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第二百十五話 ただいまとおかえり




 ヒュースウィット王国へ足を踏み入れたのは半年ぶりだが、王都へ踏み入れたのは1年と少しぶりだ。戻ってきた我が王国。景色は何も変わらない。変わったのは、俺たちの人数だ。


 夕方の17時。俺はシルヴィアとニアと別れ、カグヤと共に我が家の玄関前まで来た。騒がしい王都中心地。その付近に建ち並ぶ貴族家。その中に紛れて、一軒建つ特別のない家。俺を思って建てた、テンランの思いが溢れる自宅。


 俺はその扉を、優しくも懐かしく開けた。


 「ただいま」


 帰宅してるかなんて、3人も欠けた神傑剣士たちの尻ぬぐいをする多忙剣士なので確実でないが、気配は感じる。俺は家中聞こえる声で、久しぶりのご尊顔を拝もうと強く発した。


 「ちゃんと帰宅は知らせるんだな。礼儀正しく生きてきたのか?」


 「慣れればこれが当たり前だ。人間を嫌うカグヤは違うだろうけどな」


 ボソッと、片目を隠して体も隠して、俺をイオナだと思って接する人は居ないほどの変装で、返しを待った。そして時間を数秒使って、それはきた。


 奥から警戒心を最大にして顔を少しだけ覗かせるテンラン。俺に気づかれてないのだと思いこんでるのは、今の俺について何も知らないからだ。俺の元の力を手に入れた実感を得られたのは嬉しい。


 「居ないのか?テンラン」


 別の方向へ、知らんぷりしながら問う。すると目を細めて、テンランは階段下から出てくる。観念したように、殺意も少しながら。


 「……君は?」


 「おぉ、居るじゃないか。会って早々俺を忘れたように目線を向けられては困るんだけど」


 「誰だ?それに後ろの人も。私の知り合いに、そんな気配を纏う人は居ないと記憶してるんだけど」


 「シーボ・イオナだ。忘れたのか?約1年前にここから旅立った、最強を背負う若い男のこと。1番誰よりも知ってるのはテンランだろ?気配変わったからって、顔も見間違ってローブも見間違うことないだろ」


 唯一無二のローブ。そして誰よりも見ている俺の顔。たとえ片目隠れてたとしても輪郭で分かるだろうし、声が一緒だから、すぐに気づくだろう。その通り、怪訝な表情は次第に消えていった。


 「……イオナ?それにしては何もかも違和感がある。気配も見た目も。声と喋り方は同じだけど」


 「へぇ、お前がイオナをここで育てたのか。実力は申し分ないな。だが、長い間共に暮らして、イオナが変わってもイオナだと分からないのは大減点だな」


 嘲笑うように、育てのマウントをとる。しかし、テンランと出会った時から、俺の精神年齢は大人だったから、お互い育ての親だとしても別だ。記憶を戻した今、テンランよりもカグヤに軍配が上がるのは至極当然。テンランは、この王国で俺という存在を生かしてくれたことから、ヒュースウィットではテンランに軍配が上がるのも至極当然だ。


 「……誰?」


 当たり前の反応。俺をイオナだと認識しているが、その後ろに立つ女は未だ知らない。初めて見る、俺のローブを着た160前半の女性。テンランは再び目を細めた。


 「私はイオナの仲間だ。昔からの付き合いでな、それはもう、お前と比べものにならないほど、長い時を過ごした仲だ」


 「軋轢を生もうとするな」


 人間を嫌うなら、テンランのことだって嫌う。顔を合わせる前から嫌いなのだが、合わせた瞬間に過去のことがフラッシュバックするため、より強まる。


 「彼女はカグヤ。説明は後でするつもりだが、御影の地で出来た仲間だ」


 「本当に?御影の地って魔人だらけで、人間は居ないんじゃないの?」


 「いいや。唯一カグヤだけが人間として御影の地に居たんだ。取り敢えず、俺をイオナとして思い出したか?」


 「間違いなくイオナだけど、知らない女を入れるのはちょっとね。それに、イオナが洗脳されてる可能性だってある」


 「あぁー、それはないぞ。私はイオナより圧倒的に弱いからな。私じゃ足首程度の実力なんだから、支配なんて無理だ。だから安心して、早く入れてくれないか?ここで待たされるのも疲れて仕方ない」


 何年何十年何百年と、御影の地で生きてきたからこそ、久しぶりの時間経過のある世界で、体力の無さを実感しているらしい。今まで体力は無限だったからこそ厳しい。長い時を経たのだから、決して甘えたわけではない。体が慣れてしまったのだ。


 「だってさ。俺を信じて中に入れてくれ。そうしたら全て分かるから」


 「分かった。君がそう言うなら」


 階段下から体を出し、やっと目の前まで近づいたテンラン。久しぶりでも、見た目は一切変わっていなかった。優しいその朗らかな表情も、ヒュースウィットが平和だと言っているようで安心する。


 「どうぞ。そして、おかえり」


 「ああ。ただいま」


 やっと返ってきたおかえり。ただいまと言えたことよりも、帰る場所からおかえりと迎えられるのは、心底気持ちがいい。俺はほんの少し、口角を上げてリビングへと進んだ。


 「なんにも変わってないな。模様替えしないのか?」


 「一人暮らしだと、何も変えることがないからね。お洒落が好きなわけでもないし、人を家に呼んで騒ぐこともない。国務に追われて、どうしてもね」


 「その割には綺麗じゃないか。潔癖か?」


 「ここに戻ることが少ないんだよ。カグヤ、だったかな?君には分からないだろうけど」


 「当たり前だ。知りたくもない」


 早速不穏な空気が流れ始めるが、多分これでもこの先に問題はないだろう。

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