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第百九十四話 我流剣術




 実践での初めての蓋世心技。完璧なタイミングと完璧な剣技だった。これが才能というやつだろう。難なく使いこなしてる様子は、一国の王を務めるものに相応しいものだ。


 褒められて親指を立てるフィティーに対して、開けた場所により戦闘がし難いと感じたのか、顔を顰めるララン。どうも気にくわなそう。


 シルヴィアは剣技の届かないとこで、未だ1人自衛のための黒奇石を持って潜んでいる。それを上手く活用出来るなら、勝率は上がるだろう。


 「これで、視界も晴れて、好きなだけ暴れれるようになったな」


 「それでも2対1は変えないのかな?」


 「お前がハンデを消したんじゃなく、フィティーがハンデを消した。紛れもない実力でのハンデ潰しだ。それならタイマンする必要もないだろ。ハンデを消されたお前が悪いんだから」


 「それもそうか。まぁ、本気で戦えばタイマンだと私が勝つから、これで平等かな」


 「自信満々だな」


 自負している。まだ本気を出さないでいるのに、こうして渡り合えてるのだと、そう知らしめているよう。確かに全力でも対抗は難しい。それほどに強い。だが、勝てない相手でもない。


 「もちろん。だって私は七星――」


 言葉を止めた。何かを感じたように顔を一瞬だけ顰めた。捉えたその表情は、どうも驚きがある。そんな疑問を抱いていると、心底残念そうに、でもその残念の先は私たちに向けてじゃないように言う。


 「残念だけど、お喋りとお遊びはここまでみたい。七星魔人の1人の気配が完全に消えた。君たちの慕う最強が1人で終わらせたようだね」


 「そうか。流石だ」


 単独で倒したのなら、せめて苦戦していると報告を聞きたいものだ。全く苦戦せずに倒したのなら、更に差が開いたように感じて、イオナとの関係に空虚なところが現れてしまう。


 きっと、欠伸をしながら、油断をしながら、圧倒的な力で沈めたに違いないけど。


 「はぁぁ、これで五星魔人か。どんどん寂しくなるなー」


 こればかりは分かる。信じたくないほどの気派が、制御出来ないのかと疑うほどに漏れ出ていると。怒りからか、収まる気配はない。それに気付いて尚、何もしないとこから、これがラランの普通なのだと悟った。


 息苦しい。近づけばきっと死を目の前に思うだろう。震える体は、勝ち目がないと言っているようで、本能的にも今すぐ逃げろと警告しているのが分かった。


 魔人のくせに仲間思いなのがムカつくが、そんなことを悠長に思えるほど余裕も何もない。刀を構えて一瞬を、刹那を見逃せない。


 「これで私が死ねば、他の七星魔人たちも死ぬのかな。それは会えるってことなら嬉しいけど、死ぬってことは嫌だな。そうだなー。これは最強にとって置きたかったけど、ここで殺せば別にいいか。ゼビアも死んだなら、少し謎な君にも使って良いだろうし。特異な人間たち相手なら、使うにギリギリ値するよね」


 1人で自分の中の多重人格と会話するように、ブツブツと言う。1文字ずつに言霊が込められてるようで、どんどんと力が湧き上がるのが、可視化されて分かる。


 ヤバい……な。


 「君たちには興味はない。だから全力で殺す――今すぐ死ね」


 一気にブワッと放たれる気派。それは殺気に包まれただけの見えない斬撃のようだった。脳が本能的に死を覚悟しろと命令しているよう。そしてついにそれは激しく教えた。


 「我流剣術(がりゅうけんじゅつ)無尽万象(むじんばんしょう)


 「!?」


 我流剣術。それは古来より伝わる、その人間だけが唯一使える技。鍛錬し、技を磨き上げた極致に立つ者だけが許された、至高の剣技。そして、レベルによっては蓋世心技をも超える万物を支配するといわれる力だ。


 ラランの体の前に可視化された刀がこちらに鋒を向けて構えられる。無数にあるその刀は数えられない。大小様々で、それなりに力量も変わるのが分かった。あれが飛ばされれば二刀流でも凌ぐのは難しいだろう。でも、ここで死ぬわけにもいかない。意地とプライドの衝突だ。


 不倶戴天の勝敗。


 「終わりだよ」


 仲間が死んだ影響か、冷徹な視線で無情にも殺すと、斬撃を飛ばした。


 「フィティー!耐えろ!」


 「分かってる!」


 体中の気派を集める。防御しながら剣技でそれらを往なすのだ。それだけが残された道。この剣技からは逃れられない。なら、必死に抵抗するまで。


 「蓋世心技・天」


 右足を踏み出し、ラランへと放つ。だが、迫る斬撃に対し、私の斬撃は悉く相殺された。それはそうだろう。初めて見るが伝わる。10mの滝を登ろうとしている魚のように無力なのが。


 目の前に立つラランから感じるのは圧倒的な力。秘めたその全てを全開にして、ここで本気で終わらせようとしている。勝ち目なんて見えない。


 ここは御影の地。きっと私たちを殺すまで斬撃は止まらないだろう。刀で次々と凌いでいるが、私もフィティーも限界。すっかり忘れ去られたシルヴィアだけが、未だ背後にて余裕を持って生存している。


 「うっ!……厳しいな」


 右肩、左太もも、右脇腹。小さな斬撃が傷をつける。血は流れ、ここに来て、いや、人生で始めて刀を交えた相手に血を流させられた。


 身を纏う気派も、次々と破壊され、新たに纏う間に傷をつけられる。死が目の前まで迫るよう。助けを求めたくても、イオナの気配は皆無だから、自力以外ない。


 しくじった。まさか我流剣術を使えるとは。あまりにも稀有過ぎて、想定外だとして扱っていた。

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