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第二十九話 二刀流剣士




 「思ったように刀は俺に届かないみたいだな」


 息切れはどちらもない。脈拍も落ち着いている。3秒前刀を交えていた剣士とは思えぬ立ち居振る舞いをする。それはジェルドも同じ。


 悔しがりはするものの、本気ではないので根っからクソッと思っているものではない。


 どいつもこいつも最初から本気じゃないから負けるんだ。この年寄りはそこまで考えれなくなるほどボケてるみたいだ。


 「いいや、確かに届いているぞ。貴様の裾をよく見てみろ」


 しかし俺は見ない。


 「知ってるさ。だから思ったようにって言ってんだろ」


 視線を逸らせばそれが命取りとなる一瞬の戦いに、自ら持ち込もうとする神傑剣士ではない。それに俺はどこに刀が向けられ、斬られたのか把握している。見るほど実力が落ちたとは思わない。


 「お前が目と喉と心臓に狙いを定めて刀を扱ってるから言ってんだよ。お前の狙いは丸見えだ。偶然でイキってんじゃねーぞ」


 しかし裾を斬られたのは想定外だ。実力を全て出していないにしろ、今までこれほどの剣技使いに斬られることはなかった。


 実力落ちて来てるってことですか!??


 「そうか、しかし貴様も何かしらの想定外が起きたようで何よりだ」


 こちらも見透かされているようだ。カマをかけたのならタイミングに恵まれたジジイだ。なんであれ気派の流れを読み取ったのは間違いなさそうだ。


 落ち着きやがって。俺がもしイキってるのバレたらめちゃくちゃ恥ずかしいんだがな!


 年頃には痛いことだ。思い出すだけで顔を覆いたい。


 「だからってお前が勝てる未来は無いことは変わらないけどな」


 「慢心するとは……やはり未熟だ」


 えー!慢心してるのはどっちだって話!やめてくれよブーメラン刺さってるぞ。しっかり投げたら返ってこないようにしないと!


 「それじゃ、今度は俺から行かせてもらうぞ。極心技・黄泉闇月下!」


 フィートとの戦闘時より精度を上げた黄泉闇月下。神速はレベル5にも目で追いにくい。ましては戦闘中に慢心を決め込むジェルドには不意をつかれたような剣技だろう。


 一歩踏み込めば、その場にヒビが入る。そして足が離れる寸前、つま先でさらに深いヒビを入れる。力みが尋常ではない。すると、あまりの速さに周りの飾り物が揺れ落ちる。


 俺自身、処理が追いつかない。しかし感覚はタイミングを覚えている。脳で判断せずとも条件反射のように刀は上から下へ振り下ろされる。


 力はほとんどない。込めていないのだ。無駄な力みは体力を消費する。気派の流れを掴み、心技に合わせて刀に流を送る。


 「はぁ"ぁ"!!」


 そんな俺の黄泉闇月下を両手で、しかも振り下ろされる直前で止める。ジェルドの頭の上で交わる刀は圧倒的に俺が優勢。しかし刀が下がらないのは2本の刀で止められているから。


 「お前、二刀流剣士か!」


 「うぉ"ぉ"ぉ"!」


 答える余裕はなく、火花を散らせて薙ぎ払う。俺は大きく後ろに下がる。


 二刀流剣士。王国の約1割がそう呼ばれる、名の通りの剣士。刀1本でも戦うことができ、2本になるとさらに実力が増すと言われている。


 扱いは非常に難しく、己の刀と刀を交わらせないよう角度、強さを加減しながら、その時その時に適応した戦い方をしなければならない。


 神傑剣士には存在しないが、レベル5の二刀流剣士は一刀流剣士より厄介で、神託剣士の第2位と3位は二刀流だ。


 1位が一刀流ってのは嫌味だけど。


 「二刀流でレベル5。お前神託剣士になりそこねたから王国と敵対したのか?」


 「黙れ。神託剣士なんぞ今ならいつだってなれる」


 「今ならってことは、禁書を読む前は弱者だったのか?」


 煽りを辞めない。これは精神的に落ち着かせたくないからだ。冷静になればなるほど腕の立つ剣士は猛者になる。なら、できるだけ早く倒したい。


 まぁ、楽しみたいのもあるから五分五分だな。どっちに転がってもありって感じ。


 「王国の書物は素晴らしい!禁忌を犯せば誰にでも力が手に入るらしいじゃないか!だから私は手にした。公爵ともなれは簡単に手に入れれるのだよ!そして読んだ。読んで読んで読み漁った!そしたら今の私に不足するものはなくなっていたんだよ!」


 完全にイカれてやがる。罪を犯してまで地位と名声が欲しいものか?俺は既に持つものとして感覚が変化したので分からないが、それほどまで固執するのはもう狂気だ。


 「それで?何人殺した?」


 「覚えてないさ。50人を越えたのは確かだ。それから守護剣士を5人、神託剣士を1人殺したのは覚えてるぞ」


 50を越える……。


 「神託剣士は何位だ」


 「確か、18位だったな」


 「18だと?」


 信じられない。18位ともなればレベル4までの剣技をマスターし、レベル5の剣技ですら8割は扱えるほどの猛者。そして公爵と同じ地位を与えられるのだ。それほどの実力者を殺した……こいつは書庫だけではなく、人としての禁忌も犯したようだ。


 「禁書の内容を知るのはお前以外に誰がいる?」


 「誰もいない。フィート男爵も死んだ今、知るのは私だけだ」


 「なら、お前を殺せばこの件は解決だな。回り道させるなよな。デズモンドの居場所を吐いて自首すれば俺に殺されなくて、楽に死ねたものを」


 全然嘘だ。なんならルミウに殺されるより俺にサクッと殺されたほうが楽だ。地獄を味わいたくないからな。


 美人を前にしたら痛覚緩和したりするのかな?いつか死ぬ前の咎人に聞いてみるか。

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