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第二百十九話 感情




 「入るぞ」


 神集(ユリフォン)とやらが終わった、ヒュースウィット王国の神傑剣士たち。私はその一角を担う第1座の部屋へとノックをした。


 「カグヤ?何故私の部屋に?」


 「なんとなくだ」


 本当になんとなく。感化されたとか、そういうことは一切ない。強いて言うなら、リュンヌの末裔としてイオナと共に活動を共にしたことが気になるだけ。


 「なら帰って」


 「冷たいこと言うなよな。今後、私たちと行動出来ないことが、そんなに悔しくて嫌なのか?」


 「……黙って」


 「部屋に入らずとも、私はお前の心が読めるし、会話だって出来る。私の問いかけにどう思うか、それだけ知れれば満足だ」


 ルミウも人の心を読めるというが、それは私よりも低レベル。私は先の未来までも、人がどう思うか読める。だから、そうなるように自由に思考操作が可能。


 私は御影の地にて時間操作を可能にする。しかし、それは時間操作だけであって、読み取りは失われない。元々人間であり、御影の地で契約を結べるほど大きな力を持つ私は、御影の地を出ると、一時途切れる契約になっている。もし魔人の血を継ぐ者が居たなら、相当な異能力を持っただろう。イオナのように。


 「しかしだな、顔見てお互い話す方が、恥ずかしいこともなくていいんじゃないか?」


 「君の顔を見ると殺意を持つ。それは知ってるでしょ?」


 君。そして言葉遣いも偽り。しっかりと定着したその姿。韜晦する人間として完璧とまで思える。逸材だな。


 「だとしてもだ。お前の気持ちが分かるから、直接顔を見て言いたいことがある。私の気持ちを読み取れても、今から言いたいことは分からないだろうからな」


 「何が言いたいの?」


 「イオナがどんな人間で、どんな魔人なのか、テンランとかいう第2の育ての親よりも熟知している私が教えてやろうと言ってるんだ。そしたら少しは、今のお前も引き下がろうとすると思ってな」


 人の気持ちは単純だ。動かすのも壊すのも、たった一言で終わらせれる。


 「聞きたくないのか?」


 トントンとノックする。執拗に攻めれば、きっとルミウは扉を開く。それを知ってるから、私はやめない。


 「……話したらすぐ戻って」


 「もちろんだ」


 想い人の過去を、知りたいと思ってしまうのが人間。弱点にもなり得るその感情は、扱いやすくて脆い。この先、もし付いてくると言うのなら、そこを抉る。


 静かに開けられた扉の先に、この王国の最強が居る。落ち込んでいるのだと見てすぐに分かるほど死んだ目をしている。私の顔を見てすぐに細めると、入れと合図される。


 「そもそも、どうやって私の家に来たの?」


 「お前の背を追った。それだけだ」


 「なるほどね」


 入れてもらって早々に歓迎されない雰囲気に駆られる。残念だとは思わない。


 「何か飲む?」


 「必要ない。お前も面倒は嫌いだろ」


 「まぁね」


 特に私には、結構な敵対心というか嫌悪感が浮き出ている。それほどイオナに惚れてしまったのかと、残念な女だと私は哀れむ。


 「それで?私を引かせるために君が話したいことは?」


 「お前からは聞きたいことはないのか?私からの話を聞く前に、少し柔らかい聞きやすい話を耳にした方が、後から聞いたことを忘れずに済むぞ」


 「そんなに精神的ダメージは受けない。聞きたいことは今思いつかないし、別に私が喜ぶようなことも言われるとは思ってないから、君の予想通りにならないよう善処するだけ」


 「そうか。肝が据わってるな」


 目の前の椅子に座って、刀を抜く準備もなく、私に刃を向けることすらしないらしい。何を言われても、それがどう響くか、この女にはまだ未知なのが幸いか。


 「お前は自分を偽るほどイオナを好いているな?」


 「それが?」


 「同時に、イオナからも好かれている自信もあるな?」


 「……だから何?」


 イオナも残酷なものだ。半分だけでは、人間を偽るのは難しいというのに。これほどまでに自分は好かれていると、自意識過剰にしてしまうとは、ルミウがこうなったのも、イオナのせいでもある。


 「変だと思わないのか?お前は魔人についてよく知っている。半分であれ魔人の血を継ぐ生き物が、魔人と大差ない性能を持つことも知ってるだろう?だったら何故、お前はイオナが人を好きになる気持ちを持っていると思ってるんだ?」


 「……え?」


 「薄々気づいても遅い。続けるが、イオナには感情が存在しないんだ。だから、お前を好いてることも、好くこともない。イオナに残されたのは、人間として憎悪だけ。自分が大切に思う人間に手を出す者は、決して許さないという憎悪だけだ」


 「……嘘だね。イオナはこれまで私たちを支えてきた。ここぞという時に、的確な指示も出してくれた。そんな人が感情ないなんて、あり得ない」


 1度狼狽してみせたが、すぐに我を取り戻した。絶対に違うのだと、私の考えを否定するようだ。睨み始めるが、残念なことに嘘なんて1つもない。我ながら言うことが憚れるほどの眼は、見ていられない。


 「それらは全て偽りだ。感じなかったのか?イオナは賢いんだと。普段はどこかネジの外れた男として存在しているが、戦闘中になると人並み超えた才能を発揮する。それをお前も見ただろう。イオナは天才だ。お前らの前で偽ることなんて、正直苦でもない」


 「……嘘だ」


 「本当だ。本人はそれを言わないが、これまでを思い出してみれば分かるんじゃないか?私は過去を覗けない。だからよく理解はしてないが、少なくとも当てはまる部分はいくつかあるはずだ」

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