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第二百二十六話 承諾




 限界は知らない。人間の耐えれる基準なんて、何年も前に忘れたのだから。拷問のように続くこの一方的な攻撃は、私自身好みでもない。ルミウを信じて斬り込んでいるのに、反撃は来ない。


 やはりこの程度では……。


 精神的に耐えられないか、脳が本能的に死を覚悟して機能停止しないように斬り続ける。まだ戦えると思っているのがルミウの唯一の救い。それが読み取れなくなれば、つまりは死への道を歩むことになる。


 常に動き続けて痛みを加える。叫ぶこともなくなり、外見では健康体に見える体も、中身はボロボロ。立つのもやっとで、意識が保たれてるのも奇跡。15分耐えれるのは、この世界ではイオナだけだろうか。


 イオナは15分の時間を反撃する。逆に私が死を感じるほどの力を持つため、今はどうも足掻けない。御影の地へ来る前ならば勝てるが、解放された真の力には屈する。


 3分が経過した。1000を優に超える死を与えても尚、ルミウは立っている。斬られるだけの案山子だが、意識は残っている。意地でも耐えるつもりなのだと、その食いしばる歯から伝わる。


 「ルミウ、残り12分だ」


 今の痛みが後4回続く。その絶望を加えてやる。ただでさえ早く終われと思い、後悔を始めたというのに、今はまだ3分しか経過していないのだと教えられる。ムカつき、壊れ始める。


 剣士が一方的にボコボコにされるのは見ていて気持ちがいい。それは昔、私たちを人間として認めず、御影の地へ追いやった過去から思う。しかし、今はその気持ちも薄れた。ルミウをボコボコにしても、それが当たり前なのだから思わない。ただ、反撃しないかと待っていた。


 不可視なだけで、気派の刀は受け止めれる。もちろん刀に気派を纏わなければ意味はないが。


 私は思いながらヒントを与える。私の思考を読めるのはルミウだってそうだから。そしてその意図を汲み取れば、どうすればいいかも自然と分かる。それが星座の頂点だ。


 体をふらつかせながらも、ルミウはホルダーに手を伸ばして刀を握った。両手に一本ずつ。これで二刀流の、リュンヌの末裔としての真の力を発揮する。


 「――おらぁ!!!」


 瞳が右往左往、最速最短で移動する。私の先を読んで対応しようとしてるのだ。


 それからすぐに、キンッと音は鳴った。一瞬だったが、私の刀が受け止められたのだ。しかし、それだけで、連撃は止むことはなく、続けて痛みを与え続ける。


 見事だった。これでイオナに続いて2人目の受け止めた者の誕生。1回、死を逃れることに成功した。そして天性の才能は、これだけで終わり、奇跡と呼ばせはしなかった。


 分を跨ぐごとに増えていく接触音。息も荒々しく、足も全く動かないほど筋肉も疲労している。それでも膝は決して地面に着かず、私の刀を目で追って先を読んだ。


 10分後。1秒に12回死んでいたルミウは、気づけばなんと10回に減らされていた。私は変わらず本気で殺しに向かってるが、防がれる数は増えていった。


 そして15分後。私の体がその場に止まった時。ルミウは未だに倒れず刀を握っていた。


 執着……か。


 時々垣間見えたルミウの思い。死が近づきイオナを思い返すと、その度に力が増した。抵抗しようと、死にたくないと、イオナへの異常な想いが今のルミウを立たせるほどに。


 「……合計1万1092回だ。予想では1万5000回が最低だと思っていたが、お前も人間らしくバカげた対応力を持ってるんだな」


 気持ち悪くてもバカに出来ない。予想を4000近くも耐え抜いたのは、それだけ私の刀を凌いだということ。悔しさはあるが、興奮も高まった。ルミウには未来がある。それを支えれるのは1つの価値だったから。


 「最初から二刀流で対応していれば、今よりも苦しくなかっただろうに、何故そうしない?」


 「……戦いやすくても、体力の消費が激しいんだよ。15分間も君の全力に耐えられないから」


 「ほう。リュンヌの末裔も、そんな重みを背負っているのか」


 「まぁね」


 「しかしよく耐えたな。死を選ばなかったのは褒めてやろう」


 「嬉しくないね。死から解放されたことの方がよっぽど嬉しいよ」


 「だろうな」


 絶対的な死ではなかった。助かることが見えていたから、ルミウはそれを希望に耐え抜けた。もし、これが死を選ぶまで続くのなら、5分も経過せずに息を忘れて屍となっただろう。結局は優しさ、か。


 「何してんの?」


 倒れるルミウと、空気中に座る私に声が届く。若い青年の、最強を誇るには似合わない爽やかな声音。タイミングのいいことだ。


 「ルミウの特訓だ」


 「ルミウの?これから先は連れて行かないって言ったよな?」


 「お前が許可をするほど、私が育てればどうだ?」


 「……珍しいな。でも、ルミウは無理だ。リュンヌとしての才能があっても、これから先に立ち向かえないだろ」


 「どうだろうな。お前も言っただろ?最低でも我流剣術士じゃないと戦えないと。なら、そこまでなら連れて行く範囲内だろう?」


 「……なるほど?……それで、ルミウはいいのか?」


 「うん。私は君だけが拠り所だから、いつまでも付いていくよ」


 「そうか。だから最近ここを使ってたのか」


 「まぁな」


 許可するとは思っていたが、激しく抵抗されるとも思っていた。しかしそんなこともなく、すんなり受け入れたのは、感化されていることも理由の1つなのだろう。

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