第二百三十六話 報告
「本格的に、最終局面って感じですね」
「イオナと御影の地へ向かい、殲滅する予定だったが、全力でぶつかり合うなら、避けては通れない。一応ここはイオナの生まれでもあるからな。守るというのは好きではないが、戦ってやるには気分悪くない」
「これで終わるなら、それだけで良いんだけどな。役目を果たせるなら」
俺たち創世剣士団の宿命は精霊種の殲滅による、世界平和だ。それを果たすためならどんなことも厭わず行う。しかし、それを終わらせた後、どうなるのかは今からでも気になる。
「取り敢えず、今することは4ヶ月後の戦争に向けて鍛えること。最終局面を乗り越えないと、後を考えたってどうしようもないんだから」
「だな。今までのをまとめると、4ヶ月後にここに攻め込まれる。そして精霊種と契約した7体の人間が居る。3ヶ国同盟により、圧倒的数で仕留める気で居る。ってとこだな」
多勢に無勢だな。俺たちがいたとして、相手は3ヶ国の剣士が集結している上での戦争。国民を守り抜くのは、厳しいだろう。ヴァーガンに頼むか、若しくは死ぬ気で守り通すか。問題点があまりにも多い。
「何かあればまた連絡し合えば問題ないだろ」
「そうだね。今は少しでも力をつけるべき時だし、あとの話は――」
ダンッ!とエイルほどではなくとも、扉を激しく押した瞬間的な音が鳴り響く。ホコリが舞い、誰もがその先に視線を向ける。
「やっほー、会議してるっぽいから入ってきたよ!って、メンバー凄くない?イオナにルミルミにカグヤ、エイルまで居るし。そして残りは誰?」
見て呆れたのが俺含め3名。慣れないカグヤと、はじめましてのフィティー、シャナリーは誰なんだと、固まって動かない。
「まぁ、とにかく、シウム・フォース帰国いたしましたー」
「……2人は?」
「工房に籠もるってさ。ちゃんと確保してきたから、緑奇石」
やはりあれを黒だと表現する人は居ない。
「そうか。助かる。んで?お前は何でここに?」
「少し気になることがあってね。それを報告しに来たんだよーん」
「気になること?」
「そう。大丈夫?何か話してたんじゃないの?」
「ちょうど終わった」
これ以上何かを聞いて、頭の中に警戒することとして入れたくないのだが、聞かなければいけない義務がある。
「なら、結構揃ってるし話そうかな。その前に、はじめまして、君は誰?」
目にも留まらぬ速さで開いてる席に座ると、即座にフィティーたちを見て問う。
「私はフィティー・ドルドベルクです」
「私はシャナリー・テリアです」
「なるほど、リベニアの王と固有能力測定する人か。よろしくね、フィティー、シャナリー」
相変わらず気持ち悪い。名前だけで相手がどんな人間かを瞬時に理解する洞察力は計り知れない。見事当てられた2人ら開いた口が塞がらないよう。
「フィティーに関してはイオナの弟子として知ってるし、シャナリーは測定する人の特徴として、人差し指と中指だけ気派が巡ってない。それを見分けただけだから、早く口、閉じてねー」
笑いながら言うが、これもまた、出会って敵でないことを探る神傑剣士の性格故のもの。目で見て、耳で聞いて、それを判断する。染み付いた癖。
「それじゃ私の本題ね。今回イオナに頼まれて、神傑剣士分の、質度の最も高い黒奇石を採掘しに行ってたんだけど、そこで気になることがあったの。それが、私たちより先に、その黒奇石が採掘されていたこと。これまではなかったって聞くし、急に2割も採掘されたから、忍たちも困ってたよ」
「採掘されてた……」
「これもお前の考え通りだろうな」
「ああ。それも、俺たちと同じ用途ってことだろうな」
精霊種も、刀の強化を始めたということ。ヒュースウィットの黒奇石に対抗するには、それが最善なのは確かだ。しかし他国に流通しない黒奇石をどうやって……。
「俺が採掘を頼んだ理由は1つ。我流剣術に刀が耐えられなくなるからだ。これから先、高度で至難の業を何度も使うことになる。その途中で刀が折れてしまっては死を意味する。そうならないよう、強化を考えたんだが、刀で優劣はつかないかもしれないな」
「本当に実力勝負ってことだな。苦しくなるな」
少しでも生き残り、精霊種に太刀打ち出来るようにと考えたことだったが、流石にサントゥアルまで肩入れしているとなると、意味なかったか。
「何々?結構ヤバそうな話っぽいけど」
「それらは後でルミウから聞いてくれ。後に全員に説明するだろうから、その時でもいい」
「はいはーい」
残りは実力を極めるだけの時間。迫る4ヶ月後。その日がどうなるのか全く検討もつかない。俺が死なないことも確実じゃないのだから、この世界が滅びることも考えられる。
「それじゃ、今度こそお開きだ。俺もまだ忙しいからな」
「分かった。私はカグヤと鍛練を積むよ」
「私はエイル様に王城内等のご案内を」
「私はお遊びに行ってくるよーん」
「わ、私は……」
終始無言に近かったシャナリー。開いた口は、震えたまま変わらなかった。
「シャナリーは俺とデートだ。少し付き合ってもらうことがある」
「え?わ、分かりました」
シャナリーがこの場にいたのは、正直今後のことを考えると大きかった。サポートとして使える人材を、発見していたから。
それから俺は、背後から向けられる殺意を無視して、シャナリーと扉の外へ出た。
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