第二百三十七話 第一王女
「これからどこに向かうの?」
会議も終わり、デートに誘った俺に、敬語は不要だと思って声をかけるのはシャナリー。
「忙しくして悪いんだけど、これからヒュースウィットの王族に会いに行く」
「え?王族?」
「少し調べてもらいたい人が1人隠れてるんだよ」
「なるほど?」
「ここにな」
歩き出してすぐ。会議室とも然程距離のない、王都内最奥であり、先日寄った部屋。
「ここは……」
「ここにはヒュースウィット王国第一王女、ノラ・ナーフェリアが居る」
「ってことは、第一王女が今回の調べる相手?」
「ご明察」
ノラ・ナーフェリア。表に顔を出すことは少なく、男を毛嫌う第一王女。常に穏やかでお淑やか。頭脳明晰でありながら、ホルダー製作も可能な稀有な存在。
そんなノラは、昔から俺に違和感を覚えさせてくれた。隣に立てば、座れば、どんな態勢でも力を漲らせる、その異能的存在感。俺はそれを怪しいと思ってから、ノラのありとあらゆることを調べた。
もちろん戦闘面以外で無能な俺は、ノラにそのことがバレて気持ち悪がられたが、確定に近い情報は得た。ノラに、固有能力があるのだと。
「ノラ、入るぞ」
「……どうぞ」
我ながら、カッコいいことや目立つことが好きだった時からの癖で、つい上の立場の者にも敬語を忘れる。シュビラルト国王以外に、俺の敬語を受ける人は居ないのは、少し反省点だと思い入室する。
壁際に座って、本を片手に足を組んで気品も威厳も皆無に俺らを招き入れる。これがノラの当たり前であり普通。
「何用かしら?」
「この部屋に、ノラが初めて見る女性と来た。つまりそれは?」
「……はぁぁ。私の能力を?」
「そういうことだ」
ノラは自分のことを知られるのが嫌い。王族としてどうかと思える存在なのだが、これまた仕方ないのだ。なんせノラは――呪い人だから。俺だけが知る、ノラの本当の姿。
ノラはそれを知られるのを危惧し、誰にも固有能力について話さない。気づかれるのも嫌だから、人前を避ける。
「何度も言うけれど、教えないわ」
「でも、体に触れさせれば、強制的に調べられる。お前の力は、今後の争いの力になる。貸してもらうためにも、調べないといけないんだよ」
固有能力を測定出来る人間は、この部屋に実は2人存在する。1人がシャナリー・テリア。もう1人が、自分自身を調べて以降、誰も調べない秘密の測定師、ノラ・ナーフェリア。
ノラの呪い人としての制約は、固有能力、測定師、レベル5の刀鍛冶としての力を得る代わりに、刀を製作したならば、その刀を持った人間を、そして、体に触れる人間に血の繋がりのない存在を、死に至らしめるというもの。
それ故、ノラは専属剣士が存在しない。王族が、そんな人であっていいわけがないから。
「……だからと言っても、私は公には現れないわ」
「そうか。ならその目で、死んで行く神傑剣士を眺めるだけなのか?無力のまま、自分の我儘を貫いてその力に縋ろうとしないのか?」
「……それは……」
「シャナリー」
「うん。――お初にお目にかかります、王女殿下。私はシャナリー・テリアと申します。以後、お見知りおきを。名を名乗って早々に申し訳ないのですが、固有能力を調べさせてもらいます」
強制的に調べさせる。つまり、体に触れるということ。血の繋がりのないシャナリーを、殺すということになる。
「待ちなさい。私に触れてはならないわ」
当然ノラは鋭く睨んだ。止めようと、殺したくないからと触れられることを拒む。
「無理です、王女殿下。これはイオナくんの命令なので」
「くっ!イオナ、何をしたの?!」
「端的に、精神支配だな。お前が調べられることを承諾しないならば、シャナリーは死ぬ」
「何を言っているの?!私に触れると死ぬことは、貴方には分かってることでしょうに!」
テーブルを前に、触れられないようにとシャナリーから距離をとる。壁際だから、それ以上後ろに下がれず、ノラは狼狽を激しくする。
「まだ分からないのか?無意味に、俺がそんなことするわけないだろ。俺は今はもう、人知を超えた生き物なんだ」
「何を……」
「シャナリーは今は人間じゃない。俺の眷族のようなものだ。俺は呪い人の微弱な効力で死ぬことはないから、それは色濃く引き継がれている」
「……死なないとでも言うの?」
「それは今から結果を見れるだろうな。俺を信じるなら、触れられてみろ。信じないなら、必死に抵抗を続けるんだ」
これは俺にも未知の話だ。眷族なんて初めてだし、契約を結んだわけでもない。ただ、ノラの呪いを解くために、俺が手助けしながら調べごとをしているだけ。
下唇を噛み、どうしようかと悩むその心の中で、ノラは覚悟を決めた。
「……分かったわ」
その場にて静止する。近づくシャナリーを、止めることなく受け入れる。それが、ノラの出した答え。俺を信じて、呪いを打ち消す。完璧だった。
ガシッと掴まれる腕。ビクッと体を跳ねさせると、ノラは目を見開いてシャナリーを見た。未だ触れ合い続ける手と腕。ノラは次に俺を見た。
「シャナリーには、ノラと俺との間に契約を結ぶための橋渡しになってもらった。俺の意識共有だけだが、眷族だとしても契約を結べるのかがな。それが見事に大成功だったらしい」
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