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第二百二十五話 鍛錬方法




 ヒュースウィットという、世界で最も栄えた王国へ足を踏み入れて早くも1週間。ルミウの師匠として刀を握ってから、私たちは何度も模擬戦を繰り返していた。


 そして今、145勝0敗でルミウの前に立ち、未熟過ぎる気持ちと剣技を叩き潰していた。


 「お前が得たいのは力だろ?なら雑念は捨てろ。イオナと一緒に行きたいから。それは何よりも必要ない。イオナと一緒に行くのを目的にしてるんだから、そんなのいつでもどこでも考えれる。ただ貪欲に強欲に、今を見て強くなれ。無駄は省くんだよ」


 ルミウには大きな欠点があった。それが毎度目障りなほどのイオナへの想いだ。これが心底面倒。強くならないと隣に立てない。嫌われる。私は弱いのか。と、ネガティブになって、自分を自分として認めたくなくなる。成長段階で最も気持ち悪くてゴミな想いだ。


 人間の成長には、気持ちは直結する。意欲があればそれだけで価値は生まれる。しかし今のルミウには、その価値を見いだせるほどの意欲はない。常にイオナがどこかに隠れてるのだ。


 どれだけ歪めたんだ?あの無感情男は。


 「やってるよ。けど、忘れられないんだよ」


 「……お前は本当に子供だな」


 才能はあっても、それを活かせるかは人による。リュンヌの末裔ならば、それくらいは息をするように簡単かと思ったが、邪魔がある。これも運命ならば、笑えるな。


 「もういい。ここからは強制的に忘れるほどの鍛錬を繰り返す」


 「それが言ってた、死を目の前にするってやつ?」


 「ああ。多分、死んだ方がいいとお前は思うだろうな。これから30分、いや15分でいい。その時間でお前と真剣勝負を続ける。私は刀を握らないから、お前は常に本気で来い。私は15分間攻撃を止めない。それにお前は死ぬこともない。だから、気にすることなく刀を抜け」


 「いいの?刀を握らないなんて、時間操作も出来ない君だと不利にならない?」


 「リュンヌの末裔が、この世界が創られて以来歴代最高の剣士によくそんなことを言えたものだ。私は創世剣術士だ。覚えてろ。お前じゃ私には絶対に勝てないのだと」


 慢心などはしたことはない。仲間が死んでから、どんな相手にも常に実力差を正確に調べて戦うようになり今に至る。ルミウは過去の中でもトップクラスの実力者。本気で殺しに行くつもりで気派を扱う。


 「そう。なら良かった。死を目の前に出来そうで。ちなみに、刀を抜かないで、エアーバーストを持つ私に、気派だけで死を感じさせれるの?」


 「余裕だ。多分1分後には死ぬことはないと思っても、死ぬことを覚悟するほどには限界に追い込まれる。それが残り14分続いて解放だ。だから精神を破壊されないよう気をつけろ」


 「そう言われると、言葉だけでも冷や汗が出るよ」


 「そうかよ。ほら、構えろ。15分の苦しみ鍛錬始めるぞ」


 久しぶりの本気だ。刀を抜かなくても、本気で動いて殺しに行く気持ちを持つのは何年前の話だったか。思い出せないほど前の話。私は感覚に頼って気派で不可視の刀を創り出した。


 「準備はいいか?」


 「ふぅぅ……。いつでも」


 イオナ以外には深呼吸なんてする意味はない。結果は変わらないのだから。


 「では始める。この短刀が地面に落ちた瞬間スタートだ。精々足掻けよ?」


 「善処するよ」


 イオナが頭の中に居るのなら、考えられないようにすればいい。痛みは死を想像させる、本能的に嫌われた感覚。その真っ只中で想い人を浮かばせる余裕なんてない。イオナが出てきた時、それはルミウの死の寸前だ。つまり1分後くらい。


 その時まで、精神が保たれるといいが。


 私は短刀を握り、フワッと空へと投げた。何回転もする短刀に目を向けず、落ちた音だけで動き出す。ルミウも同じ考えで、必然的に睥睨する。


 そして鋒が触れると、私たちはともに差なく動き出した。ルミウは移動速度が人並みを超えている。私よりは遅いが、王国のトップを担うには十分な速さ。目で追い続けるのがデメリットだと思わせてくれる。


 しかし、それだけ。速さには付いていけるし、それは攻撃に加えないと無意味だ。私は甘えることを許さない。これは、この先のルミウの生死を分ける問題なのだから。


 始まって2秒。私は地が凹むほど蹴り、ルミウの首元へ、気派の刀を通らせた。不可視でありながらも、実態はなく、ただの刀を握ってるように演じてる人だが、それは見てる側の話。


 「――うぁ"ぁ"!!」


 けたたましいルミウの叫び声。これは実態もなく、ただの空気の刀のようなもの。しかし、私はこの刀で、自分のオリジン刀ほどの痛みを与えれる。つまり、斬り傷はつかないが、本当に斬られたような痛みだけはするということ。


 これが、死なないが死を感じるという私の地獄の鍛錬だ。


 そして叫んだ時点でルミウは地獄への第一歩を踏み出したも同然。もう私を捉えることは出来ない。私は次から次に斬り込んだ。首はもちろん、頭部や腹部、四肢も何度も斬られた感覚を味あわせた。痛みだけが全身を駆け巡る。


 それに対してルミウは気派を操作して耐えようと必死になる。目で追えなくても、全身を守れば最小限に出来ると考えたのだろう。誰でも思いつく考えだ。


 しかし私は連撃を止めない。まだ1分にも満たない時間で、早くも3桁の死を重ねているルミウ。体も斬られるたびにふらついている。これは15分は厳しいかもしれない。

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