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第百八十五話 復讐するのは人外




 さて、ここからどうするか。見たところ、いや、予想したとこでは圧倒的に俺の勝ちは揺るがない。が、先程の女の魔人が行った顔の変化。それが脳裏に過ると、一概にそう確信には至らない。


 魔人からすれば万全の地。何が起こるか不明瞭な分、俺に今までの最強が通用するとも思えない。何もかも可能性としての無限の選択肢が思考の邪魔をする。雷雨も相まって、今は正々堂々と戦いたいものなんだが。


 「なぁ、ここはどういう場所なんだ?初めて踏み入ると、分からないことだらけで困ってるんだ。殺す前に情報を聞き出したいから、教えてくれないか?」


 「ほう。知ってどうする?」


 「役立てるんだよ。あの御方が俺に会いたがるってことは、俺のことを知ってるってこと。なら、俺も知る権利はあるだろ?でも、あの御方の情報なんていらないから、出来ればこの不可思議な現象を理解したいほどの情報が欲しいんだ」


 「なるほど」


 攻撃されないと思ったのか、刀を地面に突き刺すと、考え事をするように人差し指を額にトントン当てる。圧倒的な自信から来るその余裕。若しくは、相手の力量を完全に把握する能力があるが故の余裕。どちらにせよ、今誰よりも落ち着いているのはゼビアだ。


 「仲間の安否が気になるということか」


 「そうだ」


 雷鳴轟く中、授かった知性を俺よりも使いこなしては、その俺の思惑を当てる。予想外ではないが、当てられるほど安直だと思われるのは癪に障る。


 悪化する天候は魔人の感情に左右されるものでもないだろう。現に纏う気派は出会って最大の落ち着きを知らせる。どうしても拭えない隠せない、微かなそれは。


 「残念だが、この地の情報は魔人である俺たちにも一切分からない。森羅万象は俺たちが生まれる前から存在する。気づけばこの場に留められ、存在意義を与えられては、それに従って生きるだけの俺らに、貴様に吐き出せる情報は皆無だ」


 「つまり、この天候も、俺らがバラバラに入ったことも、並の人間が入って早々に精神攻撃を受けることも、お前たちは無関係で、なおかつ何故そうなるのかも知らない、と?」


 「そういうことだな。全てはこの地の理通りだ。それは、あの御方ですら知り得ないことかもしれない。まぁ、可能性すら感じないが、知ったところで貴様にそれを持ち帰る体は無いだろうが」


 今まで皆無だと思うからこそ、絶対的な死を送ることは確定だと思っている。同時に、あの御方の力を信じ、たとえ自分が負けたとしても俺らが帰ることは不可能とも思っている。過信ではないだろう。ゼビアが目下の力を持ち、この外を蹂躪すれば、それはもう、ヒュースウィット以外の王国をそれぞれ1日で潰せるだろう。


 そんな魔人たちが敬愛し、ボグマスもゼビアも、足元にも及ばないと本気で思うほどの実力者。紛れもなくヒュースウィットを1日で潰せるほどの力を持つのだろう。精神支配でそう思えと命じられてる気配もない。実力で証明したか。


 「そういうことか。この地も案外暮らしにくい場所だな」


 「体を巡る時の流れだけが止められていることを、暮らしにくい?面白い感性だな。死なないからこそ無限の生を謳歌し、高みへ目指せるというのに、それをマイナスに捉えるとは」


 短刀を向け、戦闘なんてする気を感じさせない猛者感。自分から攻撃を好まない俺だから、その待ち構える姿は好まない。


 「俺は人間だ。魔人のように何かへの復讐心は持たないから、それには共感しない。お前のそのおかしな感性を、当たり前という前提で話すお前に、俺の考えを勝手に解釈されたくないな」


 「誇り高き正義感に囚われた人間はいつだって言う。俺は人間だ、と。決してお前らとは違うのだと隔たりを口に出して作る。だがどうだ?実際人間だって人を憎むし、嫌悪するだろ?違うのは力を強化するかしないかのそれだけだ。ただ特定の人間を襲うから、と、まとめて敵対するだけの貴様たちよりも、人間をやめてでもその復讐を果たすことを選んだ俺たちが賢いとは思うがな。つまりは、(まじん)貴様(にんげん)は同類なんだよ」


 「そうか?」


 即座に反応する。ゼビアの言う同類という言葉に、少なくとも何かしらの負の感情を抱いたから。


 「でもな、魔人と人間の隔たりは大きい。人間は強いんだ。魔人になるやつはどいつもこいつも無力で、自分ではどうしようもなくて、誰かに頼ることだけしか考えられない他力本願だから、楽に死を選んででも力を得る。だが人間はどうだ?どれだけ復讐したくても、人間に留まり、手を染めるのを躊躇うやつが大半。そして手を染めては裁かれるのを覚悟する者ばかりだ。染まりたくないんだよ。お前らのようなこの世界の不適合者になってまで復讐をする側にな」


 ただただムカつく。魔人になることを復讐の最適解と思うことが。復讐なんてするべきではない。何も生まない弱者の戯れというのに、それに自分の命を懸けてまで果たすなんて、頷きたくもない。


 「復讐のために死んだ魔人と、復讐のために堪えてそのままの人間。もうこの時点で同類とは思えないけどな」


 同類ではない。人間の復讐は、その相手を殺せば終わりだが、魔人の復讐はそれまでの過程で数多くの人間を殺す。御影の地はそう知られる嫌悪される場所。復讐の最果ての地、それがここだ。

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