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第二百九話 絶望




 それを感じたか、カグヤもニヤッと口角を上げる。何をされても良いのだと、私こそ覚悟はあるのだと言っているよう。これまで待ち続けたイオナの力を見れることに、よだれを垂らしてもおかしくないほど、周りが見えてないよう。


 そんなカグヤを見て、イオナは目を細めて言う。


 「時間停止も消えて、ここでアドバンテージを取られて、未知の中で走り回って、その結果不利に押されてここまで来た。仲間のモノマネはされるし、七星魔人は弱いし、サントゥアルでの復讐も出来ないし、13万の処理を任されるし。飽きたな、この環境も」


 「飽き性か?私はこの環境で何年もお前を待ったというのに」


 「人間と魔人を一緒にするな。感情なんて働いてねーくせによ」


 魔人は屍。感情なんて人間の見様見真似でしかない。だから、マークスもボグマスもラランも、全員が感情を失っているため、あれらは演技だ。あるのは特定の目的を果たすための憎悪だけ。それ以外は捨てられている。


 「それもそうか。ならば最強、全力で来い。長期戦は私も好きではない。最強の底を知るならば、やはり最強の全力を知るべきだろうからな」


 「全力、か」


 言い淀んだ。下を見て、全力を出すことに抵抗があるかのように。


 「良いだろう。人生初の全力だ」


 「イオナ!」


 「大丈夫。勝つからそこで休んでろ。この魔人は俺が殺す。その背中の傷をつけた相手を、生かすわけにもいかないだろ」


 絶対的な圧だった。絶対に許さないと、その意志に組み込まれているかのよう。


 「よっしゃ、構えろ、カグヤ」


 全力に切り替えたのが分かった。思わず両腕を体にギュッと引き寄せるほど悪寒がした。ザワザワし始める木々たちに、イオナの目は確実な殺意を顕にしていた。殺すのだと、存在を否定するために。


 「そういうの、私は大好きだ」


 抜刀し、構える。右腕に握った刀を、突き出すようにイオナへ鋒を見せる。左手はぶらぶらさせたまま。ここから変わり行く2人に、私は置いていかれていた。


 距離感は15mほど。でも、2人には1歩と大差なかった。それだけその場と間合いは短かった。刹那の世界。どんな距離でも時間停止を無効にするほどの速さで動く2人には、どちらが先に刀を心臓へと突き刺せるかが鍵だった。


 殺伐とした雰囲気が漂う。これでどちらかが死に、どちらかが生き残る。その死の先にイオナがいないことだけを、私は痛む体の中で思った。


 そしてその空気感は、音すらも両断するほどの勢いで砕かれた。両者、目を合わせて瞬きをした、その瞬間。


 「蓋世心技・冥」


 「蓋世心技・冥」


 お互いに同じ技。世界で一般的に知られる最強の剣技。剣技を極めしものにしか扱えない、正真正銘敗北を知らせない剣技。かつてイオナが一騎討ちで放ち、私とノーベ、そしてエイル3人の()()の防御でやっと止められた技。真似た剣技よりも、染み付いた剣技を出すのは、それだけ本気だということだろう。


 真剣な顔つきでお互いが寄った。すぐに粉塵が舞い、その結果は見えなくなった。音速を超える速さ。お互いに書物に書き残されるほどの、瞬間移動を可能とするからこそ成し得た勝負。交わる瞬間に、カグヤが笑ったように見えて、私はゾッとした。


 ドンッ!!と激しく音が鳴る。刀と刀のキンッ!という高い音はなく、岩と岩とがぶつかったのかと勘違いするほどの轟音。私は目を逸らすほどの風圧に、思わず刀を地面に突き刺して耐えていた。


 土煙が激しく舞うから答えは分からない。どちらの声もしないから勝敗は分からない。けど、嫌な予感は常にあった。消えない拭えない、あの笑み。私はこういう時の不安は何故か正解するのだと、自分を嫌悪した。


 微風に退かされる粉塵。見え始める結果。私たちに見えたそれらは――死を意味していた。


 「……え?嘘……」


 「……何が……」


 「……どうして……」


 3人が私の背後で呟いた。悲鳴は上がらない。それほど余裕がない。目の前の情報の処理に、脳が認めたくないからと遅延が発生する。


 目の前に見えたその絶望は、紛うことなきイオナの敗北だった。心臓に1本の刀。真っ赤な刀身に血がついても違和感はない。そして貫通したその刀は、確実に息の根を止めるものだった。


 「弱い。これが最強?もっと苦戦すると思っていたけどな」


 立てない。今が1番カグヤを殺せるタイミングなのに、それでも動けなかった。刀に串刺しにされ、未だに空に向けられて負けを晒されるイオナを信じれなかった。


 カグヤは刀を地面と平行にすると、貫いたイオナを蹴り飛ばして刀から剥がした。高速で飛ばされ、無抵抗で木に背中をぶつける。しかし――反応はなかった。それもそうだ。心臓を貫かれて生きれる人間がいるわけないのだから。


 「残るはお前たち。なるべく早くに同じ場所へ逝きたいだろ?勝負にならないんじゃ、楽に殺してやろう」


 「……あぁ……イオナ……イオナ……死んだ?イオナが?」


 自分を保つのは不可能だった。今まで追っていた背中が、一瞬にして消え去った。信頼していた人が、弱いと言われて殺された。その現実が、私は受け入れられない。


 「壊れたか。これではもう魔人にする必要もないな。死んでもらう」


 私の背後へ回る。一応を考えて、目の前まで油断してくることはなかった。でも、私には抵抗する気なんてなかった。もう、ここに残る理由がないから。


 私は受け入れるつもりで両手から刀を落とした。

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