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第百八十四話 二人目




 それにしても、ルミウの擬態という俺たちでは考えられないことを、平然とやっていたのは驚きだ。どんな原理で変えているのかも気になる。それでも顔以外は雑で何もかもが未熟だったが。


 既に頭の中のイライラなんかは消え去った俺は、その気配のある場所へ向かっていた。体には木々で凌ぎきれない雨粒が衝撃を加え、木の葉に当たるからこそザーッと常に耳に残る。


 洞窟の中がどれだけ落ち着いていたか、身に沁みて分かる。


 「七星魔人だろうな……ボグマスに似てる」


 気配はボグマスと比べて段違いに強い。やはり御影の地では魔人の力が増すらしい。どこか似たその何もかもが、ボグマスとは違うと言っていた。再戦を臨みたいが、今はまだということか。


 これほどまでに強化されるのならば、実に面白いが。


 感じるその圧はその場から一切動かない。まるで俺が来るのを待ち望んでいるように。戦いたいならば自分たちから来るのが道理だと思うが、死人にその道理は通用しないらしい。


 それから歩くことはほぼ無かった。もう目の前にいてもおかしくないほどの距離を、無駄に立つ木々を避けながら向かった。そして開けた、いや、木々を薙ぎ倒してフィールドを作ったように意図的に開けた森の中へ来る。


 ど真ん中に、腕を組み、空を見上げる1人の男。昔の俺ならカッコいいなんて思っていただろう、見る側は恥ずかしい立ち方。憧れないな。


 なんて思っていると、その気を察したか、俺の存在を視認したか、ガクッと首を下げて俺へと視線を向ける。


 「ほう?……貴様は……ほうほう……なるほど。これならばボグマスも互角などと戯言を言うわけだ」


 「……出会って10秒程度だが、中身を覗かれた気がしてお前への第一印象は変態になった」


 「意味の分からないことを。貴様に最期を迎えさせる相手に向かって、失礼なことは言わないようにしなければならないだろう?」


 「まるで殺してもらえることをありがたいと思えって、上から高圧的に言ってるようだな」


 「違いはない」


 全身を黒を基調に装備を身に纏い、細長い刀は久遠刀のように見えてオリジン刀か。鋒だけが赤く染められた珍しい刀。面倒なのは、戦闘を長引かせる気はないということ。一撃が大きいタイプは苦手だ。


 「あの御方には申し訳ないが、ここで殺してしまうのも一興。どうせ貴様を殺せば、強制的に魔人にしてあの御方の献上品にも出来る。鮮度は落ちても変わらないからこそ、屍は素晴らしい」


 「キモい。それにウザい。今俺は19だぞ?まだそういうのに理解ある歳だが、お前のその態度と慢心は癪に障る。それに、俺を殺す前提で話されるのもムカつくな」


 「ほう。気性の荒いやつだ。早めに終わらせるか」


 雨音で聞きたくない低めの声音は、少しかき消されるため正直楽だ。聞くだけで人間を支配すると、過去にもそういう事例はあったからな。万全を期して戦闘に挑みたいからこそ、この天候は今は味方だ。


 「俺もそれには同意だ」


 いつもと同じ、ただ鞘に左手を、柄に右手を添えるだけの隙だらけの構えをする。どう見ても斬り込める、神傑剣士とは思えぬ態勢。


 それでもこれが万全の態勢なのだと、初見で気づくやつはそういない。過去を遡っても、気づいたのは盲目の剣士であるハッシだけだ。目以外が人の限界値を超えたからこそ察知出来た。逆に言えば、限界値を超えなければ知れなかったということ。


 「ならば、始めよう」


 「その前に、名前は?」


 「ゼビアだ」


 「そうか。憎悪とともに、断ち切ってやるから。ゼビア、いつでも来いよ」


 今度は俺の待つ番だ。元々この構えは、カウンターに特化した構え。相手からの剣技を正確無比に判断し、何事にも臨機応変に対応可能にするための抜刀をしない俺なりの技。


 目に頼るため、触覚や気派で捉える力と比べると若干劣るが、それでも対応は可能なので、何も問題はない。


 2人動かず構えるだけ。研ぎ澄まされる耳は、集中力が高まるため、響く雨音を大きく捉える。邪魔とは思わない。それほどに無を貫いている。


 そして、ぴちゃん、と一粒だけが大きく耳に響いた時、ゼビアの足は一瞬にして詰め寄る。剣技は使っていない。ただの突進だ。


 「はぁっ!」


 すぐ目の前で聞こえた振り切るための声。その後すぐに俺の周りを水飛沫が飛び回る。まるでそこだけ雨が降り注いでいないかのように、乾ききった雑草のように。


 「流石だな。ただの斬り込みでは動かないか」


 「それに加えて左手っていう利き手じゃない手1本で止めたけどな。更に言うなら、3本の指だけで」


 単調で、纏うことのないただの斬り込みならば、これくらいで余裕。気派を纏っていたとしてもそれは変わらない。威力は強くてもレベル5の剣技にも届かない程度なので、片腕で止めるのは造作もない。


 「これはまだ人生で産声を上げた段階。どこまで付いてこれるかな?」


 「多分、今のお前の、屍に取り憑く人生2回目の最期までは欠伸をしながらでも付いてこれるけどな」


 「自分を大きく見せるのが大好きなようだ」


 「そっくりそのままお前に返す。どっちが戯言でどっちが正しいか、それを証明しようぜ。死んだら負けだ」


 「今から言い訳を考える時間をくれてやるが?」


 「黙れ」


 カタカタと震える刀と腕。持ち続けるのも面倒なため、1度振り払うようにして、ゼビアを後退させる。

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