第二百二十二話 ノラ・ナーフェリア
「入るぞ?」
王城内。基本王族の家系が住むこの場所で、俺はシュビラルト国王の部屋ではなく、その娘であるノラ王女の部屋を叩いた。
「どうぞ」
明るく澄んだ声音。ルミウとは違い、可愛げがある。
承諾されて俺は扉を開く。そして閉じた時、シャンデリアで明るく装飾された部屋の中を歩いて、俺は椅子に座るノラの近くに寄った。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ええ。とても元気だったわ。貴方のこと、そしてその他の剣士、刀鍛冶のことを心配して寝れない日はあったけれど」
机の上に置かれた紅茶を飲み、見るからに甘そうなケーキをお皿に取り分ける。健康体そのものであり、ルミウの見過ぎでおかしくなってるが、150前半の小柄な体躯は21歳らしく可愛げがある。
「何しに来たの?その目のことを報告しに来たわけではないでしょう?」
俺の顔を一切見ずに、左目のことを知ってると言う。国王から聞いたのか、話が広がるのは早いらしい。
「今後の活動についての手助けを頼みたい」
「手助け?」
「俺が神傑剣士を抜けることは聞いただろ?それに伴って新たな星座を決める必要がある。そのために近々大会を開きたいんだ。だから、闘技場の使用許可はもちろん、大会中に使う刀や防具の手配を頼みたい」
「なるほど」
ノラは王族でありながらも、闘技場に関することの国務を担う。俺たちが一騎打ちで闘技場を使用した際も、テンランからノラに話を通して、様々な準備を整えてもらっていた。
刀鍛冶として、優秀なのはシルヴィアやニア。しかし、それに引けを取らず、王族として権力を持つノラは、王国中の刀鍛冶の頂点に立つ存在。なので、刀に関することは網羅しており、手配も容易く行えるという完璧な王女様なのだ。
「大変なお願いね。フリードの時は学園の生徒だけだったけれど、今回は全剣士が対象なんでしょう?それだけ人を集めるのは、大会日数も増えるわ」
「流石に全員を勝負させない。レベル5以上の剣士に限定して、多くを絞る」
「だとしてもよ。この王国にレベル5は1万を超えるほど居るのよ?」
「大丈夫。闘技場への入場門は全部で12ある。その全てに現神傑剣士が立って、参加するに値すると判断した者だけをエントリーとする。そうすることで、数を1000には減らせる」
「むちゃくちゃね」
「それでも、俺たちが選ぶと事前に伝えれば、参加しようとする人は減るだろ」
「そうね。私は広報担当は嫌よ?貴方がしてね?」
「王女様には面倒押し付けねーよ」
自分で考えたことだ。誰かに迷惑をかけることは許されない。身勝手にも神傑剣士を脱退する者として、既に王国へ迷惑はかけているのだから。各王国への抑止力となる存在が消えるのは大きいことだが、被害は最小限だ。
「ならいいわ。お願いはそれだけ?」
「ああ。多くは頼む気なかったしな」
「なら少し座って、私と話しましょう」
「え?なんで?暇なのか?」
「拒否権はないわ」
「いいけど、珍しいな」
突然のお誘い。王女という、自分より上の権力者である稀有な存在に抗うことは出来ず、俺は不思議な気持ちを胸に座った。
ノラは男性が嫌いだ。苦手ではない。嫌いなのだ。だからこうして俺と話すことも、本当は嫌なはず。何かしらの理由があるのだろうが、それほどのことかと、違和感を覚える。
何を言い出すかと待っていると、座ってすぐだった。
「その目の力はどういったものなの?カグヤは時間操作の力を、場所は限定されるけれど使えると聞いたわ。創世剣術士は唯一無二の力を持つと聞いたことがある。それが本当なら貴方も何かしら特別を持ってるはず」
「目の異能か。端的に言えばただの力だ。俺は特出した特別は持ってない。その代わりに、シンプルに力が与えられてるんだ。誰にも負けない、その肩書き通りの最強をな」
よく知っていた、いや、分かったものだ。人知を超えた才能があると言われるノラならば、そんなこと息をするように簡単なのかもしれない。それでも、誰にも言ってない目の異能に気づくのは王女として完璧だ。
「つまり、貴方は誰にも負けない力を持つ、と?」
「そういうことだな。精霊種がどんなやつらかは知らない。だから今から余裕だとは言えないが、多分勝てる」
「勝ってもらわないと困るわ。私はまだ生きたいのだから、責任転嫁のようで申し訳ないけれど、無力な私には責任を全うすることは出来ない。だから信じてるわ。その力を以て滅することを」
「善処するが、絶対は無理だ。確約は出来ないから、そこんとこ覚えててくれよ?」
「大丈夫よ。貴方なら勝てるから」
「重く乗せるな、王女様は」
微塵も心配していないように紅茶を飲む。ケーキもフォークで食べやすいように分けて食べる。やはり変わりなく男は嫌いらしい。
「信じてるだけよ。貴方のことはテンランに拾われた時からの仲だから、よく分かるもの」
幼い頃とは言えないほどの年に、俺はテンランに育てられ始めた。だから、それを人生スタートとするなら、俺とノラは幼なじみだ。
「だったら、その嫌いでーすって雰囲気出すの止めてくれよ」
「貴方のことは嫌いじゃないわ。男たちの中では飛び抜けて1位よ。でもそれだけ。友人としても、貴方は私に構ってはくれなかった。その分情は薄いわ」
「なら今から厚くするか?」
「嫌よ。色んな方面に軋轢を生みたくないもの」
「意味分からないな」
「別に分からなくてもいいわ。それが貴方らしい」
過去の俺の、王女様に対する不敬を思い出させるお茶会になってしまってるが、まぁ、時間はまだあるし大丈夫だろう。
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