第四十二話 怒る第1座と怯む第8座
ルミウと別れて2分程度。魔人にしてはあまりにも早い決着だった。初の魔人、そしてレベル6に近い力を持つバケモノ……のはずなのだが俺が今相手にしたのは魔人であって魔人ではない個体なので当たり前だ。
魔人と呼ばれるバケモノは、並の剣士がその対象に負の感情を強く残して死ぬことで、死後すぐに【御影の地】と呼ばれる魔人の根源となる森の中へと消えて行く。そして人間としての魂を浄化、そして完全な魔人として作り上げられる。それが俺たちの言う本当の魔人だ。
確かにデズモンドのように殺意を持ち死ぬことで魔人になる事も出来るが、それは簡易的なものであり力は劣る。魔人化の前に阻止するのが1番良いのだが、御影の地は完全な白紙。今のところ何1つとして調査が出来ていないのだ。理由は御影の地に足を踏み入れた者が帰ってきた前例が無いから。
5名の神傑剣士ですら同時に送り込んで帰らなかったと言われている。
それほどこの世界の魔人は未知。
だから俺も最強剣士として掻き立てられるものがあるんだけどな。めちゃくちゃ行きたいわ、御影の地。
おっと、そんなことを考えている暇はない。
すぐに近くの屋根上に登る。そしてルミウの位置を確認する。きっとルミウも魔人の弱さに気付いているはず。だから大丈夫……いや、めちゃくちゃ大丈夫だった。
目の先にはルミウともう1人、気性の荒そうな30手前の美人が、俺の心を持っていきそうな20歳の美人と共闘していた。
「なんでここにいるんだよ、あいつ」
見るからに遊んでいる様子。ルミウ1人なら国民への影響を考えて遊ぶことは無かっただろうが、エイルも加わり2人で1人ずつ相手にするなら流石に遊んでいた。いや、鬱憤晴らしかな。
とりあえず楽しそうな2人に接近する。混ざる気は無いが、ヘマをされたら神傑剣士として名が廃るので一応だ。
「おらぁ!どうした!当たってねぇぞ!」
エイルの煽る声。どうすればこんな女性に育つのか……。
エイルは貴族ではないが、裕福な家の生まれだ。だから俺はめちゃくちゃ気になる。どんな教育で男勝りエイルが誕生したのかが。
今度聞いてみるか。
ルミウは無言で回避しては不敵な笑みを浮かべるの繰り返し。楽しそうにしているとこがポイント高い。めちゃくちゃギャップがあって可愛いのでぜひ俺と関わるときはずっとそのままでいてほしい。
「2人とも、そろそろ終わらせてくれ」
「あぁ?何でだよ。退屈してたんだぞこっちは!」
「お前の退屈云々は知らない。ただお前が居るってことはメンデが1人なんだろ?早く帰るべきだ」
「あいつなら大丈夫だろ!数もそんなに居なかったしな!」
「増えてたらどうすんだよ」
「あいつも神傑剣士だ。それに私よりも6つ上に座してんだ。それぐらいなんとかしてくれないと3座以下が恥ずかしい」
この女ほど勝手な女を見たことがない。でも実力があるので本気で文句は言えない。俺自身、エイルを俺よりも上と認めているから絶対に。
「ちなみにエイル、お前は役目を果たして来たのか?」
「もちろんだ。5人相手は時間が無駄に消費されるから、書庫ん中で蓋世心技ぶっ放して来た」
「は?……え?」
エイルの説明にルミウが一瞬止まり、信じられないという目をする。無理もないか……。
「エイル……書庫を傷つけたの?」
「んまぁ、それなりにはイカれたんじゃないか?」
刀に力が込められるのが分かる。そして――。
「蓋世心技・紅!!」
滅多に見れないルミウの怒りの斬撃。ルミウの刀は紅い。その刀身が一瞬で13回の連撃を繰り出す。剣技の後に血飛沫が起こるので目にも止まらぬ速さで2度斬られたように思われるが、実際は13回の連撃を2回に見せた超高難易度の剣技だ。
使うとこを見たのは3度目だ。
ここまでする必要はないのだが、ストレスと怒りを同時に発散したかったんだろうな。
「あーあ、エイルが書庫破壊するから」
「え?なんか私やらした……のか……?」
薄々気付いたか、さっきまでの威勢はどこか旅行に行ったらしい。若返ったかのようにあたふたしている。
おいおい、もうすぐ30だろ。
「エイル……帰ったらちょっと話がある」
とてつもない圧。レベル3までの剣士なら絶対に跪いている。あっ、俺は別。
「な、なんでだよ」
「理由も説明するから、さっさと目の前の敵を殺せ」
「……わ、分かってる」
こっわ!目が今にも殺しそうな目だって。あれは逆鱗に触れられたドラゴンを凌駕するわ、絶対。書庫だけは傷つけないようにしないとな。
ルミウの怒りの理由はエイルが書庫を少しでも破壊したこと。ただでさえ神傑剣士でも群を抜いて国務が忙しいルミウに、修理という新たな国務が追加されるのだ。血管ブチブチだ。
それにエイルは常習犯。流石の女神も限界が来たらしい。こうなると可愛いからカッコいいにチェンジされる顔は俺の癒やし。
そしてエイルは蓋世心技を使わずに魔人の命を絶った。
こうして俺の国務は終わった……んだが。
「あっ、戻って安全確認出来たらエイルに模擬戦を申し込む。だから明日にでも受けてね」
これはボコボコにしてやるから逃げんなよ?と圧をかけての強制参加させららる模擬戦だ。相当逆鱗をナデナデされたらしい。
「……うっす」
9歳差あるとは思えぬ態度に俺は暗闇の中を走りながら爆笑していた。
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