第二百十四話 帰還
そんな存在には、必ず【?】が付きまとう。魔人の頂点として、数多くの猛者の頂点として、それは必然的であり、カグヤ自身もそれは分かっていた。だから全てに答える。偽りなく、自分の思うままに。
「カグヤの言うことが本当なら、あの御方ってカグヤじゃないってこと?」
「あの御方とは精霊種のことだ。精霊種の名前を呼ぶことは禁じられているからな。呼べばその瞬間に契約者は呼吸を止められる。七星魔人のゴミどもには、私もあの御方と呼ばれていたが、それは精霊種並の力を持ち、勘違いされていたからだ」
カグヤの異能力は、多分現在のこの世界では最上位だ。時間を操作するというのは、確かに精霊種並の力だと思われる。俺の固有能力はレベリングオーバー。そして思い出した創世剣術士としての異能力は――強化だ。俺も中々バカげた力を持っていると、我ながら創世剣術士として鼻が高い。
「なるほどね」
「契約出来る存在も、猛者に限るからこそ、私が精霊種と思われていたのだろう。思えば1人、少し前に私の名を呼んで決闘を申し込んだバカが居た。思い出せないがな」
カグヤに一騎討ちか……そんなバカが……ん?
「そういえば、ボグマスとかいう七星魔人はどこだ?それに七星なのに5人しか相手にしてないぞ?」
「あぁー、決闘で殺したのが1人、ボグマスは喋り方とかムカついたから、魔人だし殺しても良いだろうと、サクッと殺したから、これで数は揃うか?」
「……人間にも同じことするなよ?」
「大丈夫だ」
気分屋であり、人を殺すことにも抵抗はないだろうカグヤ。最強だからこそ、その責務を全うする存在だからこそ、そこらの感性は失ったのだろう。運命のままに。
「それにしてもよく生きて、俺を覚えて待ってたな」
「ディアムとデルアが、身を削って精霊種を殺したからな。異能力で、精霊種がここに入ると外に転移するよう、無限の往復を可能にするテリトリーを作ってからは、生きるのは簡単だった。お前の記憶は、お前がここに足を踏み入れるまで消すように暗示もかけた。だから、お前が来るまで名前も顔も、何もかも忘れていたさ。悪いな」
「謝ることはなにもない。ディアムとデルアには今後一生頭は上がらないし、カグヤにも、生きててくれて本当に良かったと思う」
「当たり前だ。2人のとこにはまだ行けない」
最強の剣士団。それは今までのヒュースウィットだと思っていた。しかし違う。12人で王国を守れるといわれる剣士団より、たった4人で世界を守れると言われる創世剣士団が最強だ。
しかしそれも今では2人も欠けた。ディアムとデルア。左目に【2】と【3】を刻んだ、カグヤよりも更に上の存在。精霊種の力と数に、俺という足枷を持ちながら勝ったバケモノたち。先で待つ彼らに、俺たちは宿命を果たして会いに行く義務がある。
「っと、イオナとの話はここらにしないとな。殺意の目線に殺されてしまう」
「何言ってるんだ?」
無言で俺たちを見るルミウたちを見ながら、カグヤは両肩を上げてはストンと落とした。
「ってか、これ着ろ。ここ出るには露出が激しすぎる」
「涼しくて気持ちいいんだが?」
「注目を浴びるのは王国でお前を紹介した後だ。それまで眼帯で左目を隠して、ローブを纏って戻るんだ。その後なら好きなだけ好きな服装でいていいから」
「分かった。確かにそこらの人間から、汚い視線を向けられるのは殺意に触れる」
心底嫌いなのは言葉遣いからも、眼力からも伝わる。顔だけならルミウを超える美貌を持ち、長年生きたくせに見た目は変わらず20前半なので、それはもう破壊力が凄い。
「それじゃ、4人も質問は王国に戻ってからにするとして、ここから出してくれ。契約は不要だろ?」
「ああ。ここから私と一緒なら契約無しで出られる」
「頼んだ」
「了解だ」
時間操作。それは瞬間移動を可能にする。俺たちが来たときのように、目の前が急に明るくなる。その時既に、俺たちは外へ出ていた。
カグヤと俺はルミウたちに更に説明した。ここに来る時何故分裂させられたか、俺だけ逃してカグヤは追わなかったのか、など、気になることを悉く説明してみせた。納得したりしなかったり、時にはルミウの期限が悪くなったりよくなったり。情緒不安定のような4人に、帰りは忙しくも騒がしかった。
同時に俺は今後のことについても説明した。フィティーは、一旦俺たちと離れて、リベニア王国の王座にて、再建に励む。シルヴィアとニアは、俺からの依頼を任せた。ルミウには俺と共にありとあらゆることを承認として、12名の神傑剣士を集めて、俺のことを全員に知らせる役目を任せた。
そしてカグヤには、俺との今後の行動を約束した。常に側に付き、長年の離れの時間を取り戻そうと、その時間を有意義にするために。
御影の地を出れば、明順応した目には空が眩しく見えた。正午だろうか。頭上に光る太陽は、一切遮られずに体に届く。そして御影の地から出たのだと実感した。
この瞬間に、俺たちは人間として2人目。魔人としては何度目かの、御影の地からの帰還を果たした。前代未聞の出来事。これは明日には有名人になってるだろうか。
出した一歩目。それがまさかこんなにも大きなこととなって踏み出すことになったとは。その時がスタートだと思っていたが、違った。俺の、いや、俺とカグヤの道のりは、ここからがスタートだ。
果てしない苦悩を乗り越えて、俺たち2人は、ルミウたちの力を借りながら、この世界に認められ、君臨する。その初めの一歩を、ローブと眼帯をつけて踏み出した。
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