第二百四十話 異変
「王都の復興にも時間は必要だし、それだけこれから激務が待ってるぞ」
「別に、それは良いんだよ。星座が変わらないことが、悩みなんだから」
もしかしたら、ブニウより先、第6座以上がランクダウンすることだって考えられる。もし、戦争を勝ち抜いて新たな神傑剣士を選抜するのなら、きっとそれは確実に近い。
とはいえ、3王国共に、神傑剣士で対抗するだろうから、それだけ神傑剣士が死ぬということでもある。猛者が死ぬなら、星座も失われはしないだろう。
そんな話をしている間にも、フィールド内では激しい戦闘が行われている。俺たちの喋り声なんて、喧騒でかき消されてしまうほど盛り上がっている。
「蓋世心技、使えるやついねーのかよ」
「選抜したこいつらに聞けよ。1回目に入れてんだから、それは把握済みだろ?」
「んじゃ、ルミウからレントまでにレベル6入れたって人ー」
神傑剣士とは思えぬ、溶けた姿勢で威厳も気品も欠片も見せないエイルは、怠惰を気にせず聞いた。
「4人だ。私が全員を確認したところ、たった4人だけだったな」
「うおっ、居たのかよ」
それに答えたのはカグヤ。神傑剣士だけが入り、座ることを許された空間に、唯一許された存在。壁際の柱に背を掛け、鷹揚とした雰囲気を醸し出して、人間を唾棄するように言った。
「私が生まれた王国、まぁ、今ではこの王国なんだが、ここも廃れたな。昔はレベル6なんて神託にも多く居たぞ。今になってはイオナとフィティー除いてたったの14人、か。笑えるな」
「仕方ないよ。昔存在した、歴戦の猛者たちは全員血を継がずに死んだんだから。今では私のリュンヌの血が最強であり唯一。気にするなら、派閥争いに君が首を突っ込めば良かったのに」
ルミウの言うことは正しいのかもしれない。かつてカグヤの存在した世界。カグヤが、現ヒュースウィット王国の剣士だった頃、世界が統制されずに他国からの領土争いが激しかった頃、歴史に名を刻む猛者が多く死んだと聞く。
書物に残された消えた剣技や、消えた天才。その者らが生きていたならば、きっと今頃俺たちは、全面戦争に畏怖することはなかっただろう。それだけの実力者ばかりを集めれたら、どれだけ抑止力になるか。
これもまた、運命とか言われるんだろうけどな。
宿命を果たすために、自分より強い存在を設けない。故に最強として、精霊種という紛い物に対抗することは必然的となる。これが俺たち、創世剣士団への呪いなんだろうな。
「お前に、過去のことを知る由もない。だから好き勝手言われても何とも思わない。だが、知らないくせに口を出すな。たらればを語るな」
カグヤにとっての過去、それは王国のことではない。迫害され、追い出された創世剣術士として、先に死んだ2人を冒涜するようなことは、無知のままでは許し難いこと。過去を語るなとは、思い出させるな、ということでもある。
「まぁ、所詮お前も人間。少しは使えるようになったが、それでも不完全。高くを求めはしないさ」
「あんまりギスギスするなよ。せっかく大会開いてるんだから。最後の晩餐的な感じで、少しは楽しんでくれよな」
「すまないな」
意外とおとなしく言うことを聞いてくれるのは、我が子を想う気持ちが強いからか。親的な立場にあるカグヤは、少しばかりそう思わせる一面が強い。
カグヤとルミウの言い合いが止んだとこで、フィールドでは決着が。おそらくレベル6が勝ち上がっていく中で、レベル5同士の接戦は見ていて楽しい。
だが、危機迫る今、大会を開けてる事自体が奇跡なのだ。そしてその今、俺たちに精霊種たちによる口火がつけられた。
「――うっ!」
「……なるほど?」
3つ横。第4座に座るシウムが苦しそうに胸を掴んだ。同時に俺も、その違和感に気づく。
「どうしたの?」
一瞬の苦しみ。シウムは息荒くなったまま、それから解放されて、ルミウの心配の言葉に対して言う。
「予想大的中……かな。黒奇石を採掘しに行った時に、ヤイバココロ村の村長に短刀を渡したんだ。そしてその短刀が破壊された。つまり、何かしらの問題が起こったってこと。しかもそれ、遠く離れた私の気派にも干渉してきたから、結構な手練れだよ」
「この感じだと、嫌な予感しかないな。カグヤ、頼み事だ」
「何?」
「シウムを抱えてヤイバココロ村に全力疾走で向かってくれ。5時間あれば着くだろうから、どうなってるのか確認して、隠密に済ませて報告しに帰ってきてくれ」
カグヤの走力は、神傑剣士の何十倍も高い。急いで1日は必要な片道を、遅くとも5時間で着くほど、足は回る。
「分かった。行くぞ、ちびっこ」
「シウムだよ」
「どうでもいいから、早く掴まれ。落ちても助けに行かないから、速さに文句言うなよ?」
「分かってる」
「んじゃ行ってくる」
「まだ潜んでる可能性もあるから、隠密にな」
「ああ」
扉を豪快に開け、次の瞬間には気配もろとも消えていた。
「何が起きたんだ?」
「忍って知ってるだろ?そいつらが生活している村に、おそらくサントゥアルのやつらが襲撃をした。俺が訪問した時、こっそり村に短刀を置いてたんだ。結界って意味で、忍を守るために。そしたらその短刀に反応があった。多分、忍ってバレたな」
しかしなんでだ?忍を襲う理由なんて皆無だろ。
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