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第二百十一話 魔人




 「剣技を使う必要もない。抵抗しないじゃ、面白くもなんともない」


 淡々と感情のこもっていない声音で、カグヤはルミウの首に刀を向けた。次第にそれは頭上まで上げられる。そしてルミウは死を覚悟しただろう。もう、ピクリとすら動かないのを、瞼を閉じていても感じた。


 意識だけがハッキリとする。同時に重たい瞼を上げて、少し痛む胸元のことは瞬間的に忘れた。本当の殺意を胸に抱くカグヤ。俺はそれを止めるために、倒れた体を無理矢理動かした。


 「死ね」


 3人が全員、同じ相好で死を受け入れる。それほどここに来た覚悟も同じだと言うこと。少しばかりそれが嬉しかったりするが、俺はそんなことに気を取られはしない。


 何も纏うことなく、ただ振り下げられた刀。行き先はルミウの首。しかし、首の真横に来た瞬間に、それは動きを止めた。


 「殺すな」


 俺が止めた。カグヤの刀を、左手の人差し指だけで止めた。指の先に纏った気派で止めるのは、余裕過ぎるほどの力量。俺は難なく受け止める。


 「……イオ……ナ?」


 ルミウを筆頭に、次々に俺の存命に目を擦る。そりゃ、心臓を貫かれたんだ。人間ならば死んで当然。影武者でも、残像を貫いたわけでもない。ならなんで俺が俺であるのか、それは気になるだろう。


 しかし、唯一驚かないやつもいた。こうなることを知っていた、いや、こうなるように仕向けたと言うべきか。


 「思い出したのか。最強」


 俺の精神世界、若しくは夢の中に出てきた3人の1人。俺を抱えて逃げ出した女性であり――俺の最初の仲間だ。


 「全部思い出した。ありがとう、と言うべきか?」


 「感謝はするべきだろう?特に私よりも、2人には」


 その先が何を意味してるかなんて、分からないほど頭を打ったわけではない。しっかりと、俺らを逃がすために盾となった2人は覚えている。そして、死んだということも。


 「そうだな。でも、今はお前しかいない。まずはお前に。俺を生かしてくれてありがとう、カグヤ」


 「ふっ。初めて会った設定だというのに、お前は変わらず、記憶を失う前のお前なんだな」


 刀を鞘に収める。殺意も何もなくなった。


 「リュンヌの末裔よ、私の負けだ。こうなっては、私に勝ちは絶対にない。我が友が記憶を戻し、本当の最強の称号を手に入れた今、私は彼の足首程度の力しか持たないのだから」


 両手を挙げて降参すると意思表示してみせる。露出が多すぎるその体も、実は見慣れていて、服を着るのが苦手で嫌いだという変な性格の女。もう熟知しているほど、カグヤとは一緒に居た。


 もちろんルミウたちは混乱中。一瞬にして入ってきた情報が裁けないから。殺されたと思った俺が目の前で生きてる。殺されそうになったのを助けられる。カグヤと俺が親しげに会話する。突然の降参。俺でも理解は難しい。それでも情報処理には追われる。


 「……どういうこと?」


 ルミウの怪訝な表情。それに対してカグヤが答える。


 「端的に言えば、イオナと私は仲間だと言うことだ」


 「……仲間?」


 「私たちはお前たちの知る知識の中で言うと……そうだな、創世剣術士(そうせいけんじゅつし)だ。かつてこの世界を、とある宿命により隔てた神のような存在。そこらは書物にでも記載されてるだろうから王国に戻って調べてみろ」


 説明が面倒だと、昔と変わらず説明が苦手なカグヤ。


 「創世剣術士……初耳」


 「知らないのか?若しくは廃れ、王国の奥底に秘められたか。なんにせよ、これを見ればどんな存在か分かる」


 クルッと俺の体を回して、背を向けていた4人に俺の顔を見せるように動かした。その時から()()に違和感はあったが、懐かしすぎて忘れていた。


 「……え?」


 「私、それ知ってるかも……」


 「私も……」


 「いやいや、知らない人……いないレベルでしょ……」


 徐々に落ち着き始めた4人は、俺の顔を見て言った。我ながら知っていても恥ずかしい。偽りの感情でも、そう思う。学園で耳にタコが出来るほど言われる言葉。だから知らない人はいない。


 「この世界にはかつて、力の均衡を崩した剣士たちを総称してこう言ったな?創世剣士団(ヴェロシェレア)、と。そいつらに共通した部分。それが――左目の数字(じょれつ)だ」


 圧倒的な力を秘め、その力の大きさから人間と魔人から恐れられた剣士。生まれながらに最強であり、この世界の禁忌に対抗するために生まれた、宿命を背負う剣士。


 「でも……それって!」


 ルミウが忌み嫌う気持ちを込めてカグヤと目を合わせる。


 「そうだな。創世剣士団(ヴェロシェレア)は――人間ではないとされ、魔人として扱われる、嫌われた生き物だ」


 正真正銘の魔人というわけではない。様々な事情が重なり、この世界から人間としての扱いが受けられなくなってしまった、俺たち当人からすれば悲しい話だ。


 そんな俺とカグヤは今、魔人と同じ、真っ赤の瞳孔を持っている。もちろん、数字(じょれつ)と共に。こうなってしまっては、いつまでも隠し通せるわけもない。


 「悪いな。騙していたわけではないんだが、俺は――魔人なんだ」


 「……え?」


 「は?……え?どういう?……え?」


 見たことないほど3人が狼狽する。責められたり、俺を否定されることは覚悟で続ける。


 「正確には魔人と人間のハーフ。半人半魔ってやつだ」


 左目に刻まれた俺の数字(じょれつ)は【1】であり、最強の名を背負うに相応しい実力を持つ剣士だ。久しぶりに思い出すと、やはり力を制御されても最強だったのは、運命だったかもしれないと思う。

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