうやって左目と合わせるか……難しいな。


 ちなみに発は心臓から体全体に行き渡るとそこで消え、ほとんどが還として成り代わるか、具現化させて放出するかのどちらかしかない。なので長期的な溜め込みは不可能であり、気配を感じるためには弱すぎる。


 「少し休憩してくれ。次は今よりも断然楽だが、疲れることには変わりない。0から1に、俺の知る限り過去最高速度で成長したフィティーなら大丈夫かもしれないが、自分自身のことを知らないってこともあるからな」


 人の心を読むように、気派で全てが把握出来る俺だから今フィティーが疲れていることを知っている。そしてそれは、まだ並にも到達してない気派使いのフィティーは気付いてない。


 「うん。流石に疲れは感じるからそうさせてもらうね」


 「癒やしてほしかったらいつでも言えよ?出来ることならなんでもしてやるぞ」


 「了ー解」


 汗は吹き出ているものの、肉体的な疲れは全くと言えるほどない。だから返事も元気で、天才はこんなとこも長けた才能を持つのかと思わされる。


 実際今俺が、()()()()()()()()()()()()、自分自身の圧で気を失う程度には疲労している。


 そして、窓際にある日差しの差し込むか差し込まないかギリギリの場所でソファに腰を降ろす。


 「再開は1時間後ってとこだな。それまで好きなことしてていいぞ」


 「イオナ様はどうするの?」


 「俺はちょっとこの王国を見て回ろうかなって思う」


 「それなら休憩がてら案内しようか?」


 「お誘いはありがたいが、今のフィティーはそんなことを出来る体じゃないからまた今度お願いするよ」


 「そう。分かった」


 残念そうに首を傾げる。俺も案内をしてもらうのは嬉しいが、王国民から出来損ないと言われるフィティーが本当に心の底から王国を歩いて回りたいと思うわけもなく、機会はその後に伸ばす。


 「それと、その様ってつけるのやめてくれよ。師弟関係にあっても、歳は同じで敬うべき立場の俺に敬語と敬称やめろって言ったんだから、その本人が使ってるの違和感覚える」


 「えー、結構気に入ってるんだよね。それに、公の場に出た時に癖ついてイオナって呼び捨てで呼んだら大変じゃん。敬語はもうメリハリついてるから心配ないけど」


 「そうか。王族ってのも言葉遣いには面倒さがあるもんな」


 一応地位は貴族をも超える神傑剣士だが、貴族のような高貴な作法ですら俺は知らない。だから目で見て、あーダルそうって思う程度。


 「可愛くお願いしてくれたら呼んであげなくもないよ?」


 「あー無理無理。俺そういうの買うタイプじゃなくて、売るタイプだから。逆に言うわ、可愛くお願いしたらそのままでいいぞ」


 「私に可愛いは遠い存在だから無理。だから仕方なく私が折れて、イオナって呼んであげるよ」


 「別にイオナさんでもイオナくんでも良かったのに、名前だけって……おいおい、早速好きになったか?」


 「顔も性格も才能も、何もかも悪くないから好きになってあげてもいいけどねー」


 「御冗談を」


 ルミウやニアとは違い、別の楽しさを感じる。冗談を冗談でやり返して、先にピキッた方が負けってゲームしてるようだ。


 え?シルヴィアはどうなのかって?サイコパスに楽しいって感情抱いたら終わりだろ。美少女でもサイコパスってよく思えるかもしれないが、プライベートまで影響したら恐怖覚えるぞ。


 窓の外を見ると日が落ち始めた時間帯に、そろそろだと体が答えた。13時前ってところだろう。時計は見ないが俺の感覚は完璧だ。


 「よし、何かあればすぐに駆けつけるから、安心して休憩しててくれ」


 「はーい。いってらっしゃい、イオナ」


 「どーも、フィティーさん」


 そして俺は扉の外へ出るとすぐに王城を出た。

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