第二百話 どう動く
「ならそろそろ降りるか」
「分かりました」
殺気すら漏らしてないのに、私が怖い人のように言われるのは心外だけど、さっきの話を聞けばこういう対応にもなるかと一応理解はする。すぐにサッと泥濘に足を着けるとグチャッとこの場に相応しい音が鳴る。
「そうだ、私からもルミウに気になることがあるんだけど」
「ルミー大人気だね」
「……なんだか良くないことを聞かれる気がする。何?」
「ルミウがリュンヌの剣士だって先輩から聞いて、それってホント?」
ほら、予感が外れたことはない。
「うん。間違いないよ。私はリュンヌの剣士ルミウ・リュンヌ・ワン」
「ホントなんだ。凄い人の集まりだねここって」
もちろん自分も含めて言っているだろう。世界最強の剣士、リュンヌの剣士、異能力を持つ剣士、固有能力を持つ刀鍛冶、王国最優の刀鍛冶。誰を選んでも王国の神傑剣士の最上位の座に触れられる存在だ。
「そうじゃないとここに来れないからな。ところで、そこに倒れる屍には二刀流で?」
「そうだよ。我流剣術士だったから、流石に一刀流だと難しいし」
「やっぱりあいつが我流剣術士か。遠くからでも感じたから何かと思えば、初めて感じたわ、我流剣術士の圧と気派」
イオナも出会ったことがないほどの稀有な存在。それを相手にして勝てたのは、今は誇るべきことだと思う。いや、未だに生き残れてることを誇るべきか。
「イオナも似たようなの倒したんでしょ?やっぱり一方的?」
「見て分かる通り、片足を斬られそうになったくらい苦戦したな」
「……それは苦戦っていうの?」
今の私は見た感じボロボロ。気派で傷は浅くすんでいるけど、ローブの下は着ているものがところどころ裂かれたように破れている。苦戦してぎりぎりでこれを保てているのに、イオナはたった1箇所だけで涼しい顔をしている。
差を可視化されたようで悔しさはある。けど、ほんの少しだけ。もう諦め始めたのだから、根付いた悔恨はない。
「力の差で言えば圧勝だな。初めて服を裂かれたから、その点に於いてはあいつが1番苦戦したわ」
「まぁ、服を裂かれたのは初めて見るよ。だからそれなりだったのは分かるけど。いつもと変わらず圧勝ね」
「私たちは苦戦したっていうのに。1人で勝てるとか、どんな力持ってるのか気になりすぎるよ」
「フィティーの1万倍だな」
「……悔しさも滲まないね」
割と嘘でもなかったりして。気持ちを読めない人間だから、それが本当かは見抜けない。未知数というからこそ、本当に言ってそうで若干怖い。味方でいてくれることが心強過ぎる。
「そんなことより、取り敢えず今は全員揃ったから次の目的を決めよう。七星魔人に対して勝てたなら、今後はそんな厳しい相手が出てくることはないと思える。負けることはないだろうし、体力も底なしだ。だから先に進むか、手分けして何かしらの情報を手に入れるかのどちらかを迫られる」
まだ執拗に聞いてくるのかと、私のことを知ろうとしてくれることに嬉しく思っていたが全くの勘違いで恥ずかしい。イオナはやはり興味は薄かったらしい。まぁ、その方が好都合だから良いのだが。
「この敵、ラランっていうんだけど、ラランで私たち全力で勝てたくらい。もしラランが七星魔人最弱なら全員行動が良いと思う」
「んー、知らないからな。俺の倒したゼビアってやつもそんなに強くなかったし。多分そいつは中間程度ってとこだろ。ボグマスより少し強いくらいの。御影の地の外に出たら8割に減少するって考えれば計算合うしな」
「その見立てでいくなら?」
「安全第一だから、俺も一応全員行動が良いと思う。でも、効率が悪いからな。その分忙しくなる」
「そこは私の左目に任せて。ここらで気になる場所を探して見つけたら教える。そして半径1kmだけど、それでも周りのことは把握出来るから、少しずつ進まない?1度通った場所は分かるから、その時も言うし」
御影の地は木々に囲まれた視界の悪い場所。どうしても1度通った場所を覚えれるほどの目印はない。だから、フィティーの異能はそれだけ助かる。
左目にはあらゆる異能があり、先程の戦闘の際の未来予知を始めとした、魔人が相手ならば発動する、唯一無二の特異能力。ならば、もしかすると他にもこの地に適応した異能があるかもしれない。それらをフィティーが把握すれば、少しは道は切り開ける。
「それは良いかもな。ずっと何もなければ終わりだけど」
「大丈夫。入って早々こんなことが起きたんだし、私が来たことも、イオナが来たことも知ってるだろうから、黙ってみることもしないと思うよ」
1人の女性がフィティーに話しかけて、ここにもう1度来るように逃したと言っていた。それが本当ならば、何かを仕掛けるのは予測される。あくまで可能性の話だが、イオナとの交換条件を承諾したならば、少なくとも逃がすことはしないはず。
こうして迷路に迷わせて楽しむ子供のような性格をしているわけでもないだろう。サントゥアルを崩壊へ導こうとした残虐な魔人が筆頭。ならば、己の手で殺めたいと思うのが、魔人という醜い生き物の果てとして思うことのはず。きっと何かを仕掛けてくる。若しくは待っている。自分たちのなにかに、私たちが触れることを。
毎日投稿続けて、完結まで約2ヶ月なので、お付き合いよろしくお願いします。