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第二百六話 限界




 「ルミウ大丈夫?」


 ニアの、今の私を見透かしたような瞳。どれだけ希望を持とうとしても、悉く潰されて折れかける。それに気づいたから、心底悲しい目で見る。


 「大丈夫じゃないけど、イオナが来るまで2人は守る。それだけは約束する」


 私は死んでもいい。だが、この2人はダメだ。フィティーも良くないが、まだ剣士として戦えるのならば、戦えない2人を守るために尽力するはず。レベル6が2人で2対1だというのに、それでも足元にも及ばない。最悪の相手だ。


 「その約束も果たせるといいな。4回目。剣技を使ってみるか。久しぶりだが、多分お前たちには十分通用するだろう。死にたくないなら、死ぬ気で構えろ」


 変わらずレベル1の剣士とほぼ同じ気派をしている。全く感じない、黄泉の世界にいるかのよう。カグヤは構える。私が知る最強と全く同じ構え。猛者は全員同じなのだろうか。


 「フィティー。剣技を同じ場所に放って全力で受け止めるぞ。それしか方法はない。いけるか?」


 「もちろん。これで死ぬのは嫌だからね」


 「タイミングを合わせろ」


 「了解」


 もう、体を防御する気派は必要ない。攻撃を受ければ死ぬのだから。することは1つ。刀に全ての気派を送り込み、防御に特化すること。


 私とフィティーの全力ならば、鍔迫り合いは出来るはず。未知でもイオナの3倍と高く見積もっても、止められる計算だ。これを弾き返すならば、その時は本当に勝ち目のない相手として、そのまま死ぬしかないだろう。


 この、殺意もなにもない、無に囚われたような生命体に負けるのは癪だが、これがイオナに付いていく選択をした私の最期なら、受けいれるしかない。せめて、目の前で死にたいけど。


 集中し、構え続ける。カグヤはまだ動かない。剣技を脳内で放ってイメージトレーニングしているのか。無からの突然は不可避だ。集中力も高い今、来てほしいのだが、それを思っているのを知るから来ないのかも知れない。


 しかし、それでも勝てるのがカグヤだった。


 「我流剣術・(いつわり)


 フッと吹いた体の前の風。それを見逃すことはなかった。


 「蓋世心技・紅」


 「蓋世心技・剣」


 重ねてフィティーも反応する。お互いに得意な技であり、最大火力を出せる剣技。目の前に迫るカグヤ本体。刀はまだ届きそうになかった。でも、全く凌げる気配はなかった。思いもなかった。あまりにも捉えやすい太刀筋。違和感を覚えたのは――遅かった。


 「ルミウ!フィティー!後ろ!」


 ニアの迫真の声。


 「はっ!?」


 フィティーが気づく。少し遅れて私も。そこに迫る刀は残像だった。一直線に引かれた私の紅は止められなかった。時間停止により、必然的に本物とすり替えられた私たちの斬りかかる残像。消えてしまって私は空を斬っている。


 でもまだ希望はあった。先に気づいたフィティーが背後へ刀を向けていた。カグヤの刀は正確に私の背中を狙っている。もう少しで深く斬り込まれるのが、長く感じる時間の中で分かる。


 そしてキンッ!と高鳴る接触の音。フィティーはカグヤの刀を止めていた。圧倒的に押し負けているが、それでもまだ鍔迫り合いは続く。


 倒れかかった態勢を整えようと、私は地を強く蹴った。だが、それも遅かった。


 「――うっ!」


 背中を、刀が止められても尚、迫っていた斬撃が襲う。そして私の鮮血が宙を舞う。久しぶりに見た自分の血。あまりにも剣技が強すぎて、纏った気派が斬撃となって飛ばされるとは、流石にやりすぎだ。思わず苦笑してしまう。そんな私に余裕はないというのに。


 1度地面に手をつき、態勢を整える。するとキンッ!と今度は響かない瞬間的な音が鳴り響いた。フィティーの刀が折れたのだ。


 「嘘!?」


 「やはり耐えられないか」


 「蓋世心技・滅!」


 「その傷を負っても攻撃するか。愚かだな、リュンヌの末裔。我流剣術・無尽万象」


 ラランの使っていた剣技。まさかカグヤが師匠だったとは。カグヤの体の周りに透明な刀が展開される。数は50を超えるだろう。反転のように並ぶと、私たちの休む暇もなく斬撃が飛ばされる。


 「ヤバいよ。さっきは未来を見てたから往なせたけど……!」


 「大丈夫だ!感覚を信じて往なせ!そうしないと2人が死ぬ!」


 滅を5つの斬撃で止められると、次から次に倍以上の斬撃が飛んでくる。躱すには2人には死んでもらうしかなくなるのだから、受け止めなければならない。


 必死に、疲れを知らない四肢を動かして斬撃を往なす。でも、ラランの時とは同じに事が運ぶわけもなく、往なせるのは8割程度。残りの2割は、私の体を掠めて鮮血を散らせる。


 「くっ……」


 頬も横腹も両腕も両足も、往なせない斬撃に傷をつけられる。痛い。久しぶりの痛覚に、背中の痛みを忘れさせられる。止まらない血。このままではいつか目の前が暗くなる。


 フィティーも耐えてるだけで、反撃は不可能。それほど技量はないから、守ることで限界。


 「ルミー……」


 「大丈夫だ!そこに座ってろ。あいつの斬撃には無限に耐えてやるから!」


 弱々しい声音にも、私は力強く答える。嘘だろうと、守れないと死ぬんだから、関係ない。耐えて耐えて耐えて、耐え続ければ、きっと光は差し込む。私たちの信じる最強が、待ってろと言った最強が、今すぐ来るのを()は待つ。


 「うおぉぉぉ!!!」


 傷は治らなくても、体力は無限。耐えてやるさ。そうすればきっと――。


 「おい」


 ――来てくれるから。

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