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第百八十八話 慢心は死を生む




 「どういうことだ?」


 予想通りの反応。調べを完璧にしていたという思い込み。それを真っ向から否定される。怪訝な表情を浮かべるのも無理はない。


 「お前らは、バルガンや俺の身の回りに立つ者たちと契約して、俺の情報を得ていた。そして耳にした情報を鵜呑みにし、その情報源が絶対だと思いこんでいた。契約上嘘を報告することは出来なかったようだし、俺に気付かれないよう、関わりの遠い人間も契約させていた。だからこそ、絶対だ。だがな、未知の情報を密かに得てると思えば、聞いてる側はそれが上限だと思い、その上で万全な策を立てるんだ。つまり、お前が今、高く見積もっても勝てない相手ではないと思っている相手は、その情報通りの相手じゃないってことだ。遥か上、お前を既に凌駕してる存在なんだって、お前は知らない」


 残念ながら、俺の存在自体がどこからバレたのかは不明だ。しかし、今までの人生で、違和感を抱くことが無数にあった。度々感じる視線と、行く先々での魔人の関与。問題ごとを引き起こしては、解決するのは何もかもが俺らだった。


 「ほう。気づいていたのか」


 「逆に気づかれないと思って契約したのなら、その契約主は相当なバカだな」


 何度も送り込めば分かる。俺には隠密も意味を成さないのだと。場所だって容易に特定出来るし、いつ攻撃するかも察せる。それを知らずに刺客を送り続けるのは、それこそ無謀の策だ。


 「そんなバカたちの代表として、お前に問おう。お前は未だ、俺への勝ちは揺るがないか?」


 「もちろん」


 俺の発言を虚勢とは思っていない様子。それでも、絶対的なその確信は消えない。しかも、それを本気で思うのだから、慢心しているとしか思えない。


 「そうか。それなら、お前に本当の【絶対】を教えるか」


 本当の絶対なんて、言葉的に面白い。そんな使い方をしたのは初めてだが、間違いでもないのが不思議だ。


 「いつでも来い。今度は待ってやる。そして、絶望へ引きずり落としてやる」


 目の前に勝ちがある。それをいつでも掴めるのだと、ゼビアはそれほどの睥睨をしてみせる。まるで子供が威張るようで、可愛げはないが近しい感じはする。


 どうしても自分の実力を信じていたいのだと、負けることが想像出来ないのだと、対面して思ったらしい。確かにそれはあながち間違いではない。


 だって、俺がそうさせているのだから。聞いた情報。それを上回らない程度に力を発揮するだけの俺。だから、未だに勝ちは消えない。俺が実力をまだ隠していると知らないから。


 まぁ……本当を知るのは1人を除けば、居ないだろうな。


 刀を構えて準備万端だと、若干ニヤつきながら待つゼビア。照らされても遮られる陽光が、木の葉から俺らのちょうど間へと覗く。区切りのように。


 自信満々に、大きく見せて立つ姿。剣士らしく、長年の時を経ても、未だに完遂出来ない魔人としての思いを抱くのは、正直、意味は違うが素晴らしい。もし、人間として生涯を終えたならば、きっと後世へと名を馳せただろうに。


 そんな悲しき魂に、俺は絶対的な死を覚えさせる。


 「絶望。それは今のお前だ」


 「喋ってばかりじゃなく……お前……か…………は?」


 「どうしても力量の差は埋められない。それはお前が後100年鍛錬しても、100年刀を握らない俺には到底勝ちは見えない。お前には刀は必要ない。気派で十分だ」


 刀を構えても、ピクリとすら動かない。俺の絶対的な領域へ触れてしまったから。


 「体が……貴様!」


 「悪いが、もう動けないぞ。俺の気派を取り込んだお前は、体の自由を俺に奪われたからな。出来るのは呼吸と会話だけ。それ以外の行動は何1つとして不可能」


 「これはどういうことだ?!」


 「長年生きてきても前例がないか。これはついさっき教えたように絶望だ。端的に言うと肉体支配の力だ。自分の気派を相手の気派と重ねて、波長を真逆にし、俺の体を巡る気派と強制的に同じにすることで、体の主導権を握る技」


 相手よりも自分の気派が強くなければ意味のない技だが、俺の相手となる気派を使える生命体は、この世界には居ないだろう。だから、絶対的な支配だ。


 「肉体支配?聞いたことのない力だ」


 「正真正銘俺の技。ズルいとか言うなよ?」


 一歩ずつ近づく。なのに微動だにしないゼビア。魔人にも有効的な力なのだと証明出来て良かった。これで少しずつ制覇に近づく。七星魔人の一角を支配出来たなら、それはもう大きな利点だ。


 どうするのが1番の絶対的な絶望か。矜持を傷つけて最期へ導く。多分これだ。


 「全身の自由が奪われたなら、後は待つだけだ」


 「いいや!まだだ!」


 全力なのだろう。小刻みに震える全身は、自由を奪われたというのに動こうと必死になる。小刻みにすら動くことを許されないというのに、動けることは流石だ。だが出来てその程度。もう待つしかないのだ。


 「くっ!こんな、こんなことで!」


 目の前まで来る。死をプレゼントなんて、今まで何度経験しただろう。魔人とはいえ人と似た容姿をしている。だが躊躇いなく殺せる。気持ちは大切なのだろうと、最近よく学ぶ。


 そしてホルダーから刹那刀を出す。その短い刀身の鋒を、ゼビアの胸部へ向ける。


 「この刀がお前の最期を見届ける刀だ」


 「――貴様ぁ!」


 「じゃあな」


 呆気なかった。ザシュっと刺さるその刀は、肋骨を肉のように斬り裂いては、心臓へと届き、背中へと貫通する。口からは鮮血を吹き出し、両足は震える。同時に拘束も解き、そこに転がるのは、慢心の屍だった。

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