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第百九十一話 俺は




 名前を知られてることくらいは想定内。イオナのことは全て筒抜けであり、それならば必然的に私たちのことも知られていて当然だ。だから狼狽することはない。けれど、不利を強いられることはこれで確定した。


 名前だけ知って満足するような性格ではないのは確かだ。事細かに調べ終えた後で、私たちの前に現れただろう。負の感情を抱く相手以外に興味を然程示さない魔人という生命体が、こうして腕試しするかのように刀を握っている。それは戦闘する気しかないということだ。


 「んー、やっぱり驚かないね。君たちはそういう訓練を受けて来たのかな?」


 「想定内のことに驚いてたら、隙だらけの一般剣士と変わらないでしょ?驚かせたいなら、もう少しインパクトのあることを言いなよ」


 「あははっ!一応の覚悟はして来たってことか。うんうん。なるほどね」


 体を巧みに使いながら、刀を全身で回す。一切斬れる様子のないそのお遊びは、日頃からそうして遊んでいるのだと知らせる。


 「それじゃ……」


 「――!」


 何かしてくると察した。察したんだ。けど、私の思考速度では、その動きを追うことは、全くと言っていいほどに出来なかった。気派で捉えた時。その時には、ラランは私たちの目の前から背後5mまで瞬間移動したかのように動いてみせていた。


 そう。ボグマス相手に、イオナが行った意味不明の極致の技を、今ここで見せられた。


 「これなんかは、記憶に刻めたみたいだね」


 刀を2本とも鞘へ入れ、両手に何も持たずして余裕を示す。まだまだ全力ではないのだと、そう教えるかのよう。強さの次元が違うのかもしれない。そう思い始めるには十分な内容だ。


 「実は世間一般に知られる最強の名はルミウ・ワン。君らしいね。だけど、その最強がその有り様だと、どうも失望しちゃうな。ボグマスの件もあるから、人間の潜在能力とか計り知れない私たちでも常に警戒はしてるけど、最も強いとされる片鱗すらも、私には見えないよ?」


 「失望……ね」


 戦闘よりも、疑問の解消に重きを置くようだ。私に勝手につけられた肩書きを勝手に言って、勝手に背負わせてるだけのただの言葉遊びを勝手に信じて。


 最強だなんて、もちろんその座に君臨したい。だけど、そこに立つには重圧がある。それが『絶対的な力』だ。その肩書きを持つ者が助けに来たら、全てを解決してしまう絶対が求められる。人は最強に絶対を求める。だから、そこに立つに相応しい人間になるまでは呼ばれたいとは思わない。


 ずっとそう思ってた。なのに、どいつもこいつも、最強最強最強最強って。何も出来ない非力な人間の他力本願、責任転嫁を受け止めてやってるだけの、普通の神傑剣士に対して、高過ぎるハードルを用意しやがって……。


 「……勝手に失望してろ。片鱗見えないなんて思ってろ。私はお前がどう思おうと知ったことじゃない」


 ここに来てから情緒不安定というか、少し落ち着きが欠けているのは自分でも分かった。2人を守らないといけないプレッシャーと、イオナが居ない不安感。ニアが1人かもしれない恐怖感に、全員を助からないかもしれない絶望感。浸されれば浸されるほど、私は本性を出してしまう。


 それに気づいたけれど、もう隠す意味もない。体裁を保つための、最強としての肩書きに倣ったかのような振る舞い方。――私には似合わない。


 「()が表の最強とか言ったが、言葉を添えればそいつが何かしらの強化を得るわけじゃないんだ。自分が絶対に守られてる安心感に浸りたいがために国民が勝手につけた、自分勝手な肩書きを俺に載せてるだけの現実逃避。その言葉を信じて、盲目のまま死ねよ」


 「……んー、不思議だね」


 「……ルミウ様?」


 「……ルミー?」


 変わったのは言葉遣いと雰囲気くらい。普段私と接する機会の多かったシルヴィアとフィティーは、私をルミウだとは思っていない目で見る。ラランは、顎に手を置いて何かを考えている様子。


 心の中まで正確に読むことが難しい魔人に対して、今の私ならある程度読める範囲まではいけるだろう。エアーバーストの酷使となるが、死ぬよりもマシだ。


 「君の雰囲気は変化したけど、力が増してるようには見えない。見えないようにしてるだけで、実はその肩書きに相応しい力を秘めていたり?」


 こうやって、探るように聞いてくるのが不快だ。少しでも有利になろうと、私の中身を詮索する。今ですら結構有利に進んでいるというのに、強欲な魔人は私の情報の最深部へと一歩ずつ足を進ませる。


 「聞くなら来いよ。攻撃する前に底を知らないと勝てない弱者でもないんだろ?面倒くさいんだよ。そうやって時間を潰されて、仲間との合流を妨げられるのは」


 「そう?私はここでの時間は無限にあるから、そう気にすることじゃないんだよね。私が君の話に付き合わなくても、困ることないし」


 「それもそうだな。俺にビビって刀も向けられない魔人の底辺が、ビビらせられる相手に立ち向かえるわけないもんな。これならお前たちの言うあの御方もさぞ底辺弱者で泥水啜るだけの屍なんだろうな!」


 「――はぁ?」


 キンッ!と刀が交わる。私とラランの計3本。瞬間移動は見えなかったが、先読みは出来た。いつ来るか、どこに来るかを体の周りに気派を集めて察知する。

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