第二百三十話 頼み事
精霊種。やはり関係しているのだろうか。可能性は大いにある。御影の地で、契約して魔人にした人間を殺されたならば、気づかないことはない。人間を諭したか……。
「俺たちも、まだ勧誘を受けた程度ですから、豊富な情報は知り得ません。手がかりがあれば止められるのですが」
「断ったならば、ヴァーガン王国も敵ということですか?」
「そうなります。なので、恥ずかしながら、助けを求める気持ちも皆無ではありませんでした。申し訳ありません」
「いえ、等価交換ですので」
力が増えるのはそれだけ大きな支えだ。守る人間が増えるのは少し問題点だけど、その分精霊種と契約をしなかった人間の相手は出来る。
全面戦争ってことかな?
人間を殺すのは好きではない。悪人を殺すのに慣れてしまったけど、それでも刺し殺す感触を好みにはなれない。断末魔も慟哭だって聞きたくない。だけれど、そうするしか生きる道はないのだから仕方なく振る。
大きすぎる壁だ。全面戦争ともなると、それだけ多くの人を殺す。相手が神傑剣士だとしても、世界唯一のリュンヌの剣士である私が負けることはほとんどない。ならば、カグヤとイオナは当然凌駕し蹂躪するだろう。
懸念点はその最強2人が、精霊種に足止め、または殺されること。ないだろうが、そうなれば私たちの死は確定する。
もしかしたら、その未来しか見えなかったから、リベニアは仕方なく契約して、生きる可能性を見出したのか。賢くても賢くない。他力本願な国家に染まりたくはないね。
「これからの行動についてですが、ヴァーガン王国はどうしますか?北、東、南を敵に囲まれたヒュースウィットが襲われない限り、西のヴァーガン王国は襲われません。対応を聞いて動き出しますか?」
「いえ、神傑剣士全員と神託剣士を半分、ヒュースウィット王国へ入国させたいと考えてます。待つだけは性に合わないですし、そこで止められなければ、どの道崩壊ですから」
「そうですか。ならば、それに従い、国王陛下に許可を貰いますので、後々伝えます」
「ありがとうございます」
一国に24名の神傑剣士。前代未聞だ。相手には36名もいるが、その中にレベル5は1人は存在する。勝ち目がないことはない。戦うならば正面から叩き潰す。それだけ。
やはりそれだけで終わるようには思えない。情報漏えいから、フィティーの行方不明。同盟に襲撃となると、1つの緒で解決は難しい。
何が起こっているのか、私には荒れ狂う嵐の中で立ち尽くすしか選択肢はなかった。
「では、俺たちも何か分かり次第、報告いたします。同盟に関しては正式な書類を送らせていただきますので、目を通し、許可をお願いいたします。早くても4ヶ月は準備に時間は必要だと考えてますので、まだ猶予はあります。ごゆっくり決断を」
「はい。ところで、その4ヶ月という数字はどこから?」
「リベニア王国の使者です。これから4ヶ月ほどの時間を経て、攻め込むとの勧誘でしたから」
「そうですか」
長い。それだけの期間がないと、信頼関係を結べないわけでもない。隠している。やはり契約か。隠密部隊を送り込むのも難しいだろう。多くの剣士が揃うのだから、それだけ猛者も居る。
「では、俺はここで失礼します。良い報告をお待ちしております、ルミウ様」
「はい」
そうして私とワルフの密談は終了した。
「ふぅぅ。面倒か……」
頭を抱える問題ばかりだ。どうして私にばかり……。
何もかも、私ばかりの問題ではないが、私に解決しろと押し寄せてくるようで、裏切れば罪悪感が生まれる。人の命を懸けた戦い。負けられないからこそ、第1座なのだろうが、責任が重すぎる。
イオナ……よくこの重圧に耐えれるね。
自己解決は無理だ。四方八方と問題が山積み。ならば、ここは他人の力を借りる他ない。まずは優先順位で動くとする。
「外で待つ神託剣士に命ずる。すぐに第8座ボーリ・エイルをここに連れてきて」
「かしこまりました」
まだ若い。私よりも3つ歳上の女性剣士。護衛というか、見張りにはいつも女性剣士を選ぶ。理由は単純に男性が好ましくないから。弱い男性には心底興味がない。それだけ。
しばらくして、扉がノックされる。
「ルミウ様――」
「入れていいよ」
「はっ!」
激しく扉を開けないのは、1年前からの成長か。ガタッと開けられる先に見える、私よりも少し低い身長の第8座。女性剣士の序列4番目の特異体質持ちだ。
「こんなとこに呼び出してなんだ?説教って雰囲気でもなさそうなんだが」
「いいから座って。君に頼みたいことがあるから」
「頼み事?面倒なのは嫌だぞ?」
「それでも頼まれて。絶対遂行しないと、私は君をボコボコにする」
「……そうかよ」
いつもと変わらない、高圧的な態度は見て見ぬ振りして、圧をかけて抑える。
「早速だけど、これからリベニア王国に密入国して、フィティー・ドルドベルクという王女を探してほしい」
「人探しか?」
「そう。リベニアで唯一王族の血を引き継ぐ重要人物でね、監禁されてる可能性があるから、見つけ出してここに連れ帰ってほしいの」
「なるほどな」
「お願いするよ。拒否は聞かない」
「第1座から第8座への依頼だろ?んなの断れないからな。仕方なく受けてやる」
「ありがとう。助かる」
見つかれば大きな情報だけど、見つけられなければそれもまた大きな情報となるだろう。
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