第二百十八話 降ります
精霊種を滅するために生み出されたと言っても過言ではない存在。圧倒的な力を持ち、人間とは思えない非現実的な能力を持つ者たち。長い歴史の中で選ばれ生まれた、唯一無二の神にも届く剣士たち。その二角。
「カグヤは人間に追い出された。そして御影の地にてこれまで生きてきた。ある敵を倒すために必要な存在が集まるまで、御影の地でひっそりとな」
「ある敵ってなーに?」
場の空気は自分が作る。シウムの可愛らしい声音が響き渡る。
「精霊種と呼ばれる種族だ。単体で神傑剣士たちに匹敵するほどの力を持ち、人間に取り憑くことで更にその力を強大にする。魔人を生み出していた張本人たちだ」
「魔人を生み出す?どういうことだ?」
「それは私が説明しよう。魔人を生み出すには、精霊種との契約が必要だ。ただ御影の地へと足を運べば、即座に魔人に変異するなんてのは眉唾もの。御影の地へ行き、その中を奥まで進む。すると150cmほどの小さい、羽の生えた生き物が存在する場所へ行き着く。そいつらと何かしらを代償に契約を交わすことで、人間は憎悪に塗れた魔人と化するんだ。それで、魔人を殲滅するなら、必然的に精霊種を殲滅しなければならなくなるということだな。分かったか?」
立っているから、物理的にメンデを見下す。メンデには、カグヤに勝てる要素は何1つない。それを知るからか、見下されても反応はしなかった。だから気にせず続ける。
「カグヤはそのバカげた力を元に、魔人たちに精霊種だと偽り、魔人を従えてきた。そしてその魔人たちは、俺が御影の地で殲滅した。今は御影の地に魔人は居ないということだ。同時に、その精霊種という敵を倒す存在の仲間、俺を見つけて次の目的が出来たってとこだ」
「御影の地には、調査と魔人の討伐に向かった。しかし、帰還した今では、詳しいことを知り、目的が更新されたということか」
「その通りです」
「ならば今後も活動は続けると?」
「はい。ですが、その上で伝えるべきことがあります」
俺はこの王国で、民の命を預かって刀を振ることは出来ない。いや、許されない。だから預からず、自分の思うままに刀を振るうためにも。
「俺は――神傑剣士の地位から降ります。後継を探すのに時間は必要でしょうが、近々闘技場を使用して、エイル以下の星座を1つ引き上げ、新たな第12座を選抜する大会でも開きます。そこで優勝した剣士を、新たな神傑剣士として星座に座らせてください」
「なっ!何故!?」
「びっくりだねー。イオナがー神傑剣士じゃなくなるのはー、結構痛いんじゃなーい?」
第1座第12座からの驚きの声。席順からしてほぼ正面からの驚き。予想外だった。
「俺は半分魔人の血が入っていて、人間ではないからだ。それに俺には課された宿命がある。それを果たすために、この座に堂々と君臨していては、いつかここに居る誰かを巻き込むことになる。精霊種は人間相手では、創世剣術士か最低でも我流剣術士でないと太刀打ち出来ない。友を死なせるために、この座に居るのは心底あり得ない話だ。だから、俺は神傑剣士ではなく、創世剣士団の1人として活動する」
「私は人間でも、イオナは父親が魔人の影響で人間と魔人の混血として、唯一無二の存在だ。それを世間に知られて、魔人が神傑剣士だなんて周知されたらどうする?国民は恐怖に取り憑かれるだろう。それを良しとする王国なら、このままイオナを神傑剣士として居させてもいいんだろうが」
国民は大切だ。その国民に害がある存在である以上、俺はこのままの自分で居たくない。人の命は脆い。俺のように体を刀で貫かれて死なないなんて、そんなことはない。70%も剣技を使えない人間を、残りの30%が守る。それを安心安全に可能にするために、俺の存在が公だからこそ降りるべきだ。
国王と神傑剣士は少し固まる。俺が降りることもそうだが、何よりも混血の人間であり魔人であることに、初めて聞いたという驚きが強いのだろう。
「イオナ君が魔人の血を……」
「俺はこの先、更に未知の世界へ飛び込みます。3ヶ月後、大会終了後に再び御影の地へと向かい、こちらの世界に被害が出る前に決着をつけるつもりです。陛下、その前に許可をお願いします」
「うむ……私にも考える時間を設けさせてもらう。少し混乱していてな、すまない」
「いえ」
この先は危険しかない。ルミウやフィティー、その他の神傑剣士ですら死が目の前の世界。そんなとこに、友と出向けるわけもない。ここからは俺とカグヤ、2人だけの道になるだろう。
どうなるかな。
それから俺は不足していた部分や、ルミウとテンランに先に話していたことを全て伝えた。何もかもに納得のいかないルミウには、残念だがここで付き添いは終わりとなる。
「これから俺は、大会の運営に力を注ぐ。他の神傑剣士は今までと何も変わらない。国務に追われる日々を送ってくれ。何か質問は?」
誰も彼も、下を見て唸るように考えている。それほど問題なのだろう。疑問は多いだろうに、誰も手を挙げない。意思表示すらない。
「何かあれば直接聞いてくれ。テンランとルミウは、少し情報を持ってるから、2人に聞いても構わない。ってことで、神集は終了とする」
重たい空気感に包まれる中、勝手ながらも主催である俺は会議室をカグヤとともに出て行った。
少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです