第三十話 プロムの目的と決着
「何度も言うが、貴様に私は殺せないだろう」
「は?何言ってんだお前。首に一閃、刀を通せば死ぬだろ」
「はっはっは……虚勢を張る才能だけは一人前だ」
余裕を見せるジェルドは確信を持っていた。俺が殺せない理由なんて1つもないのに。
死なない。そう信じてるからこそ余裕と自信を持って刀を振るうのだろう。
何かに守られてないと実力を発揮できない人間なんて、これから先必ず失敗をするだろう。そう、このジジイのように。
「では最後に1つ聞いていいか」
俺を殺せると確信しているからこいつはなんだって答える。慢心は恐ろしい思い込みだ。自意識過剰はなんの利益も生まないのにな。
「お前たちの狙いはなんだ?」
国務として最大の情報。プロムは何を狙ってレベル5を集め、レベル5に引き上げ国民を殺すのか。それを知ることで状況は大きくひっくり返る。
「私たちの狙いは――この世界の支配だ。この世界を支配できれば何もかもが掌の上。地位と名声、富も何もかも!だからまず、この王国の神傑剣士も、第7座の王国最強と謳われる剣士も殺す。そのためにこの世界でも上位の剣技であるヒュースウィットの剣技を手にすることができれば遂行も容易い」
神傑剣士も殺すとかさすがに禁書でも無理だと思うけどな。現に今勝ててないし。
しかしこいつらが敵対勢力として強力なのは事実。速やかに排除しなければ。
「貴様もその生贄となるがいい!」
「黙れよ。お前が思うほど神傑剣士は弱くない。戦ったこともないくせにベラベラ神傑剣士を語るな」
「レベル6なんぞ禁書を力にすればレベル5でも勝てる」
「じゃ、試してみろよ。俺に勝ったらその証明ができるぞ」
「何を言うかと思えば、貴様の実力では勝てぬと言うのに虚勢を重ね、ついには神傑剣士とも言い出したか。はっはっはっは……愚かなガキよ」
信じられなくていい。今から力でそれを見せつけてやる。そして死ぬ瞬間、お前は俺の正体を身を以って知るだろう。最高の冥土の土産だな。
「嘘じゃないことを証明してやる。良く見て聞いて対応しろよ?じゃないと――死ぬぞ」
「先に打ち込めば私の勝ちだ!極心技・鳳凰の天籟!」
聞いたことのない剣技。これが禁書の剣技と理解するには時間は必要なかった。
刀身が炎を纏う。両手に持たれた刀はオリジン刀。この剣技を使うために専用で作られた刀のようだ。熱に耐え、気派を上手く伝える。詰められた時には、下から上、上から下に刀が迫る。熱は伝わらない。そう操作しているから。
俺は気派を右足に全て込める。流れが集中すると右足が僅かに重くなるのを感じる。
これだこれ。久しぶりの感覚だ!
気分が良い。流れを完璧にコントロールすると基礎能力や体力が上昇する。そしてこれを毎日続けることで効果は格段に上がるのだ。
「死ぬなよ」
全てを込めた右足を前に踏み出す。それも力強く、地面が破壊されるほど強く、これ以上無いほど強く。
すると気派で出来た壁が俺の周りを囲む。
キィーンと刀が何かと擦れた音が響く。それは俺の気派による壁とジェルドのオリジン刀によって鳴らされた音だった。
それも一瞬のこと。気派は止まることを知らず、前に進む。見えない壁に押されるのだ。今何が起きているのか理解できないだろう。
渾身の一撃を防がれたジェルドは押される勢いのまま、後退する。しかし俺はそれを逃すほど優しくはない。
「黒狐春水」
左腕を狙って冷水とともに斬りつける。態勢が整わないジェルド。よって回避も不可能。音も立てず、無抵抗で左腕が宙を舞う。鮮血が飛び散りながら、すぐに冷水が斬り離された腕を覆う。この間僅か0.9秒。
「ぐぁ"ぁ"ぁ"!!!」
悲鳴がここら一体を包み込む。しかし神託剣士は駆けつけない。誰もこいつの最期に立ち会わない。
「痛いか?苦しいか?でもな、それでもまだ1割も届かないほど、お前は人々を苦しめたんだ」
聞こえていないかもしれない。絶望に余裕なんてないのかもしれない。でも俺は伝える。こいつが死ぬ前に一瞬でも後悔するように。そして、殺された国民のために。
「貴様……よくも……」
しかしまだ余裕を持っていた。なんなんだこの男の余裕は……まさか……。
「お前、自分が敵組織として最悪捕まっても、情報を吐くまで殺されないと思ってるのか?」
気派から心理を読み取る。
「!……」
「そうなんだな。ならお前に良いことを教えてやる。俺は今回ルミウの依頼で来てるんだが、その内容は暗殺だ。ってことはお前を捕まえる必要はないってことだな」
ルミウはジェルドから情報を聞き出さなくてもいいほど、調べ上げているということだろう。こういう時は作業が早い。それに俺のためにも尽力してくれてるんだ。期待に応えなければ。
「ま、待て!1度話し合おうではないか!」
「は?今更何を言っているんだ?脳みそが過去にでもタイムスリップしたのかよ。お前のやったことは死を以ってしても償えないんだぞ。なのに話し合い?醜すぎるな」
生かしてはいけない。本能ですらそう捉えるほどの悪行。許せるはずもない。
自害はさせない。最速で決める。
「繊心技・鳳蝶」
繊心技最速の剣技。首目掛けて一直線、一閃に刀が横切る。抜刀から斬り終えるまで刹那。剣士によっては痛みすら感じず死に至らしめる剣技だ。
首が転がる。動くとも話すこともない。落とされる寸前、ローブの内側から見えた神傑剣士の紋章を目にしたジェルドは下唇を噛んだ。
今頃気付いたって遅いんだよ。
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