第二百十六話 君たちは
「喧嘩したらこの後の行動に支障を来すから、お互いやめてくれ」
「分かってる」
ローブを脱いで、暑いのは嫌いだからと露出の高すぎる服を顕にする。恥じらいというものがないのか、カグヤも長い時を経て変わったのかもしれない。そのまま椅子に座る。足を組んで堂々と。
「テンラン。早速なんだが、明日にでも神集を全神傑剣士に対して発令してくれないか?」
ここに住まわせてもらっていた時、よく飲んでいたお茶を手に、目の前に座るテンランに言う。しっかりカグヤの分も用意されている。
「それはまた急な話だね。もう夕方だし、今から全員にとなると、明日の夕方に集合が最速。それでもいいなら」
「問題ない。早くカグヤのこと、そして俺のことを周知させたいんだ。大切な話だからな」
「そう。分かった。これから王城に向かうとする」
「どうせこの時間にここに居るってことは、ウェインにでもフリードの仕事を押し付けたんだろうし、暇してただろ?」
「正解だよ。フリードは今メンデの選抜のために必死だから、逃げたくもなるんだよ」
長かった。そう思うことはない。右往左往しすぎて、多忙で、休む暇なんてほとんどなかったから、毎日が充実していた。考え事に困ることはなかったし、悩まされることもあった。冒険という冒険は出来てないが、記憶を取り戻せたのは何よりも収穫だ。
「では、王城に向かうけど、その前に1ついい?」
「なんでも」
「流石にイオナともあろう剣士が、左目を失って帰ってくることもないだろうから、その眼帯の下はどうなってるのか気になる。変装にしては薄いし、カグヤも同じ眼帯をしている。何かしらの意味があるのだろうけど分からなくて」
「これか……神集で説明するが、これは――」
そっと眼帯を外す。一生消えない、人間であり、人間を超越した存在の証。神的存在であり、寿命も存在しない。知る人ぞ知る、選ばれし最強の剣士団の証。
「本当の俺を証明する目を隠すための眼帯だ」
白目が真っ黒に染まり、瞳が真っ赤に染まる。その真ん中に刻まれた【1】という数字。歴史上、力故に人間にも魔人にも嫌われた人間として知られる、創世剣士団。その1人である創世剣術士の証。
「……それは…………なるほど。そういうことか。何年も続くこの世界の歴史。それを大きく動かした存在……か。本当に、何回驚かされれば私は落ち着けるんだろうね」
もうこの世界に俺たちを嫌う人は居ないだろう。人間の味方として、俺は憎んでいない。カグヤは記憶を戻してから、変わることなく憎んでいるようだが。だから、ここに住み続けるのも良いのかもしれない。
「さぁな。俺もそれは分からない」
自分でも未知の力だ。フリードに通う時から、自分のことは魔人だと気づいていた。力も圧倒的で、並ぶものを許さない。だけれど、その俺の最大値は知っていた。それが我流剣術士だ。自分で我流剣術を使うことは出来なかったが、相手の技を見て、自分のものに出来る才能を持っていたから、最大でそこまでは出来ると知っていた。
でも今はどうだろうか。この世界を創り上げた剣士として、その力は未知数だ。歴史上4人しか存在せず、2人はこの世界を去った。誰も限界は知らない。先、どこまで行けるか知らない。だからその名の通り、俺らが創る必要があるのだろう。精霊種を滅して。
「一応最後にこれを聞かせてほしい。イオナ、君は私たちの味方なの?」
珍しくも知るのだろう。書物を読み漁った結果、その書物を見つけたのか。不安になるのも当然だ。人間だとしても存在を忌み嫌ったのだから。長年生きて、それは根付いたと思われるから。
「私たち。それにはどこまでが含まれるか知らないけど、少なくとも神傑剣士の敵ではない。でも、カグヤたち他の創世剣士団を知って蔑むやつが居るのなら、俺は味方じゃなくなる。俺は俺だけの悪意で誰かを殺めることはしない。それだけ覚えててくれれば十分だ」
「そう。仲間思いなのは変わってないようで何よりだよ」
「イオナは善人だ。そう育てたし、根っこがそうだ。この世界を平和にするため生まれてきた、神のような子だ。だか、私は違う。ただ宿命を果たすための剣士として、善悪関係なく生まれた。だからもし、私の仲間を侮辱するのなら、たとえイオナが大切にしているからといっても、容赦なく殺すぞ?それは覚えていろ、神傑剣士第10座マイト・テンラン」
ガタガタと小さく家が揺れるほどの圧。人間が創世剣術士を追い出し、御影の地でしか過ごすことを可能と出来なくし、結果遠回しに2人の創世剣術士を殺したと言える人間を途轍もなく憎悪する。俺よりも誰よりも、仲間思いだったのはカグヤだったから。
「……敵対するほどバカじゃない」
「人間は気分屋だ。その場しのぎも上手いからなんとでも言える」
テンランでも恐れる存在。体の内側から侵されるように、その憎悪の圧は蝕む。
「特に、お前が理事長を務める学園に、イオナを激しく嫌悪し侮辱した痴れ者が居るな?イオナからはそんな大げさなことではないと聞いているが、1度この目でそれを見たら、容赦なく殺す」
「はいはい、分かってるって。弱者を殺しても楽しいことはないぞ。ストレス溜まってるなら俺が相手するから」
「負けて逆にストレスが溜まるだろ」
「なら黙っとくんだな。カグヤと競えるのはここには皆無だからな」
上下共に、差が離れすぎてる。カグヤの下はルミウで上は俺。どうしても縮まらない差がそこにはある。
「……そろそろ行くよ。ここに居るとカグヤに殺されそうだから」
「俺が居る限りはそんなことは起こらない。安心して王城に向かってくれ」
「カグヤを宥めてて」
「ムカつく女だ」
荒れるカグヤを前に、引かないのは流石だ。豪胆というか、泰然とした姿はこっそりと尊敬している。出したお茶を飲み干して、テンランはローブを身に纏い家を出る。フリードから帰宅早々に王城とは、激務が続くのは大変だ。
少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです




