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第百九十九話 合流




 我流剣術士に出会ったのはこれが初めてだ。だから今までのどの相手よりも苦戦したのは間違いない。私がリュンヌの剣士だとしても、一騎討ちは多分私の負けで決まったはず。


 それほどにラランは強かった。ここら一帯を無に還すことが出来るほどの圧倒的な力を持っていたから、あの時シルヴィアの判断と、フィティーの助けがなければ死んでいた。命拾いをしたと思うのはこれが初めて。心底安堵する。


 そんな私にシルヴィアは疑問はまだ残ると問う。


 「気になるんだけど、なんでリュンヌの剣士だってことを隠してたの?」


 「人気者になるからね。リュンヌの剣士なら後世に子孫を残し続けないといけないから、私を死ぬ気で捕らえようと各国の剣士たちを総動員で送り込まれることも考えられたから。過去にそんなこともあったらしいし。だからそれから追われないために隠してるんだよ」


 「なるほどね。ってことはイオナも知らない?」


 「いいや、イオナには伝えてるよ。私がイオナを信じた日に、特別にね」


 「うわっ、そういうとこ乙女してるんだ……」


 「うるさい」


 信じた日というのは、好意を明確に抱いた日だ。イオナなら知っても守ってくれる側になってくれると信じたから、私はイオナにだけそれを教えた。それを多分知っていても、イオナは私が好意を抱いてることには全く気づいていないけど。


 「でも、それだけなら口調が変わる意味って何なの?」


 言われてから引っかかっていたようで、フィティーが唸りながら溜め込んだ疑問を吐き出した。


 「楽だから。さっきも言ったけどこれは私の体裁を保つための喋り方。本当は男勝りっていうか、男性よりの口調だから、そっちの方が無駄に意識することなくて集中しやすいんだよ」


 「繊細ってわけでもないだろうけど、大変なんだね」


 「久しぶりにああなると、逆に慣れなかったりして支障を来さない?」


 「そうならないようにこの喋り方には常に違和感を覚えるようにしてるから、いつでも元の喋り方に戻せるよ」


 「流石エアーバーストの使い手。緻密なことが得意なようで」


 幼い頃からリュンヌの剣士として育ち、師匠の言葉遣いを一心に受けた私は、自然とこの喋り方を偽りとし、一人称を俺という男性のような喋り方になってしまった。


 嫌ではなかった。それが師匠との些細な思い出として残るから。でも、神傑剣士として名を轟かせた時、流石に良くないと思った。何故なら、その時にイオナに出会ってしまったから。


 いつからか忘れた。こうして変な女だと思われないよう取り繕うようになったのは。きっと気づいていないだろうからいいものの、エアーバーストなんて能力がなければ今頃恥ずかしい思いをしていただろう。


 ホントに良かった。


 「ルミウ、シルヴィア、フィティー、無事か?」


 安堵した瞬間に、久しぶりとも思える声音が響いた。毎日会って話していた今までからすれば、少しの離れも私には大ダメージだった。でも、これからはそうならないだろうと確信するほど高ぶる声音。


 私たちは即座にその声のする方を見た。完全に倣うことが出来ず、真っ白な横髪が若干私の視界に映るほど速く。


 「あぁ!イオナじゃん!やっと会えたね!」


 こちらへ走るイオナに先に気づくシルヴィア。無事なことを確認して、お互い嬉しそうに内心ホッとする。イオナの胸の前にはニアが抱えられていて、これで全員が揃ったことになった。


 「いや待って、ルミー、あれって本物?」


 「ははっ。確認しなくてもあれはイオナだよ」


 声音で分かる。姿なんて見なくても、唯一無二の優しさの込められた誰も出せない声音で。


 「それなら良かった」


 「ルミウたちも下手なモノマネ人形見せられたのか?」


 「ってことはイオナたちもか。すぐ殺したけど存分に見せられたよ。イオナは?」


 「泳がせて何か聞けるかと思ったけど、天候の悪さに邪魔されたから自爆する前に殺した」


 「それ、ホントに泳がせたの?分からなかったからじゃなくて?」


 「残念だが、ここにいる4人と神傑剣士と王族家の姿を見間違えることはないんだよな。どうしても特徴的過ぎて」


 「そう。ならいいけど」


 答えは知ってても聞きたかった。聞いて安心したかった。自分の気持ちをついさっきまで吐露していたからか、どうも落ち着かない。目の前に自分の想い人が居ると思えば、自然と言葉に気をつけようと猫をかぶる。


 だが、返ってきた答えは嬉しかった。私たちのことを初めとし、その他の自分の守るべき人たちを絶対に信じていると伝わるから。私だけじゃなくても、これだけは許せた。


 「やめてよ、さっきの話聞いた後だと怖いって」


 「さっきの話?」


 「あー、イオナには関係ないよ」


 「寧ろイオナにしか関係ないけどね?」


 「シルヴィア……」


 「何々?めちゃくちゃ気になるんだけど」


 きっとこういうことが、私との相性最悪なとこなんだろう。刀鍛冶として信頼はあるが、それ以外の、特に恋敵としてはとても邪魔な存在。お互い思うからこそ、今ここで邪魔をする。


 興味津々に気にしてると言うイオナ。私からすると然程興味なさそうだが、本当はどうなのか読み取れないから分からない。


 「いつまでもニアを抱えてるとルミウに殺されるよ」


 面白そうだと、フィティーも加わる。恋心なんて抱いてないのに、私の敵になるのはいつだって私の狼狽を見たいから。困った仲間たちだ。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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