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第二百七話 救いの手




 その威圧の声が聞こえて、私は瞬間的に安心した。その声の主。唯一カグヤに対抗出来そうな猛者。人間の最強を背負った存在。私とは比べ物にならない存在。私は安堵感から脱力感に襲われた。


 その声の主――イオナによって放たれた無言の斬撃は、カグヤの我流剣術を一撃で消した。カグヤも咄嗟に防衛するほど強力だったのだろう。全身血だらけのイオナ。13万を滅殺したのだと、その無傷の体は伝えた。


 全て返り血か……。


 「予想を遥かに超える早さだな、最強」


 「そこらに生えた雑草を剣技で薙ぎ払って消してやっただけだ。これで早いと思えるお前の弱さが底知れるな」


 豪胆なのは変わらない。いつもの、自分が最強だと思い込んでの話し方は私たちに安心感を与える。


 「ったく、足止めしやがって。お前は俺と1対1を望んでるんだろ?俺がここに来た以上、ルミウたちに手を出すのはもう止めろ」


 「嫌だと言ったら?」


 「お前は必ず頷く。そんな面白みのないことで時間を潰すな」


 「そうか」


 少し落ち着くと、私は強い脱力感から意識を保つのもやっとな状態となるのを自覚した。フラフラと、気派を纏わないと今にも倒れそうな。その時、すぐ耳元で再びキンッ!と刀が触れ合う音がする。


 「流石だ。これにも難なく対応するとは」


 「お前は必ず頷く。そう言った。間違いないだろ?」


 「確かに。これならば逆に力のない4人を狙う方が、私には不利となるからな。良いだろう。最強との1対1。ノッた」


 万全でも避けれなかった攻撃を、イオナが軽く守ってみせた。私に刀が触れないように受け止めただろうに、片腕なのはそれほどの自信を表していた。カグヤはイオナの提案を承諾すると、後ろへ飛んで戻る。


 「これまた酷くやられたな」


 そっと、私の肩とフィティーの肩に触れる。横に並んで限界の近い私たちを、その代名詞とも言える歴代最高の気派で助ける。温かくて落ち着く。激戦の後とは思えない安らぎが体全体を纏う。


 「イオナ……」


 「遅れて悪かった。皆、今はもう何も話さなくていい。ルミウは背中の傷も癒せるようになるまでは、戦闘はしなくていい。フィティーも全身の傷が酷い。シルヴィアとニアをよく守ってくれたな。後は任せてくれ」


 私たちへの最低限のサポートを終えて、憤りを顕にしたイオナはカグヤの目の前まで向かう。心許ない木の幹に背を預け、私は最強の瞬間を見逃さないと、復讐をしてくれと思い見つめた。


 「さぁ、もういいぞ。いつでも準備万端だ。お前を殺せるかは分からないが、死ぬまで抵抗してやるから、全力で来いよ」


 「やっとか。待ちくたびれたぞ。私はここ何年もお前を待っていたんだ。その分の全力は出させてもらう」


 「全力……ね。楽しめればいいが」


 そう言ってカグヤと同じように何もかもを消した。そこに無機物が立っているかと錯覚するほど無だ。人間業ではないのは確かだ。どうしても人は生のエネルギーを持つ。それは私の固有能力でどれだけ小さくても察知出来る。でも、2人にはなかった。


 そしてついに始まった。いつ、なのかは私も分からなかった。姿が消えたと思ったら、現れて周辺の木々を薙ぎ倒す。刀と刀が交わる瞬間をギリギリ目で捉えられるが、接触した1秒後に木々が薙ぎ倒されるほど時間差はある。それほどお互いに速い。


 「何も見えないけど、戦ってるんだよね?」


 それに不安を感じるニア。ポツリと呟いた。


 「私の目にも少ししか見えないけど、戦ってるよ。攻めてるのはイオナだけど、お互い余裕はある」


 絶え間なく続くイオナの連撃。攻撃をさせないと、その無限の体力を有効活用しながら衰えを知らぬかのように攻める。刀の音は高く同じで、折れる気配もない。


 戦う場所が更地へと変化していくように勢いが強い。地面すらも抉れて、人間が戦ってるとは思えないほどの圧が風となって吹き荒れる。視点移動もそれなりに忙しいから、気を抜いたら見失って2度と追いかけられない。


 基本スタイルはカウンターでの一撃だが、それをしないということはカウンターを出来ないと判断したと同義。攻め続けてるのを見るに、我流剣術を受けたくないのかもしれない。


 このままでは決着はつかない。一方的に攻め込むイオナが優勢になる可能性が高いが、一筋縄では攻略出来ない相手だ。油断も隙もない。しかし。


 「くっ!」


 イオナがそう一言溢した。同時に私も感じた。体から体力が抜けていく感じを。


 「お前は聞いてなかったか?私は時間を操る。今まで体力が無限だったのもそのおかげだ。しかし、それをなくしたなら、お前はどうなるんだろうな」


 言われてイオナは攻撃を止めた。そして大きく後ろへ下がる。その動きは鮮やかで、一切の隙はなかった。でも、余裕は消えていた。ここからはどうするべきか、既に考えたのだ。


 「面倒だな。いきなり体をイジられたようで違和感しかなかった。何かやられたかと思ったが、そんなこともなかった。戦闘中に切り替えるなよ」


 「それも私の力だ。お前が言ってるのは刀を使わずに戦えと言ってるようなもの。未知だと知って踏み込んだなら、受け入れろ」


 「受け入れてるけどな?ただ、気持ち悪いって言ってんだよ。気持ち良く走ってる時に、いきなり泥濘に踏み入ったら気持ち悪いだろ?そんな感覚だ」


 「ほう。ならば別に支障はないと?」


 「そう言ってるように聞こえないなら、お前はバカだな」

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