第二百一話 死んでくれ
「ラランも殺されたか。イェン、どっちが最強だ?」
カグヤは己のが統べる七星魔人の残り4人の1人、イェンに問うた。荒れ狂う天候の中で、その場にて待つカグヤの絶対的な力に怯えながらも、それを隠してイェンは答える。
「この地へ足を踏み入れた際、5名を2名と3名に別れさせました。そして2名の侵入者の先にゼビア、3名の侵入者の先にラランを送り込みました。その結果、2名に別れた侵入者たちが先にゼビアと交戦。1人で討伐したことを確認したため、おそらくゼビアを殺した剣士が最強かと」
「名は?」
「シーボ・イオナです」
「シーボ・イオナ……なるほど」
怪訝な表情を浮かべてすぐ、イェンに見られないよう無表情に戻した。思い当たる何かがあったか、それとも予想と違ったのか、何にせよ、カグヤが顔を顰めるのは普通のことではない。
この地に足を踏み入れた瞬間に名を知ったイェン。御影の地の最古参の魔人として、様々な異能力を熟知し、網羅している。だからこそ知れた名。きっと分からないと答えれば死んでいただろう。ボグマスのように。
「お前も殺しに向かうか?」
「私の望みは人間の抹殺。その望みにシーボ・イオナも含まれます。ですので、可能ならばぜひ」
「そう。勝算は?」
「底が見えないため、今のところは何とも言えません」
「お前は残る4人の中で何番目に強い?」
カグヤはかつてないほど興味を抱いて問う。待ち遠しくて、その高揚感を隠せないほどに興奮しているのだ。やっと来た世界最強。待ち望んだ彼との対面。それを早くと、歪な考えの中で1秒も忘れず思う。
「1番かと」
言った瞬間、周りがピキッと凍りつくような空気感に覆われた。残る3人は全員認めてない様子。
「ならば、1番のお前でも勝ちを確信出来ない相手ということか」
「いえ、相手の力量を知れてないので何とも言えないだけです。正直勝つ自信はあります」
「そう?なら、1つ試してみよう」
「何をですか?」
カグヤは答えず、黙って人差し指をイェンに向けた。静寂に包まれるこの場所で、再び凍りついた空気感。即座にイェンは悟った。
「刀を握って私に斬りかかってこい。それが出来たら、お前がシーボ・イオナと戦うことを許可する」
「…………」
全く動けないイェン。喋ることも出来ず、体をピクピクと動かすことすらも出来ない。まるで時が止まったかのよう。瞳孔だけが激しく揺れる。
「これがシーボ・イオナがゼビアを殺す時に使った技。体の動きを完全に停止させる不可避の絶対死。お前にこれの対策が出来ないなら、行っても死ぬだけ。どうする?死にに行くか?」
人差し指を曲げて自由に戻す。イェンはその自信を正面から捻じ曲げられた。死を悟ったから分かる、2度目の死への恐怖。駆られてしまえば終わりだ。
「エドゥ、フィール、フェイン。お前たち3人も勝てはしない相手に戦いを挑む気はあるか?」
各々自分が1番強いと自覚している七星魔人。でも、本能的にイオナに勝てないと悟った。それはイェンを見れば十分把握出来た。身動き1つ叶わずに死んでいく。それを受け入れられるほど、七星魔人は負の感情を抱く量は少なくない。
「……無理です……」
エドゥが答えた。
「なら、ここで死んでもらうのもつまらないから、4人で一気に攻めて殺しに行ってこい。他にも魔人は何人でも連れて行っていい」
イェンたちには絶望的なことを言われていた。自分が崇拝する相手に、死んでこいと言われているようなものだから。きっと勝てないことを知っているから、自分が倒したい相手を殺しに行かせる。力量を知るために、生贄にされる。
それを知っていて。
「……分かりました。本当に魔人は何体でも連れて行ってよろしいのですか?」
頷くしかなかった。未だ少し残る勝ちの自信を頼りに。それに縋る思いで。
「もちろん。この地の魔人を全員連れて行っても構わない」
知性を持つ魔人は4000程度。しかし、その他の魔人ならば10万は余裕で超える数居る。それらを引き連れれば、もしかしたら。そう可能性を信じる。
「ここからだと約150km先だから、準備整い次第、私が飛ばす」
笑顔で言うが、その裏には優しさも慈悲もなにもない。ただ、自分が戦うための引き立て役になれと、そう言っている目をしていた。
「了解しました」
「では早急に動き出せ。お前たちの最期の全力を見せつけろ」
どの道ここに来れば魔人は全員殺される。そう知るから、もう七星魔人は受け入れた。どうせなら総攻撃で潰すしかないという、カグヤの判断を信じて、少しでも役に立って死のうと。
この先に見える魔人の未来は薄い。カグヤが最後の希望だ。 足を踏み入れた瞬間に魔人を襲ったイオナの殺気。カグヤだけが、その瞬間に適応したことを悟った。バケモノが来たと。正真正銘、最強が来たのだと。
それから5分後だった。カグヤの理解不能の能力により集められた戦力。総勢13万の魔人たちを集め、カグヤ以外の魔人がその時を待った。たった5人に対しておかしな戦力。それでも勝ちの薄いと言われてるような感覚に、先頭でイェンは下唇を噛んだ。
侵入者を決して帰さず殺めてきたエリート集団は思う。何故七星魔人でも勝てない相手の侵入を許可したのだと。役目を果たせずに終えることを、再び恨んで、柄を強く握った。
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