第二百十話 記憶の中
「…………ここは?」
記憶が曖昧だ。少し先に、こうなった理由を思い出せそうなことが起きた気がするが……それでも思い出せない。だからこの場所も思い出せない。辺り真っ暗で、俺が立っていること以外分からない。常闇に沈められたかのようだ。
目は開いていて、瞬きをするのを感じる。ならば閉じ込められてる、と考えるのが正解だろうか。四方八方が暗闇でも恐怖はない。これから先が未知なのに、それでも。
「……ったく、どういうことだよ」
取り敢えず歩き出すことにする。動かないことも賢いかもれないが、暗闇の中、何もしないことは何も掴めないのと同義だ。理由があるのだろうから、まずはここから脱出することを考えるべきだ。
コンクリートの上を歩くような踏み心地。俺はゆっくりと確かな足取りで進んだ。何も見えなくても。
すると、周辺に違和感を感じた。見られてるとか、攻撃されるとか、俺に対することじゃなくて、音だ。耳を澄ませば歩く先から音がする。高い音、というか叫び声?何か揉めてるような。
俺はそこに向かうことで何かを得られることを確信した。全力で走り出す。風は感じないし寒くも暑くもない。ただただ走った。解決を求めて無我夢中に。
そしてその音の正体を知るために近づいた俺は、その光景を目の当たりにした。真っ暗の中に、月光のように光る場所。まるで投影機に映る映像のように、それらは動いていた。
「逃げろ!イオナ!」
「……俺?」
視点がクルクルと回っては落ち着かない。画面酔いしそうなほど激しく動く。しかし俺はそれを見ても具合を悪くすることはなく、何かを得られる一心で眺めた。
俺の名前を呼ぶのは、両手で刀を握る剣士か。その画面の奥にいる俺に話し掛けるように叫んでいた。伝えようと、何かから逃げながら。
「くっ!ディアム!これ以上は無理だ!」
「あぁ……覚悟を決めるか」
「カグヤ!俺たちを置いてイオナを連れて行け!」
「し、しかし!」
「行け!このままでは全滅する!ここでお前たちも死ねば、こいつらのこと、そしてこいつらを倒す存在が今後生まれる前に、この世界が滅んじまう。だから……行ってくれ!」
「……分かった!だが、お前たちも戻って来い!待っているからな!ディアム!デルア!」
「おう!」
彼らは何かから追われている様子だった。それから逃げようと、必死に刀を振って、追い込まれたから1人を逃がそうとした。
ここで物語が終わった。正確には明かりが消えた。元々そこには常闇だと言わんばかりに。明順応したばかりの俺の瞳は、暗順応へと忙しい変化を繰り返す。と、その時。
「うっ!」
急に頭が痛くなった。その場に膝をついて頭を抱える。そして激しい痛みが、体中を巡り始める。感じたことない、全身を殴られるような痛みだ。
「なんだ!……何が!」
混乱するが、この痛みがなんのために起こるのか、俺は徐々に理解していた。今見た、何かしらの誰かの記憶。俺に向けて放つ言葉のように見えたそれは――。
「……俺の……記憶か」
思い出した、俺の記憶。そして、何故今俺はここに居るのかすらも。カグヤと勝負して負けて殺された。ハッキリと、その答えが間違いでないと知っている。
「カグヤ……なるほど……?」
まだ全回復しない。けれど、少しずつ記憶は戻る。俺の失われていた記憶。長年の記憶。そして、カグヤたちと過ごしていた記憶が。
自分でも薄々異変には気づいていて、それを確信したのは3年前。誰にも言わなかったから、それを知るのは誰もいない。偶然、俺は正体不明の第7座として君臨していたから、それも相まって何もかもを秘匿にされていた。そのおかけで謎の多い剣士としても存在出来た。
詮索することはご法度となり、俺のことを調べる人はそんなにいなかった。優しさとかあるだろうが、それでも調べ始めた人間に対しては、同じ神傑剣士だとしても武力で潰して正体不明を貫いた。
結果、見事に正体不明として未だに君臨していた。
「それも今日までってことか。思い出したぞ、カグヤ」
ここに来た時に、何故カグヤの名前が天啓として降りてきたか。俺はそれを今理解した。刀を心臓へ刺されて、それが何を意味したのか、それをここで理解しろってこと。何とも面倒で演技の上手いやつだ。流石は【4】だな。
全てはこのための布石。俺はまだ死んでいない。俺の役目は果たされていない。今まででは、御影の地に来て制覇して終わりだった目的。それが大きく変わった。まだまだ出発したばかりの俺たちには、先が長いようだ。
それを知ったからか、段々と目の前が明るくなる。この常闇からも解放されるということだろう。魔人の頂点――カグヤ。お前が俺を求めていた理由は、必ず果たしてやろう。
明るくなるにつれて、体が軽くなる。これが実力の解放というやつだろう。最強としてこの場に足を運び、誰にも正体バレずに踏破出来ると思っていたが、そんなことも出来ないらしい。
最強として更に力をつけて、自分の持つ最強を超えるしかない。俺には託された思いがある。忘れていた理由は、縛り、若しくは呪いのどちらかだ。どちらにせよ、その呪縛は解けた。ここからが本当の最強だ。
光が目の中に飛び込んでくる。眩い。
待ってろ。
「ディアム・タルガー。デルア・ディール。恩を返すよ」
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