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第百六十八話 忍




 「何してるんだよ」


 「シルヴィア、本当だとしてもその距離からでもイオナを殺せないのは知ってるでしょ?」


 殺意は全く感じない。周りから臭う敵と同じでもなければ、それらに惑わされて殺意を間違うこともない。例え首に向けられた刀が殺意を持って来ようとも、俺には無意味だ。


 「だーってこういうシチュエーションに憧れない?裏切って最強たちを動揺させるって展開」


 シルヴィアは全くの冗談だった。もし本当に裏切って、ここで敵に襲わせると同時に、俺の首に短刀を刺し込むのなら敵の質が低い。俺をよく知るからこそ、そんな緩い襲撃をするはずもない。そもそも気取られはしないような人を選ぶべき。


 と言っても、最強コンビと言われる俺たちに敵うって、相当な腕が必要だが。


 「本気にして真っ先に殺したらどうするの?」


 「本気にする方向性が違うでしょ、それ。でもまぁ、ルミーは私を殺せないほど優しくて情に厚い人だから、その時は先に吹っ切れた私が強いかな」


 「間違いないかもね」


 「否定しないのかよ。第1座、情に厚いが故に敗北、なんてレッテルが死んだ後に付きまとうぞ?」


 「別に、死後なんてどうでもいいよ。私にとって大切なことなんて数少ないし」


 「悲しさ皆無で言われるとそれはそれで気にするわ」


 人は誰しも生きているならば意味を持つ。幸せになりたいから、というのが大半の理由で。だからそのために働き、金銭で主に幸せを得る。それが人の言う大切なことの軸だ。


 だがそれを達成してしまったルミウは、今では不幸なこともなければ復讐することもない。だから悠々自適過ぎて退屈というとこだ。だから今も付いてきたのだろう。


 「どうせ私たちを囲む彼らも、大金を拾わせれば、今すぐどこか遠くへ消えて行くよ」


 既に囲まれたことに、どこか嬉しくも面倒そうにも思う様子。


 「王都で家を壊された人たちってとこかな?黒奇石があると言っても、王都を少し離れた僻地でこんなに人が居るのは気になるね。解体の材料にしようかな」


 「考えることが流石です。俺がその担当じゃないなら存分に悪人を倒してください」


 「人間を相手にするのは久しぶり。殺す気もないけど、気絶くらいはさせる?」


 「始まる前から戦意喪失させるのもありだけどな」


 「いいよ」


 戦意喪失のための最善で有効的な策。レベル2以上の剣士ならば誰もが理解する圧倒的な実力差を、その体中の神経に刻み込む。


 「私はヒュースウィット王国神傑剣士第1座――ルミウ・ワン!この名を聞いて未だに戦いたいと望む者が居るのなら相手をしよう!居ないのならば今すぐこの場から立ち去れ!」


 響き渡る声、低くも透き通るような耳に癒やしを与える声音で周囲に投げ掛ける。だが、それは声音とは全く違う、身震いさせるほどの殺意を放ち、本物なのだと思わせるために強烈な圧をも加えられる。


 レベル5以下ならば、この圧に抗おうとせず、すぐに逃げ去る。しかし、その存在らは消えない。中にはレベル3だって居るというのに、その場から立ち去ることを良しとしない。


 「変だね」


 「圧が可愛くて逃げないとか?」


 「バカにしないで。背中に乗るだけのぬいぐるみのくせに」


 そう思ってしまうのも無理はない。俺には感じ取れても、並の剣士では向けられなければ知れない領域の話なのだから。


 「殺る気満々なのかもな」


 「だとしても、居るのはバレてるのに出てこないのは?」


 「交渉しようと策を練っているか、だな」


 勝てないと悟るには十分な情報を相手に送った。しかし、逃げられない、若しくは逃げてはいけない理由から、死ぬ気でその場に留まっている可能性はある。


 何かしらの問題が彼らにあるか。そう気になっていると、それを解消するかのように事は動く。


 ザッと音を立てて木の上に乗っていた1人が動き出す。その方向を目で捉えると、木全体が目に止まるが、既に木の下で膝を曲げて俺らを待つように構える1人の男が居た。


 「何用で?」


 驚きもせず、姿を現した男に俺は問い掛ける。


 「神傑剣士である御方の目の前に、荒々しくも失礼。俺の名はミカヅチ・ゴノカミと言う。貴女たちを敵と思い、敵意と殺意を向けたことは謝罪する。申し訳ない」


 顔を上げず、ただひたすらに申し訳ないと、心底思い、それを伝える。歳は俺の2倍はありそうなほど貫禄はある。目元だけを露出させ、他は黒布で肌を覆い隠すかのように守る。


 「いいよ、問題ないから」


 「感謝する」


 初めて見る服装。ローブでもなく、動きやすさを重視したようにピタッと。こんな人たちも居るのだと感動していると、男は顔を上げて話し始める。


 「目の前に不審ながらも出てきて早々、不躾かもしれないが、1つ、神傑剣士である貴女に頼みたいことがある」


 「ん?何?」


 「我ら【(しのび)】と云われる部族であり、この先のヤイバゴゴロ村で生活を営む者たち。そして、世界で有数の珍しい黒奇石を発掘可能な村でもある。それ故、最近我らの村に盗賊が大量に押し寄せ、黒奇石の盗掘が始まった。それを阻止するために、村から盗賊たちを退けてほしい。我らの力では多勢に無勢。どうか神傑剣士である貴女の力をお貸しいただけないだろうか」


 懇願する勢いで、ルミウに願いを述べる。


 昔書物で見たことがある。この世界に、暗殺に長けた隠密を心情とする忍が存在すると。まさか、その忍が目の前にいるとは、不幸中の幸いか。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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