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第百九十六話 三人の勝利




 初見だから確かなことではなかった。でもこれで確定した。無尽万象の1度に飛ばせる斬撃の数は16だと。後ろと前へ放たないのはそれだけの斬撃を飛ばせないから。左右の警戒を少しでも高めて、前後は捨てている。


 だったら作戦は続行だ。可能性が見えてきた。


 ラランの左側の木々を走り抜けていた私は、踵を返して元いた場所へ戻る。それを知るからこそ、フィティーもタイミングを合わせて戻り始める。


 無限に飛び続ける斬撃は、悉く木々を傷つけ倒していく。煙のように粉塵が舞い、視界をどんどん悪くする。魔人には視界に頼るということがそんなにないため、視界が悪くなろうと一切関係ない。が、それはこちらも同じだった。


 正面に戻ると、先一直線に見えるララン。未だに左右へ剣技を放ち続けている。堂々と構える姿は、絶対的な勝利を背にしたような、それほどたくましい。


 「走るぞ。死ぬ気で付いてこい」


 「分かった」


 ここからは力技だ。どれだけラランの剣技が私たちに向けられる前に距離を詰められるかが勝負。私は攻撃を防げても、多分フィティーは難しい。私の防御は人に付与することは出来ないから、その時は盾になるしかない。


 フィティーと顔を合わせて頷く。それが合図となり、私たちは同時に木々を出た。そしてフィティーが久遠刀に、先程の刹那刀と同じように気派を込めて投げながら出る。距離は20mほど。これなら一瞬で詰めれる。しかし、そう簡単には行かない。


 「ふふっ。正解は20でした」


 私たちを見た瞬間、見下すように低い声音で嘲笑う。それは、私がカウントしていた数に、更に4つの斬撃を入れた誤算だと教えられた言葉だった。不敵に笑うララン。カウントそれているのを知っていたのかと、つくづく上を行かれることにムカつく。


 体の前に4つの気派の刀が映る。魔法のように出てくる斬撃は、左右に飛ばされた斬撃よりも強く、殺意のこもったものだった。でも、私もフィティーも死を悟ることはなかった。


 「それなら、私たちも正解は3人でした!」


 そう。ここにはもう1人仲間が居る。姿も見せず、ただ木々に隠れているだけのか弱いサイコパスが。


 「後ろか!」


 「大正解」


 真後ろの木々から顔を出し笑うシルヴィア。確認した時には、既に右手から投げられた黒奇石が爆発寸前だった。顔を顰めるラランは悔やみながらも、左右に出す剣技を止めた瞬間に、逃げることも叶わず爆風に背中を押される。


 その威力で、体は前に吹き飛ばされる。だから、予測していた、止めれると思っていたフィティーの投げた久遠刀が、予想より遥かに早く自分のとこへ来る。蓋世心技を纏った刀を、いくら魔人でも両手で受け止められない。


 「何?!」


 前に放つ無尽万象も、フィティーの未来予知で久遠刀には当たらない。それぞれ自分たちに流れ込んで来る斬撃を、フィティーと難なく弾き返す。1度受けた攻撃は、2度も通用しないのだ。


 ラランとの距離が縮まったことで、勝ちはもう見えた。


 「蓋世心技・紅」


 「蓋世心技・滅」


 まだ刀を握るラランは攻撃を止められる。久遠刀に込めた滅ならば、二刀流の魔人としてそれは可能。だが、左右から更に蓋世心技を斬り込めばどうだろうか。3本手が無いと、絶対に止められない。


 更にダメ押しだ。体に纏った気派を全てオリジン刀へ送り込む。絶対に勝つために。あり得ない量の、人とは思えないほどの気派を。


 「はぁぁぁ!!蓋世心技・天!」


 必死に体をねじり、攻撃を防御に変える。剣技を受け止める気なのだろう。だが、それは賢くも無意味なことだった。


 キンッと受け止められるフィティーの刀。気派の解放により、吹き飛ばされた滅。その中で一瞬交わった私の刀とラランの刀は、私の刀がラランの刀を両断しながら奥へ進み、次第に刀を折って、静かに横腹へと侵食した。


 「――うっ……」


 血が吹き出る。完全な致命傷だった。背中は爆発により少し焼け、傷跡が。腹部にはたった今痛々しい傷が。魔人として生きるには、もう時間は無かった。


 「お前の敗因はシルヴィアを忘れていたこと。フィティーの左目を知らなかったこと。そして、私の本当を知らなかったことの3つだ」


 「…………」


 返ってくる言葉はない。本当の屍になったのだから、それは仕方ない。


 「終わったの?」


 「死んだな。これで生きてるなら、御影の地には今後近寄りたくない」


 「あぁー、良かった。絶対ヤバかった。何あの力。おかしいでしょ」


 警戒の解けたフィティーが仰向けに倒れる。あり得ない未知の力を知った感想にしては、素晴らしいほど語彙力が欠けていた。


 「お疲れ様ー。よく倒せたね」


 木々の奥から姿を見せるシルヴィア。疲れた様子はなく、姿を消していた功績は大きかったがそれに似合わない元気さだ。


 「ふぅぅ……2人が生きてて何よりだよ」


 「あっ、いつものルミーに戻ってる」


 「あれが私の本性だから、いつものって言われると違和感あるけど。まぁ、いつも見せる私に見慣れたら仕方ないか」


 戦闘に熱が入ると出てきてしまう。恐怖に駆られると出る仕様じゃない。全力で相手を倒さないといけない時だけ出てくる。本当の力を使うのは、あんまり好きではないけど。


 「味方について、敵について、色々と気になることもあるし、今は少し休みたいな」


 きっと味方についてっていうのは、私のことだろう。

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