第二百三十九話 闘技大会
「ここに集いし7万を超える国民。115名の剣士。そして、この声を聞く全ヒュースウィット王国の民よ。これより俺は、第一回神傑剣士選抜闘技大会を開催することを、今ここに宣言する。闘技場内に立つ剣士の抜刀により、新たな歴史が刻まれる。その目で確かめよ!この王国の今後を担う、最強となる剣士の後継者を!斬って斬って斬って!最後にその場に立っていた者が、この王国で12番目の猛者となる瞬間だ!」
刀を天高く掲げて見せた。両隣に並ぶ11名の剣士は、この瞬間を待っていたと、ニヤけては久しぶりの感覚に身を震わせる。かつて自分も、多くの民に見守られてこの席に座っている。思い出せば、感慨深い何かが噴水のように湧き出るのだろう。
納刀し、席につく。ここから見える国民の喧騒は止むことを知らず、未だ重要な一回戦、一戦目を控える剣士を奮い立たせる。
「うるせぇ……早く始まんねーかな」
エイルの不満。弱者の戦闘に興味はないから、欠伸をして肘をついて瞼を閉じようともする。しかし俺はそれを静止する。もちろん気派で。
「いつ襲われてもおかしくないんだぞ?寝て死んだら、また選抜大会開かないとになるから迷惑になる。黙って見てろよ」
「分かってる。けど、それなら全員ここに呼ぶ必要はなかったんじゃないのか?」
「今、国民を安心させるには、最強が揃ってる方が良いだろ」
「どうせバラすくせに」
「今は、だからな」
この大会が終われば、即座にヴァーガン王国へ王都の民を避難させる。1ヶ月は早い。王都1200万の民の避難に、時間はギリギリだ。
俺の軽い挨拶を終え、次からの進行はフィールド内に立つ神託剣士に任せる。115名も認められた剣士が居るのは驚きだが、申込みが9万に対してだと、少ないとも思う。俺が門番をしていた12の入口の1つ、7番門から選手を許可したのはたったの1人だ。
その1人は、早速俺たちの前に現れて、第一回戦の初戦を背負うことになっている。そう、俺が入れ込んだから。
「さぁ、始まりました!神傑剣士選抜闘技大会!既にフィールドには、2名の剣士が向かい合っています!」
進行の中、誰だ誰だと気になる国民に対して、俺たちは密かに笑っていた。
「最初から優勝候補見せたの?」
今度はエイルと逆の隣、ブニウからの質問。
「候補ってか優勝者だな。どうせ見せたとこで、全力で勝つことはないだろうから、戦う前から絶望させることはしないと思うぞ」
「来年から、神傑剣士に挑もうとする人、多分皆無になるんじゃないか?」
「おっさんには勝てると思うんじゃね?」
「だからって第2座にまで挑む気はないだろ。一応このリュンヌの剣士とかいう、バケモノの次に強いんだからな」
神傑剣士に知れ渡った、リュンヌについてのルミウの存在。もう誰もがその力に納得し、反論はないということで、第1座を目指す人は居なくなった。つまり、メンデが只今狙われているということ。
「でも、確かに抜かれて行きそうだよねぇ。フィティーだっけ?あの子、ポテンシャルがバカげてるから」
フィールド内で、神託剣士外の剣士、見たところ無名でありレベル5の……レントかメンデが適当に選んで、遊び心で入れたような剣士と向き合う1人の美少女。一国を担っていた王を辞め、たった今、ヒュースウィットの剣士として立つレベル6――フィティー・ドルドベルク。
「やっぱり、お前のその目、気持ち悪いな。何?人の秘密を見抜く異能でも持ってるのか?」
シウムの洞察力に、思わず驚きそのままに問う。
「失礼な。こんなちっぽけなことが、固有能力なわけないじゃん。異能なら、もっと大きな恩恵を授かりたいねー」
「洞察力よりも、賢さと常識を頭に入れてほしいものだ」
「黙れ筋肉バカ。1個下の分際で文句言うな」
ラザホに言ってるのを聞いて思い出す。そうだった。シウムはうるさくて可愛いのではなく、うるさくてプライドの高い、変人だった。自分は可愛いと、国民に意識付けさせて、実際の性格を隠す。悪辣な性格である。常に呑気なのも、序列が関係している。ルミウとメンデ、ノーベが注意すれば、言うこと聞いて静まるが、それ以下は言うことを聞かない。
「ほら、そろそろ黙りなよ。始まるから」
「はーい」
更に差が出来た、リュンヌの末裔と神傑剣士。圧倒的な力に、シウムも素直になる。
そして始める大会。銅羅が鳴らされると、その瞬間、白黒のオッドアイが揺れる。して、次の瞬間、強烈な風とともに吹き荒れるフィールドに立つのは、相手を戦闘不能にしたフィティーの姿だった。
「な?意味不明だろ?」
風級剣技を扱うフィティーに、その固有能力も相まって理解を超える、初めて見るような剣技が披露される。
「あれは俺もすぐ越されそうだな。なんで他国の最強を連れてきたんだよ、イオナ」
レントよりもダムスが怯える。結局11座に戻ってくるんじゃないかと、内心諦めかけていた。
「知らない誰かに神傑剣士になられるより、良いかなって思って」
「ルミウとイオナが師匠なんだろ?んなの、どうやって勝つんだよ。無理無理、将来有望な10代が来たって、最悪だな」
「ドンマイ。でも全面戦争に勝ったら、更に5000万近くの国民が増えることになる。その上での神傑剣士の選抜は大変だろうな」
そうなれば、日々鍛錬に磨きをかける必要が、更に増えるだろうな。
少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです