第二十八話 印と気派
「夜分遅くに失礼します。神傑剣士第1座ルミウ様より伝言を授かっており、その内容をお伝えしに参りました」
慣れない言葉遣いに、しどろもどろになりながらしっかり伝える。別にヘマしても状況は変わらないが、なるべく穏便に。
「ほう、ルミウ様から?一体どんなことを」
「はい、ではこれより伝えます……なんて言うと思ったかよ」
ここに侵入できればそれで十分。これから先は誰が止めようと俺は止まらない。正体も仮面のおかげでバレないしな。後でめんどくさくなってもそれは未来の俺に任せよう。今は暗殺という名の戦闘を始める。
「ジェルド。お前はこの国を敵に回す勢力に加担しているらしいじゃないか。それは本当か?」
「……何を言っている。私がこの王国を敵に回す勢力に加担しているだと?どこの誰だか知らんが、巫山戯るなら他所でやってくれ。私は忙しいんだ、今ならまだ許してやるぞ」
「お前が俺を許しても許さなくても、俺はお前を許さないけどな。今ならまだ許してやるぞ、正直に言えよ。俺はデズモンド・バートの配下ですって」
「!?……やはり何を言ってるか分からない。最後通告だ。これで出ていかないなら神託剣士を呼ぶぞ」
見せたな。気派の揺れと殺意。特に殺意の波が激しく揺れた。間違いない、デズモンドの名前が出た瞬間に反応した。
俺は確信をさらに強めるために揺さぶりを続ける。
「自分ではどうすることもできないのか?貴族のくせに、上位貴族のくせに情けないな」
「……貴様、何者だ?!おい!神託剣士を呼べ!そして今すぐこいつをつまみ出せ!!」
「ダメだ。それは許されない!」
外に待つ守護剣士に伝える。すると彼は動揺する。ルミウの印を持つ使徒と自分が仕える貴族。どちらの声を耳に届ければ良いのか分からないから。
男爵ならまだしも、公爵だ。上位貴族でありルーフを統治している都市最大の貴族。迷わない新米守護剣士は居ない。
「私は神傑剣士第1座ルミウ様の使徒。そしてこの貴族は王国に仇なす敵対勢力だ!どちらの声に耳を傾ければ良いかは判断できるだろう!」
背中を押してやる。彼は言った、王国に仇なす者は許されないと。なら、もう分かるはずだ。
「はっ!貴方がこの部屋を出られるまで私は待ちます!」
「それでいい!」
ははっ、なかなか賢く立ち回れそうな剣士だ。普通なら仕える貴族を味方するもんだけどな。どれほどルミウが信じられてるか分かるものだな。印、助かった。
「貴族……」
「なんだよ。やっと刀を抜く気になったか?」
「……はっはっは……貴様がフィート男爵を捕らえた剣士だな?」
もう隠すことは諦めたらしい。潔いクズだ。クズってなんだかんだ潔いよな。プライドがあるのか?それとも負けないって慢心してるのか?
「だったらなんだって言うんだよ」
「フィート男爵と私は力の差が天と地ほどあるぞ……それでもまだここに居続けるか?それとも私たち側に付くか?どうする、流浪の剣士よ」
俺流浪の剣士って言われてんの?カッコいいな。
じゃなくて、プロム側に付くか?だと。面白くもない冗談だ。おじさんはみんな面白くないしつまらないな。あっ、これがオヤジギャグってやつ?なんか間違ってる気がするが……。
「普通にお前と敵対するぞ。だからほら、抜刀しろよ」
「そうか、ならば抜くしかあるまい」
そこでグッ!と気派の流れを殺意へと移行。この場の空気が物理的に重くなる。余裕で耐えれるが、更に強められたら夏風邪のようなダルさを味わうのでこちらも気派の流れを調整して対応する。
気派は己の体の中を循環している血液と同じ動きをする。それが自分自身の喜怒哀楽によって大きく変化するのだが、それを上手く使いこなすことでより俊敏に、より正確に的を討つことができるようになるこの世界の基礎能力でもある。
「来い、レベル5の落ちこぼれ貴族」
「青二才の威勢の良いこと。所詮そこらの神託剣士と同じ力しか持たぬチヤホヤされて育った天狗の子供が私に勝とうなど、舐められたものだ」
「めちゃくちゃ喋るなジジィ。うるさいから早く来いよ」
「ガキが!極心技・神風蜃気楼!」
いきなり使うは神級剣技。極心技の最上位級の剣技だ。
俺の体に突き刺すように刀に緩急を付けながら高速で出し引きを繰り返す。俺の目にも慣れるまでどこに刺してどこで引いてるか分かりづらい。
それを気派を使って右足、首、左胸と察知し次々回避していく。
これ初見なら回避するしかないだろ。まじで避けにくい。
剣技には当たり前のように自分自身の技量が出る。だから誰しも同じ技を同じように使うわけではない。
俺は神傑剣技と模擬戦をしたことがあり、その際に見たことがあるのでこうやって回避出来るが、神託剣士上位10名でも全てを見切り、回避するのは難しいだろう。
「神級蜃気楼止められてるぞ。それが全力かよ」
「くっ!舐めやがって」
「ほら、ほら、これもこれも全部受け止めれるぞ!」
目が慣れ始め、軽症すら負うことはなくなり煽りに専念する。これでも神傑剣技では慣れるのに遅い方で、下から数えれば2番ぐらいにいる。
「やっぱり歳取ると体力無くなるからな。扱うの大変だろ」
「黙れぇ!!!」
最後の一突きに全力を込める。過去1のスピードにやべっと思ったのは刹那、俺はすぐに刀を腰を回転させることで回避した。
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