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第二百十三話 カグヤの気持ち




 「ありがとう」


 自分たちが追っていた魔人。その頂点が実は魔人だとしても、悪い人ではなかった。それを簡単に受け止めることは出来ない。「ありがとう」に込められた複雑な感情も、今は納得する。そして、それを拭おうと聞く。


 「ねぇ、カグヤ」


 「何だ?」


 「貴女って魔人を率いてた猛者なんでしょ?今までで人間を殺したりしてないの?」


 「ん?人間を殺す?私はそんな弱者を葬るお遊びには興味ない。故に今までに人間に刀を向けたことはない」


 「でもさっき、ルミーが3度目の技を防いだ最初の人って言わなかった?」


 「人間とは言ってない。相手は全て魔人だ。私は一応魔人を率いるという嘘で頂点に君臨していたが、暇な時は密かに魔人を殺して遊んで、その時に誰も相手にならなかったという意味で言った。お前たちに向けたのは、イオナの記憶が戻るまでのお遊びだ」


 「変わらず最低だな」


 俺が退屈が嫌いなのは、間違いなくカグヤが影響している。暇があれば常に刀を交えていた3人の仲間たち。全員が人間でありながら、1人でこの世界を創ることが出来る力を持った異邦人。もう今では2人しか残っていないが、これも運命であり、俺らに託された、最初で最後の任務を全うする最強という存在の宿命だろう。


 「変な誤解や嫌悪を抱かれるのは好きじゃない。だから言うが、私はイオナの味方であり、人間の味方ではない。私たちを恐れ、追放した人間を守ることもない。そして、私は創世剣士団(ヴェロシェレア)を侮辱する者も許さない。今まで人間を殺したことはないが、安安と私の気分を害するなら、誰であろうと悉く殺すつもりでいる」


 その目は確かだった。ルミウでもフィティーでもシルヴィアでもニアでも、本当に誰でも殺すのだと、弱者を憐れむように目を細めて伝えた。


 人間だとしても、既に何百年も生き、人間とは思えなくなってしまった気派。その淀みや憎悪の量は、俺が思い出せる最大の過去の中で、カグヤ史上最も多かった。それほどに会えたこと、そして俺と仲良くするルミウたち人間を避けたいと思う気持ちが強かった。


 「そんなことするやつを仲間にした覚えはない。ここにいる4人は大丈夫だろ」


 「お前も長い間人間の世界に居たから、余計に感化されたりしてるんじゃないのか?」


 「それはないって、絶対的に知ってるのはお前じゃないのか?カグヤ」


 「一応聞いただけだ。お前のその未知の実力なら、もしかしたら、と思ってな」


 カグヤは俺のことで分からないことはない。ルミウのように俺の感情や思ってることを読み解け、何よりそんなことせずとも俺を幼子から見守ったという過去から、俺のことは何でもお見通し。


 「お前が言うなら私もしつこく言わない。ただ、4人は違っても各王国は違うかもそれない。その時は様々なことを覚悟するんだな」


 カグヤの心配事は確かに心配するべきことだ。世の中には魔人に親や知人を殺され、殺したいと憎む人間も存在する。その果てに同じ魔人となり、仲間割れという復讐も果たすことも多い。


 しかし、それは稀有だ。人間は弱い。だから、自分で殺したくても殺せない。刃を向けられない。そんな人ばかりだ。でもそれが集まれば、きっと俺らに多くの人間は対抗する。特に本当に魔人の血が入った俺には、強い憎悪を抱くだろう。


 「それは生まれた時から覚悟してる」


 「まぁ、敵は居ないだろうがな」


 敵は……居るさ。


 「さぁ、1度王国へ戻るなら、私も連れて行け。今のイオナに育てた王国ならば、少しは他の王国よりマシだろうからな」


 「それは大正解だ」


 「そういえば、リュンヌの末裔たちよ、私が先程言った未来予知。あれは唯一の嘘だ。私に未来を見る力はない。ただ言って焦らせたかっただけだ。深く考えるなよ」


 「そうだったの?じゃ、私を助けた理由は?」


 「イオナと過ごす日々を()()()()()からだ。それと外の世界、いや、私たちの居た王国から、イオナには何年後か、この場所が落ち着いた時にここに来るよう、記憶の中に好奇心旺盛な部分を刻み込んだ」


 「ならこの目は?」


 「ここから出るには、何かしらの契約が必要だった。お前たちも知るだろう?バルガンという男を。死を超える憎悪を持たない人間は、ここから出るには契約が必要。若しくは更に奥へと進み、精霊種に無理矢理魔人へと化けさせられるかの2択でしか出られない。だから私はお前と契約して左目を貰う代わりに、情報を教えた。まさか本当にここに来るとは思っていなかったが、運命というやつか?」


 そう。バルガンが契約を結んだのはそこだった。フィティーを御影の地へ捨てる時、バルガンもまた、ここへ足を踏み入れたのだ。その時がバルガンの死を早めるだけの材料となった。


 「だったら、バルガンもリュートも、カグヤが殺したいことにならない?」


 「いいや。私が契約したのはフィティーだけだ。他の者は皆、あの御方とかいう精霊種のやつらと結んだはずだ。私を除く魔人は、どいつもこいつも精霊種を心酔していてな。そこらの融通は難なく通るんだ」


 「……難しいね」


 「私が言えるのは、私は人間を殺したことはないとだけ。殺したいと思っても、もう何年も過ぎた今ではその対象すらも居ないのだから、殺す気もない。それだけ覚えてればいい」


 カグヤはもう人間と言いたくないほどに忌み嫌っているが、紛れもなく人間だ。人間と魔人を隔てた、何年も前から生きる人間。時間操作を可能にする、空前絶後の異能力者。

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