第百九十二話 相棒の活躍
これまでは周囲への警戒を万全にするために、半径100mのテリトリーを開いていた。だが、今は繊細な乱れにも反応出来るように、半径10mと、リスクがあるが、捉えられる範囲まで集中減縮させた。
だから反応出来た。ギリギリだったが、それでも刀を受け止めることには成功した。目の前でカタカタと触れ合う刀は、私たち両者の不倶戴天の勝負だった。
「何を言うかと思えば、あの御方を蔑むって。早死のセンスがあるよ」
ラランも雰囲気が変わった。自分が認めて尊敬し、信頼する人が蔑まれたのだ。私だってここまで怒りを顕にするだろう。けれど、こいつらとは意味が違う。魔人として悪の立場を蔑む私たちよりも、善の立場に居る人間を蔑むやつらが、私たちからすれば心底許せない。
「早死?出来てないだろ。口だけは達者だな。そうやってあの御方の機嫌を損ねないように、媚びへつらってるのか」
「君、口数が多いね。早く殺したくなってきた」
グッと一層強められる刀への力。私もそれに対応して、かつてないほど力を込める。全力で戦うのは久しぶりだ。まだ戦える範囲で良かったと、内心では鍔迫り合いが出来てることにホッとしている。
「口数は圧倒的にお前が多いけどな。でも、殺したいのは俺も同じだ!」
勢いをつけて押す。全力から、その上を行くように緩急をつけることで、拮抗していた力が突然、自然と私の勝ちとなりラランを奥へ弾き飛ばす。
「シルヴィアは私の5m後ろに隠れてて。フィティーは私に協力して」
「「了解」」
もうルミウと思えないほど変わった私に、何か気になる点はあっても聞かない2人。素直に頷いて言う通り態勢を整える。こういうとこは、2人の信じれて良いところ。無駄なことをしないから、私のいざって時に役に立つ。
隠れたシルヴィアを狙うことは多分ない。そんな余裕がないことは、ラランでも分かってるはずだから。私とフィティーを相手に、余裕で対応が出来るほど、力を持っては居ない。
「私が戦闘中、好きなタイミングで周りの木々を狙って蓋世心技を使って。見晴らしがいいと、それだけ戦いやすいから」
「分かった。突然で良いんだよね?」
「うん」
フィティーはまだ魔人との戦闘すら未経験。ザーカスとかいうこの世界の不適合者と戦ったが、それとは比べ物にならない相手。早速戦えるほど戦闘経験も長けてはいない。だからサポートへ回す。使えないことはない。ここぞという時に助けてくれるのが、フィティーという存在だ。
「ふぅぅ、作戦会議は終わった?今は待ってあげたけど、次からは待たずに弱虫から殺していくから、覚悟しときなよ?特にそこの木影に隠れる刀鍛冶ちゃん!」
シュッと消えて、向かう先はシルヴィアの隠れた木の裏。
「はっ!?」
が、私たちは助けに行かない。だってその先には、シルヴィアはもう居ないのだから。代わりに置かれたのは、黒奇石に莫大なシルヴィアの気派を込めた爆弾だ。
それに気づいたのは、既に爆風がラランの目の前まで来た時。先読みに長けたわけではないが、きっと狙うのだと思ったシルヴィアの、独断での爆発。狙うと思わなかった私にも、これは驚きの展開でもあった。
バーン!と、地面が私の身長ほど窪む威力の爆発が引き起こされる。咄嗟に対応しようとしたラランだが、流石に目の前の状況を把握することしか出来なかったようで、驚きの声とともに、吹き飛んだ。
私の専属刀鍛冶であるシルヴィア・ニーナ。そのシルヴィアは、私と相性がいい。それは刀を製作することだけではない。隠密行動。それらを中心に私には国務が課された。シルヴィアは、そんな私と同じく、隠密行動の国務が可能だと判断されて専属刀鍛冶となった。
そう。シルヴィアもまた、人の意識から抜け出すことが得意な存在なのだ。物理的にも意識的にも、敵から重要な人間として捉えられないから、それを利用して戦場を駆け巡る。言わば、私が光、シルヴィアが影。
人は隠密行動をしている人間を見つけると、次の隠密行動の可能性を消す。私が隠密行動で目立ち、シルヴィアが隠密行動を続けて影に潜む。実はプロム相手の時、かなりお世話になっている。戦闘能力も高いため、剣技は使えないが、レベル4と対等に戦えるほど、天才の領域を超えた存在だ。
そんなシルヴィアは、確認出来るとこ、左側の木々に姿を隠している。
「1人で突っ込んで、何してるんだ?相手は俺たちだろ?道を逸れるからそんな逆襲を受けるんだ。さっさと片付けたいなら、迷わずこっち来いよ」
これくらいで死ぬことはない。そうだと知ってるから、まだ生命反応のある方向へ声を投かける。ザザッと草木が揺れ動き、強まる気派を確認した。
死んでくれたら良かったのに。
「……危ない危ない。人間は先読みが出来るの忘れてたよ」
「お前らのように脳筋は扱いやすい。手のひらで踊ってくれるからな」
「言うね。そろそろ私も面倒なのは飽きてきた。イライラも限界だし」
「何度も聞いたな」
「そう。なら、お互い終わらせたいだろうから、ここからは止まることなくどちらかの最期まで、走り抜けようか」
ついに刀を2本取り出し、がっしり構える。真っ黒のオリジン刀。気派の込め具合が尋常じゃない。一撃を体に受ければ、致命傷は避けられないのだと、ひしひしと感じていた。
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