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第二百二十九話 使者




 着々と大会への準備が進むこの頃、私はカグヤとの鍛錬を中断して、ある人間に会っていた。珍しく久しい、他国からの使者。その対応に追われていた。


 「何用でしょうか」


 神傑剣士だけが入室を認められる応接間。それぞれ神傑剣士に与えられており、他国からの指名や自分たちが使う必要があると判断した時のみ使う部屋。私はそこで問うた。ちなみに人生で3度目だ。


 「はい。まずは自己紹介をさせていただきます。我が名はワルフ・タルガー。ヴァーガン王国の第1座を務める神傑剣士であります。その上で、ヒュースウィット王国第1座ルミウ・ワン様に申し上げます。最近、リベニア王国とナファナサム王国、そしてサントゥアル王国の3カ国の動きが何やら怪しいのです」


 無精髭を生やし、齢30前半といったとこか。豪胆な様子を伺わせるその表情は、私もそれなりに敬意を払う。


 「怪しい?どういうことです?」


 「はい。俺の耳にも届いているほど知れ渡ったことですが、最近ルミウ様は、同じ神傑剣士であるシーボ・イオナ様、そして刀鍛冶であるシャルティ・ニア、シルヴィア・ニーナとともに御影の地からご帰還なされたとか。それに関することですが、何やらリベニア王国の貴族が言うには、魔人を引き連れて帰ってきたと聞きました。その噂が広まり、3カ国の動きが活発になり始めているようなのです」


 「……なるほど」


 信じられないことだ。御影の地から帰還したことは知られていても当然。しかし、カグヤのことはヒュースウィットの神傑剣士と王族、専属刀鍛冶しか知らない。それなのに他国にバレるのは変だ。


 リベニアと言えばフィティーが統べる王国。フィティーが情報漏えいとは考えにくいため、どこから漏れたのかは気になる。


 「それで、活発というのは具体的にどのようなことなのですか?」


 「同盟です」


 「同盟?」


 「我が王国にも使者が来ていわれました。同盟を組んでヒュースウィットを引きずり下ろそう、と。当然お断りしました。ヒュースウィット王国は最強国家であり、刀を向けるべき相手ではないのですから。しかし、3カ国は既に手を組んでいるとのことでした。つまり、盤石な体制を整えて、いつかはここに攻め入るということです」


 「…………」


 バカだ。そんな大群で攻め込む。しかも人間たちが?あり得ない。しかし、ワルフは嘘を言っていない。どういうことだ?分からない。何故人間に鋒を向ける?


 「そこでです。俺たちヴァーガン王国は、ヒュースウィット王国と同盟を結びたいのです。今回ここにお邪魔した本題はそれです」


 「……何故です?不利な戦いを強いられるのに、それに加担しては意味がありませんよ?」


 「いえ、我が王国はヒュースウィット王国を見捨てはしません。何年も交易を交わした王国であり、友好国でもあった一国が攻められているのに、ただ気持ちだけで応援とは納得が行きません。国王陛下同士、仲が良いことも周知の事実。同盟を結ぶには、それだけでも十分でしょう」


 淡々とメリットはないのに協力すると言う。まだこの状況を理解しきれない私でも、その覚悟は並のものではないとだけはっきりと分かる。


 背負うのは3カ国からの死。それでも立ち向かおうとするほどの信頼関係。ヴァーガンはヒュースウィットに必要不可欠だということか。


 「そうですか。ではその前に、ワルフ様が知る、それらに関する情報を教えていただけないでしょうか」


 「もちろんです。まず、大前提として詮索は致しませんが、魔人を連れ帰ったこととして話を進めます」


 「はい」


 カグヤは人間だ。魔人として括られる場所にいただけの。しかしもう1人は違う。イオナは魔人であり、魔人ではないとも言える曖昧な存在。言い訳は通用しない。


 「だとしたら、3カ国の同盟は確実にヒュースウィット王国を襲います。聞けば、リベニア王国は亡くなられた国王陛下に代わって国政を担った人間が、最強の王国を目指すと言って反旗を翻し、サントゥアル王国は、ヒュースウィット王国に恨みを抱く人間が国王として王座に座り、ナファナサム王国は、魔人を忌み嫌う猛者たちの集まった対魔人協会を設備しているらしいのです。全てがヒュースウィット王国への何かの問題点を感じて動き出すということになります」


 ナファナサムの対魔人協会……初めて聞く。


 確かに言われてみれば納得するような内容だ。何よりも気になるのはリベニア王国だ。


 「その、反旗を翻したリベニアについてですが、王座にはフィティー王女が座るのでは?」


 「それが、フィティー王女は現在行方不明となっているようです。そのため、仕方なく王座に座った貴族が、そのまま反旗を」


 「…………」


 行方不明……。おかしい。リベニアにはフィティーに勝てる人間は存在しない。反旗を翻したのなら、それに従って捕らえられた可能性もあるが、逃げれもしただろうから一概に答えは言えない。


 面倒が増えるのは大嫌いだ。今では力をつけるのに忙しいというのに、どうしてこうも邪魔をされるのか。


 「……どうやってその話が広まったのかを、正確に知りたいですね。でないと、ヒュースウィットの潔白を証明出来ないですし、何よりも恨みをぶつけられる謂れはないですから」


 上に行くためにヒュースウィットを潰す?あまりにも直球でバカだ。絶対にその裏に何かがある。見つけるべきだ。

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