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第二百三十八話 頼み




 立ったまま、口を微かに開けてポカンと。ノラは黙って俺を見続ける。何が起こったか、それは目の前を見ても理解は追いつかない。


 「俺は一応魔人でもあって、人間でもある。そして最大の力を持つ、創世剣術士だ。契約を交わせるほどの力を持つってことは、その逆も可能というわけ。呪い人の呪いは、その命を交わした契約と比べれば、とても優しくて可愛らしいものでな。それくらいなら、勝手に破棄出来るんだ」


 生まれながらに、何かしら神からの罰を与えられるのが呪い人。王族貴族に多いと言われるのは、この世界が【力】で物事を判断するからであり、力もないのに権力を握る人間たちには、天罰として呪いの子が生まれると言われている。


 現に、ヒュースウィットの神傑剣士の歴史を覗けば、誰1人として呪い人はおらず、王族には18名もの呪い人が生まれている。その呪い人に対抗するのは、やはり純粋に【力】を持った人間だ。


 「私の呪いは?」


 「勝手に破棄させてもらった。もしかしてダメだったか?」


 「いえ!そんなことはないわ。だけど……」


 「可能なんだ。それが俺だからな」


 「……だとしたら、貴方が契約をすれば良かったじゃない。それに、脅すことも」


 「俺は試したいことがあっただけ。それに、呪いの解呪に必要なのは、純粋な気持ちだ。濁りのない、迷いない気持ちで呪いを手放す必要がある。それをなくして、解呪は難しいんだ。もちろん、俺なら強制的に解呪出来るけど、眷族でも出来るか気になったから、シャナリーを使っただけ」


 「シャナリーを実験体に?」


 「否定はしない。けど、死ぬことはないから、安心はしてた。俺と仮の契約を結んだだけでも、その人間は呪いを無効とするからな」


 隣でスヤスヤと寝始めたシャナリー。精神支配は脳への負担が大きい。疲れてしまうのは当然だ。


 「ならルミウでも実験体にすれば良かったのに」


 「唯一暇だったのがシャナリーでな。出来るだけ、メンデとかシウム、エイルとかのうるさいやつらを実験体にしたかったけど、そんな余裕もないから」


 今は誰もが激務を背に動いている。全面戦争が近づくに連れ、それはより激しさを増すだろうし、余裕もなくなる。なんとか大会運営も順調だが、いつどこからその情報が抜けて、王国が混乱するかも分からない。


 なんで今になって……。


 「そんじゃ、教えてもらおうか?これでお前の言いたくない理由も消えた。必要とされたとしても、それは負い目を感じる理由にはならないだろ?」


 「そうね。でもその前に、本当に呪いが解けたのか確認していい?」


 そう言って、右腕を俺に向けて伸ばす。


 「今度は俺が実験体ってことか。了解だ」


 近づいて触れる。指差をつまむだけだが、それでも呪いは効果を発揮する。が、ノラの指先は、ただ温かいだけ。死を感じないし、俺はまだ地に立っている。


 「これで証明完了か?それとも、俺と血の繋がりがあると疑うか?」


 「信じるわ。本当に呪いが消えたことをね」


 「面倒な女じゃなくて助かる。これで、教える気になったか?」


 「ええ。私の固有能力は――レベリングギフトと言って、最大で7名の剣士のレベルを上げることが出来るの」


 「レベリングギフト……俺に似てるな」


 「違うのは、貴方の固有能力が剣技のレベルを、自分の剣士レベルに添わせて上げるのに対して、私のレベリングギフトは、その人の剣士レベルを1つ上げて、剣技を強化するとこ。単騎勝負なら、貴方が圧勝でも、集団戦なら不利になる可能性がある力よ」


 「なるほど」


 つまり、俺の能力は、心技の居合を蓋世心技として使えるものだが、ノラの能力は、レベル6なら蓋世心技の更にその上を使える剣士、我流剣術を使える領域に達するということ。


 流石に能力が付与されたからといって、その瞬間に我流剣術が使えることはないはず。しかし、レベルが6という限界を超えて7まで到達するのは、大きな戦力になる。


 「それ、めちゃくちゃ使えるじゃないか。御影の地に行く時、それを知ってたら連れて行こうとしたのに」


 「嫌よ。死にたくないし」


 「結果論、全てはカグヤの思い描いた通りの筋書きで、誰も死ぬことはなかったんだし、良かったんじゃないかと思うけどな」


 「そのおかげで、精霊種?ってやつらが戦争を始めると言うんでしょう?」


 「それも筋書き通りってことだ。遅かれ早かれ、ヒュースウィットは、他国の不満から殺されてたってことだしな」


 リベニアにサントゥアル。中々消えない爪痕を残した王国から怨嗟され、結果ナファナサムとかいう魔人を忌み嫌う王国からも目をつけられるなんて、悔恨極まりない。


 俺のせいでヒュースウィットで戦争を始めると言っても過言じゃない。ヴァーガンに逃がすことにはしているが、自国を崩壊させられるのは悲しいだろう。


 申し訳ないな。


 「まぁいいわ。貴方には借りが出来た。しっかり役目は果たすわ」


 「助かる。それと1つお願いだ。国王陛下に伝えててくれ」


 「何を?」


 「これから先、リベニア、サントゥアル、ナファナサムの3王国を――統べる準備を始めてくれ、と」


 この戦争、俺らが勝つ。その結果、敗戦した王国は、指揮官を失うことになる。国民は全員が悪いわけじゃない。助けを求められたら差し伸べるべきだ。


 相手は刀を向けるなら構わず殺す。それが、我が王国を救うための絶対だから。


 それからというもの、残り少ない期間で、俺はやるだけのことをやった。

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