第百九十八話 リュンヌの剣士
休憩といっても憩いの場なんてのはないし、ただ曇天に包まれる中で、その場に腰を下ろす程度が休憩となる。屍となったラランのすぐ隣に座るのも、普通に嫌だけど、今は探すのが面倒という方が勝った。
蓋世心技により斬った木々は、ちょうどいいように椅子として使えた。泥濘にお尻をつけるよりも、それはもう楽で助かる。
「それで?何から聞きたいの?」
気になって落ち着けないというフィティーとシルヴィア。2人に向かってそのモヤモヤを解いてやると待ち構える。
「まずはその喋り方からでしょ。ルミーの専属刀鍛冶として初めて見たんだけど?」
「初めて見せたからね」
元はこの喋り方は好きではなかった。でも、こうしないとイオナに変に思われそうだったし、何よりも威厳と風格を保てなかった。最強として、常に盤石な態勢を整えた剣士として、その場に立ちたかったから。
「スイッチみたいなもの?」
「どうだろうね。本気を出してしまえば、私は自分のことよりも周りを優先するから、そこでストッパーが外れるのかも。オラオラする方が気持ちいいし、戦いやすいからついね」
「ふーん。イオナに嫌われたくないとか言ってたけど、好きなの?」
「あー、それはそうだよ。イオナのことは私が18の時から好きだった。出会って少ししてからだね」
「ルミウ様ってそこに恥じらいないんだ。聞いてるこっちが恥ずかしくなるんだけど」
両手で顔を隠して、指の隙間からチラチラと私を見るフィティー。王女としての乙女心があるとは思ってなかったが、そうでもないようだ。
「別に人を好きなことに恥じらいはないよ」
「えぇー。でもルミー、イオナの前だとクールにしてるし、照れる時もあるじゃん。リベニアの王城で私が夜這いしようとしたら止めてくるし」
「イオナの前では素直になれなくて。それに、私は人より独占欲が強いから、本当はイオナの側に男女関係なく人が居るのは嫌い。いくらテンランでも、シュビラルト国王でも」
「怖いって」
「冗談に聞こえないのが更に……ね」
若干引くように言われるが、これは本当だ。出会った時はそうでもなかったけど、次第に惹かれていくと、自分のものにしたい欲求が強まっていった。
だからイオナを捕まえれるほど力をつけようと思って、日々剣技を磨いて、密かにイオナを捕縛しようとしていたのだが、そう簡単に捕まえれるほど弱くはなかった。それに困りに困ってるのが現状だ。
「ポンコツなのは知ってたけど、ここまでとは」
「失礼な」
人を想う気持ちは様々。独占欲が強いくらいで引かれるのはどうかと思う。誰だって好きな相手をどこかに閉じ込めて独り占めしたいと思うだろうに。価値観の違いは辛いものだ。
「まぁ、それはいいとして。次に気になるのはその強さだよ。二刀流なのも知らなかったし、いつものルミウ様より段違いに強かったから、何をしたの?」
重要視するように、体を前に倒しながらも興味津々に聞く。私からすればイオナの話の方がよっぽど興味津々になるというのに。
だが、もう私の本性とかを話しているならば、私自身の秘密を貫き通すわけにもいかない。そもそも、秘密というほど隠してたわけじゃない。誰かに聞かれれば、詮索されればしっかり頷いたくらいのことだ。
「特に何もしてないよ。今まで通り本気を出しただけ。私は――リュンヌの剣士だから」
「……リュンヌの剣士?それってあのリュンヌ?」
聞いたフィティーはその名の意味を思い出しながら、次第に驚きの表情へと変化していく。
「そうだよ。私の本当の名前はルミウ・リュンヌ・ワン。初代から子々孫々受け継がれてきた、一刀流二刀流どちらも使える剣士だよ」
リュンヌの剣士。この世界が生まれた時から数年後、現ヒュースウィット王国に、リュンヌ・フーガと呼ばれる剣士が生まれた。彼は生まれながらにレベル6という最高位の剣士レベルを授かり、奇跡的に固有能力と莫大な気派、そして一刀流二刀流どちらも使える力を手に入れこの世に誕生した。
そんな彼は幼少期からその才能の頭角をメキメキと現し、青年期真っ只中の20歳になると、最強の座を手に入れ、この世界を統治した。それからというもの、彼の血を濃く引き継いで生まれる人間は、決まって彼と同等の力を手に生まれてくるようになり、次第にリュンヌの剣士と言われ、特異扱いされるようになった。
今ではその血も薄れたと思われ、歴史上の逸話として残されるほどのことだが、実はしっかりとその血は濃く引き継がれていた。その末裔が私だ。
両親も居ないから、私はこの世界で唯一のリュンヌの剣士というわけだ。
「凄いね……。そうだ、ホントにリュンヌの剣士なら、イオナにも勝てるんじゃないの?」
「それは無いかな。イオナには多分、今後一切勝てないよ」
「なんで?そんなに差があるの?」
「考えてみなよ。私たちはリュンヌの剣士、そして御影の地について知れる異能力を持った剣士、隠密に長けたサポート型の刀鍛冶の3人で全力を出してやっとラランを殺せた。けど、ラランは言った。仲間が殺されたって。それは多分イオナが相手にした魔人のことで、私たちがいる以上、良くてニアと一緒。実質戦うのはイオナだけだから、1人でラランを殺したって考えれば、どう?私との差が少しは理解出来た?」
「……そっか。1人でラランを……」
考え込むフィティー。その左目でラランの全てを見たからこそ、よくそのヤバさが伝わるだろう。
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