第二百三十一話 青果店へ
最近身の回りが激務になったと思っていた。ルミウとイオナ、そしてニアとシルヴィアが帰還してから、それはもう毎日の睡眠時間が4時間も取れないほどに。
その矢先、私にもついに直接の依頼が任された。
「人探しとか、不向きなこと私にさせるなよな」
リベニア王国にて、素性を隠して密入国した私は、確かな名前を頼りに青果店へと向かっていた。シャナリー・テリアとかいう、店主を訪ねろと。そいつに聞けば何かを分かるのだと、そう教えられたのだ。
だから大通りを大胆にも歩く。リベニアへ来たのはおよそ6年ぶり。国務でリベニアの第7座と出会った時だった。その時はまだ私も第7座にいて、あの現最強を名乗る男が来るまで長くその座に就いていた。
高圧的な態度をとったということで、リベニアから不評が飛んできた時は、腹を抱えて笑ったのが懐かしい。どいつもこいつも礼儀だの当たり前だの、凡事徹底も出来ない権力者に言われるのにはムカついたが。
そんな面影もないこの場所で、私はやっと目的地へ着いた。ヒュースウィットと比べて何倍も閑静な市街地。王都にしては静か過ぎるのも、ルミウの言っていた全面戦争への予兆か。
考えるのが苦手な私は、平民の服装そのままに青果店へ入店する。どこと比べても栄えているのは不思議だが、気にしては本来の目的を忘れかねないので、前だけ見つめて歩く。
入店して15秒ほど経過しただろう。1人の女店員を見つけた。青果店を1人で営むと言うのだから、間違いなくその女がシャナリーだろうと、確信して近寄った。
「なぁ、ちょっと良いか?」
「はい、何をお探しですか?」
タイミング良く接客を終えて、笑顔で対応される。
「お前の名前はシャナリーで間違いないか?」
「え?そうですけど……何故私の名前を?」
「友人から聞いた。いきなりで悪いが、少し2人で話したいことがある。良いか?」
「話ですか?でも、今は私1人でここの運営をしているので厳しいかと……」
「イオナからの頼みだ」
「え?イオナくん?」
明らかに目の色が変わった。ルミウから言えと言われた、信じさせる言葉だったが、全くその通りだった。あいつは名前までも使い道があるのだと、微笑を浮かべた。
「もう1度聞く。話せるか?」
「……分かりました」
「助かる」
店を1人で運営するのは厳しい。どうしても人手不足に陥るのだから。シャナリーは固有能力を測定可能な人間として裏では活躍すると聞いた。ならば、お金に困ることはないだろうに、不思議な店主だと思う。
それから少しして、シャナリーは店を一旦閉めて戻ってくる。話のためにそれだけするとは、イオナの名前も問題ごとのために有効なのだろう。
奥の部屋に案内されて、私は気にせず上がった。
「それで、何用ですか?イオナくんの名前まで出したってことは、それなりに重要なんですよね?」
「ああ。まず自己紹介だ。私の名前はボーリ・エイル。ヒュースウィット王国の第8座に座する神傑剣士だ。その上で単刀直入に聞く。王城の牢獄はどこにある?」
私の正体を聞いても驚かない。それは既にイオナを見たからだろう。残念だが、手っ取り早く聞けるのは大きい。
「王城の牢獄?牢獄は地下ですが」
「知ってるのか?」
「はい。一応私も王国への地下ルートは知っているので、そこが閉じられて居なければ、問題なく牢獄へは着くと思います」
ルミウが言っていたことを、たった今理解した。シャナリーなら王城に詳しいと、その理由が今明かされた。固有能力を測定出来る人間は稀有なため、それなりに秘密にされることがある。私の専属刀鍛冶もその1人であるため、それはとても良く分かる。
「ですが、何故エイル様が?」
「フィティー王女、いや、女王陛下が行方不明と聞いてな。もしかしたら可能性があるかもしれないと思っただけだ」
「フィティー王女が行方不明?!」
「ああ。今は内密にされているが、王権を握るのがフィティーではないことは確かだ。そのため、消されたか監禁されてるかの2択。私は監禁されてることに懸けたから、今ここに来ている」
「ですが、今はイオナくんやルミウ様といった、神傑剣士が居るのでは?」
「……ん?何故ルミウとイオナが?」
「2人はまだリベニアに居るはずですよね?御影の地へ行く前に挨拶に来ると言っていたので、それは多分確かだと思うのですが」
やらかしたな、イオナ。
おそらくはサントゥアルへ向かったことが理由だろう。サントゥアルから直行したと聞いたので、挨拶のことはすっかり忘れていたのだろう。強さはあっても、アホさは戦闘以外では通常通りだ。
「いいや、2人はもうヒュースウィットに帰国してるぞ。だからフィティーもその後に捕まったんだろうと推測してる」
「えぇ!本当ですか?!イオナくん、忘れてたの?!」
まぁ、これはあいつが悪い。慰めも宥めもしないが、同情はする。あいつに約束は無意味だ。興味ないことは忘れてしまう性格なのだから。
「しかも御影の地から帰ってるなんて、えぇ?どれだけ凄い人なの……」
誰しも、イオナを知る人は今のイオナに驚く。人間を超え、魔人を超えた力。生命の頂点とでも言うべき存在。あれはもう神だな。
「イオナへの思いは理解している。バケモノに対する感想も皆同じだからな。だからそのバケモノがバケモノで有り続けるために、その他の雑用やサポートは私たちの役目だ。シャナリー、私を牢獄に連れて行ってくれ」
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