第二百三十四話 完遂
「あんたが食事を済ませ、回復したならその時からシャナリーと共にこの王国を去る。理由としてはあんたの脱獄に、そろそろ気づかれてる頃だからだ。なるべく早くと頼みたいが、急がずとも私なら逃げられる。でも絶対ではないから、急ぐことは善処してくれ」
コクリと頷くと、再びマイペースにムシャリ始める。ボロボロだとしても一国の王。それを勝手に連れ出すのは、人生で最初で最後だろうな。
いくらルミウやシュビラルト国王の命令だとしても、罪に問われるのは避けられないだろう。今後はより過激に動くことになる。その際に、4ヶ月という期間が保証されなくなれば、私たちは死への道を淡々と歩くことになるかもしれない。
ここに来てイオナの違和感が解けたのは、最悪だったな。
謎の理由は全て、創世剣術士だったから、でまとめられる。バカげた力も才能も、判断力も出身も何もかもこの世界に生み出された神だったというわけだ。笑えてくるだろ。
「エイル様、店前の人たちはそれぞれ対応し終えました」
微笑するところで、シャナリーが戻ってくる。
「そうか。助かった。後はフィティーの回復が最低限出来たら、この王国とはさようならだ」
「えっ、もうですか?」
「ああ。ここには居ない方がいい。シャナリーもヒュースウィットへ連れて行くから、ここを閉める準備を整えてくれ」
「わ、私も?!」
「ここで死にたいのか?これからはこの世界が狂い始めるんだ。それを避けるために、あんたには出国する必要がある」
「…………」
ダメダメ国家でも生まれの国。生まれ育った王国に背を向けて、安安と退くなんてことは簡単とは思わない。しかし、リベニアという落ちこぼれ国家と罵られる王国に、いつまでも変化を求めず居続けるのも愚策だ。いつかは抜け出すか、改革するしかない王国。抜け出すのが懸命なのは間違いないのだ。
「説明はフィティーからされるだろう。その時に私も聞くから、理解してくれ。正直私にあんたへの情はそんなにない。でも、お前を大切だと思う人間はここに1人居るし、ヒュースウィットにも居る。その1人が今回あんたを仲介役に任命したんだしな。だから、それに乗っかって、ここから逃げ出せ。王国だからって、死を前に立ち向かうことはしなくていい。生き残って、これからに希望を抱くことが英断なんだから」
王国を大切に思うのは分かる。けど、何もせずに従って生きてるやつに、死を背負って戦うことは必要ない。必死に生きるのは、人間誰しも変わらないのだから、王国を捨てたって住む場所がなくなるだけだ。思い入れがあっても、死を前にそれに執着することはない。
「イオナくんとルミウ様ということですか……」
「そうだ。王国の剣士最高権力者と、世界の頂点に立つ実力者から、あんたもフィティーと共に連れ帰れと命令されているんだよ」
紛うことなき最強。私も抗いたいと思わなくなって3年ほどが経過した今、心の奥底では認めている2人。出会った善人を助けるのは当たり前という、正義感に満ち溢れた奇才。誰もが敗北してきた圧倒的な力を誇る剣士。その存在からの救済を断るのは、私なら無理だ。
「分かりました。まだ経営初めて2年弱ですけど、ヒュースウィット王国でまた始めれば良いですもんね」
「その点に於いては、私たちもサポートする」
生きてその場に居たら、の話だがな。
ってか、もしかしてシャナリーの不安なとこは、青果店を手放すことだったりしてな。そうだったら、これほど悩んで説得しようと頭を使おうとしたのは間違いだと思うんだが。まぁ、いいか。
「ありがたいです。一国に確か5000万でしたっけ?それだけの大国なら、今よりも繁盛しそうですし、やりがいはあると思うので行きましょう」
「そうか。納得してくれて助かる」
これで私もルミウにボコボコにされずに済む。
「後はフィティーの回復だな」
頬が膨らむほど溜め込んだ果物。食べるのを止めて、私たちを見ている。こう見ると、まだ歳下の若い子供だ。30歳を迎えた私には、幼気さまで感じる。
「好きなだけ食べていいが、その分回復はしてくれよ?」
「お腹は満たされてきました。気分も良くなってきたので、全回復までは1時間ほど必要かと」
「1時間?早いな」
「過酷な鍛錬の成果により、回復の早さは人並み超えてるので、これくらいだとすぐに回復しますよ」
絶対に過酷な鍛錬はルミウかイオナのせいだ。考えられるのはルミウだが、師匠だったイオナの線もある。しかし何にせよ、こうして時間が惜しい時に、おかしな力を発揮してくれるのは助かる。
「なら、シャナリーは自分の、私はフィティーの身支度を整える。一応密入国という形で、他国の神傑剣士がここに来てるから、見つからない服装を心がけてくれ」
リベニアならば、難癖つけて攻める期間を早める可能性がある。期間を設けたのには、きっと何かしらの準備に時間が必要だからだろうが、フィティーから捕らえられた理由含め聞くまでは解決しない。
任務遂行といってもいいが、帰るだけでも常に意識して動く必要がある。安心はしないが、重要人物を確保したことには、取り敢えず安堵する。
「出来たら食料も、ホルダーか何かに入れておいてくれ」
「分かりました」
こうして、依頼された内容を終わらせ、即座に帰国した。
少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです




