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第二百二十話 希望




 自分が半分魔人だということは隠していたらしいから、偽りを演じていたのだろう。これは、リュンヌの末裔だということを隠していたが、イオナを信じてイオナにだけ言ったルミウは精神的に辛いものがあるだろう。


 何故、イオナは私に教えてくれなかったのか、と。


 大切だから教えられなかった。魔人と聞けば、この国が揺れ動くことになるから。多分そんなとこだろう。無駄に優しさを人間らしく詰め込まれたイオナだから、それが分かる。


 「どうだ?信じる気になったか?」


 「…………」


 目の前に座っているのに、どこか遠くに感じる。寂寥に包まれたか、その暗くて今まで苦難を1人で乗り越えてきたような雰囲気は、次第に飲み込まれようとしていた。


 「お前は親も師匠も存在しない。だから唯一の縋れる存在がイオナだ。しかし、そのイオナからも存在だけは認められて、好意も何も向けられていないと知った。イオナの側に居たのも、肩を並べて戦えると言われるのが嬉しかったから、それを国民に知られたかったから、そして最終的には自分のものにしたかったから。いかに強欲といえど、それを聞いてまだ隣に立ちたいとは思わないだろう?」


 裏切られたといえば、それはスッキリとした解決方法だ。しかし、これはイオナの裏切りではない。元々イオナは人の気持ちを知らないから、見様見真似で、偽りを本当にした。


 今は亡き2人の創世剣術士。あの2人の冗談を言う影響を受けたイオナは、少しだけ女性に対しての茶化して接する方法を学んだ。それが顔と実力と相まって好意を抱かせたのだが、世を生きるため、そして私たちを遠ざけた人間が裏切りと思っていると思うだけで、イオナは悪いとは思わない。


 「所詮は好意で側に立つだけ。そんな人間が、これから先の難所を乗り越えれるわけもない。実力は最低限あっても、これから3ヶ月で私に追い付くことすら不可能だ。諦めて、刀を振るのはこの王国のためだけにするんだな」


 厳しい現実。この世界に0.1%も存在しないレベル6。そしてその中で固有能力も持つ者は片手で数えられるほどの数しか存在しない。そして何より、リュンヌの末裔として二刀流も扱える存在は唯一無二。なのに、それでもイオナの背には届かない。天と地ほどの差を、目の前に感じるのが世界で最も優れた剣士の多い王国――ヒュースウィットとは、皮肉なものだ。


 未だ項垂れて一言も喋らないルミウ。私は黙って待った。


 「……確かにイオナが唯一の拠り所だよ。愛しているのも間違いはない」


 低く落ち込んだ声音から、声を荒げて続ける。両手からは途轍もない気派が流れる。手のひらに指がめり込みそうなほどだ。


 「だけど、付いていくかは私が決める。私には失うものは何もない。イオナが死なない存在ならば、私には失うものは一切ない!」


 「ほう。それで?それをイオナが許すとでも?」


 「いいや?許さないだろうね。一応は私を大切にしているってことで、体裁を保ってるらしいから」


 自分が好かれてないことにもイラッとしたらしい。言い方が分かりやすい。まだ21かそこらの歳だったか?歳相応とでも思っておくか。勘違いも可愛らしくて煽るのが楽しい。


 「でも、許されなくても私は抵抗するよ。3ヶ月あれば私は我流剣術士にはなれる。リュンヌの剣士として、近い実力は持ってるんだからね」


 いいや。もうリュンヌの末裔の時点で我流剣術士と同等なんだがな。それは言わないでおく。


 「で?」


 「君にお願いがある」


 「師匠になれと?3ヶ月でお前を鍛えろと言うのか?」


 「その他に道はないんでしょ?私はイオナに好かれてなくても構わない。感情がなくても構わない。拠り所である1人を、私から遠ざけるのは私が許さない。君にどれだけ何を言われようとも、私は私を貫く」


 絶対、か。


 「死ぬぞ?」


 「御影の地で覚悟は決めてたんだ。今更死を恐れてどうするの」


 「嫌われるぞ?」


 「イオナが生きてるならそれでいいよ」


 「ふっ。我儘な子供だな」


 壁を破るなら、付き添うと決めていた。いや、その選択肢しかなかっただけだ。私がそうさせただけ。元々ルミウという、過酷な人生を送ってきたが故に愛の重い女が引き下がるとは思ってなかった。可能性すら未来には残されてなかった。


 流石はイオナの選んだライバル。


 「良いだろう。10回ほど殺してやる。その上で、最低限戦えるようになれば、お前を連れて行くようイオナに進言してやる」


 「10回で足りるなら、道はそう遠くない」


 「生意気言うな」


 私と比べれば何年違うか。ざっと250年か?長い時を経ても、私の中の負けず嫌いは消えないらしい。醜くも、ルミウというイオナに選ばれし人間を支えるとは、金輪際ないだろうな。


 「ありがとう、カグヤ」


 「感謝するな。気持ち悪い」


 心底嫌いだ。人間が揃いも揃って感謝なんて。似合わないだろ。昔の人間と違うとはいえ、一緒だと思っていたが、そうでもないらしいなんてな。


 はぁぁ。


 「1つ訂正だ」


 「何?」


 「お前、さっきイオナのことを体裁を保つとか言ってたが、間違いだぞ。イオナは憎悪を持つ。その影響から、認めた人間を思い慕うことは、比例して強くなる。つまり、お前や同じ神傑剣士、ニアやシルヴィアやフィティーは皆、イオナが大切に思う相手だ。特にお前は、テンランより少しだけ強く思いを抱かれてる。人をよく保ってなんかいないぞ」


 私が1番抱かれてるとは、ここでは言わないでおく。嫉妬で殺されるのも、避けたいしな。

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