第二百十二話 本懐
御影の地に入る前、いや、もう何年も前から自分が魔人だとは知っていた。父が呪い人であり、人間として偽って母と結婚。その瞬間にこの世界の魔人と人間との理に変化が起きた。
人間と魔人との間に子供は生まれない。しかし、父は呪い人として、それを可能にする呪いを持っていた。まるで、俺をこの世界に生まれさせるための運命のように。
魔人は歳を重ねない。しかし、俺は重ねるように体は成長した。人間の血を持って、母親から生まれたから。だからテンランに怪しまれることもなかった。悠々自適に、自分のことを隠して生きたのだが、今思い出して全てを理解した。
俺が生まれて、両親が死ぬ前に御影の地へ捨てられた。何歳だったか、確か8歳?俺はその時にカグヤたちと出会った。そう。既に最強として、人間から忌み嫌われていた創世剣士団の3人に。
俺は3人に育てられた。そして歳すら忘れるほどの年月重ねた時、俺が見た先程の光景の事が起こった。俺たちの存在意義、宿命を果たすための相手。禁忌の相手。その名も――精霊種。
3人は俺のことを網羅した。見つけて僅か2年で。だから俺は生かされた。精霊種に対抗出来る力を持つと、この左目を見て知ったから。その結果、幼子だからとカグヤと逃され、俺はこの地を出る時にカグヤに記憶を消された。
――いつかお前がこの地に足を踏み入れた時。その時に私がお前の記憶を戻してやろう。
言われた俺の記憶は、テンランに拾われたところまで飛んでいる。その間の記憶は、そもそもカグヤが消すことなく、自分自身、幼児期健忘となったのだろう。何年が経過しただろうか。その間の記憶がない限り、正確なものは掴めない。
御影の地での体の成長は止まっていた。ここでは俺の血関係なく、それは全員が同じ。カグヤの御影の地だけで発動する異能力。それによって、俺は体だけは進まなかった。テンランに育てられる間、人の年齢にして8歳そのままの俺は、既に長年の時を経た意識の中で育っていた。
まぁ、年齢なんてどうでもいい。また仲間に会えたことが心底嬉しいのだから。
「半人半魔でも、敵じゃない。仲間とも簡単に口には出来ないけどな。でも、俺の目的は人間の殲滅、若しくは魔人の殲滅でもない。精霊種の殲滅だ」
「魔人といっても、お前に私が殺させたから、数で言えば0といっても過言じゃないけどな」
「それ狙いで13万も集めたのか?気持ち悪いな」
「私の処理がなくて助かる」
思い出すと全て理解出来て気持ちがいい。俺を大切に育ててくれた恩人。第一の母親だ。テンランよりも先に居たとは、少し複雑だが。
「待って待って……どういうことなのか、私たちが理解出来てないんだけど。魔人を殲滅するために来たんでしょ?」
「魔人は殲滅した。確かに魔人は変わらず頭おかしいただの屍。だけど、魔人を殲滅しても何も変わらないんだよ。魔人って御影の地で、どんな段階で生まれるか、それが気になるだろ?でも実は、魔人は精霊種によって生まれる存在だ。魔人が魔人を生むんじゃなくて、精霊種が魔人を生む。だから魔人を殺したとて、それは根源を潰したことにはならない」
「まさか、私が1人ずつ細工してるとでも思ってたのか?」
「つまり……まだ先があるってこと?」
「そういうことになる。ここから先に、もっと強いのが存在してる。それらを殺すために俺たちが存在するんだからな」
禁忌と呼ばれる生命体。全員が150cmを下回る体躯をしており、人間に取り憑くことでその真の力を発揮する。レベル6をも軽々と余裕で蹂躙し凌駕する存在。今までの俺なら死ぬことは確定の相手。
今は何もかもが強化され、シーボ・イオナとして、本当の俺として戦えるが、それでも精霊種の上と戦って生きて帰れるか。そこはまだ懸念点である。
「それってもう、流石に私たちだと足手まといになるじゃん」
「そうですよ。ただでさえ刀鍛冶として厳しいんですし」
フィティーとニアの正しい意見。今ですら死を目の前に諦めるほどの力を持ったカグヤに勝てなかったというのに、それと互角以上となると、それこそ死ぬだろう。
「そうだな。死なせたくもないから同行は許さない。多分ここから先は、より険しくなるから」
「ここまでなら付いてこれる。私が御影の地の1割を統括すると言ったが、その領域だけは精霊種が襲えない縛りを設けているからな。でも、その奥には、一歩踏み出せば死が待つことを覚悟しなければならない。創世剣術士ではないお前たちでも、仲間の仲間だ。死なれるのは困る。だから私からも同行は拒否させてもらう」
御影の地。ある程度を知るが、精霊種の統括する領域は本当に未知だ。カグヤですら逃げてやっと、ここだけを手に入れたほど。実力を知るからこそ、どれだけ追い込まれたのかで相手の力量を知れる。間違いなくバケモノだろう。人間と魔人に憑依させなければ良いのだが、憑依せずともレベル6は当たり前の存在。厳しい戦いは避けられない。
「取り敢えず王国に戻るのが賢明な判断だろうから、ここから出してくれ。あっ、その前にルミウたちの怪我を」
「分かった」
すぐに指を鳴らし、ルミウたちの体の時間を巻き戻す。徐々に傷が消えていき、怪我を負う前の体へと元通りになる。御影の地だけとはいえ、こんな異能力を持てるのは流石といったとこか。
俺にはそんな異能力はない。代わりにあるのは、力だけだ。
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