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第百六十四話 疲れを取るには




 抜群なのは当たり前。ただ例外もある。とはいえ、シルヴィアはホルダーを製作可能という、大きなアドバンテージを持つ。なので、正直不器用なんて謙遜でイジられるための材料としか思っていない。


 「肉体的な疲労と精神的な疲労ってどっちが大きい?」


 肩をトントンと軽く叩いて、シルヴィアは高低差のある目線を合わせようと、上目遣いで見てくる。洋紅色の双眸。髪色に影響されたかのような、深くて鮮やかな彩り。


 「俺は精神的な疲労だな。肉体的に疲れるのは、最近はない」


 「ルミーは?」


 ヒョコッと俺の体で隠れていたルミウに、体をはみ出させて聞く。


 「イオナと同じ。働いてないし、走り回ることもなかったから」


 基本はラザホに任せているため、本当はすることなんて皆無。その上で、要請した人たちが何もしないのはよろしくない、と、何とか適当にでも散歩しているだけ。


 もちろんそんなので疲れる神傑剣士ではない。足だって腕だって常にクルクル回せるほどには力は有り余っている。


 「なるほどなるほど」


 これまた珍しく、何かを考えるように下を向く。


 「気になることでも?」


 そんなシルヴィアに、不思議と思ったルミウは首を傾げて問う。


 「それらの気になることでは無いけど、確かサントゥアルの最北に珍しい黒奇石があって、そこが景色の綺麗なとこだって書物で見た気がするんだよね。だから休暇として気分転換と、少しの暇つぶしにでもどうかなって」


 「へぇ、そんなとこあるのか」


 「初耳だね」


 シルヴィアの目的は黒奇石。俺とルミウは気分転換として、お互いの目的が一致する場所に、折角だから、こんな逼迫するところから少し解放されても良いんじゃないかと。


 「俺はありだと思う。ヒュースウィットを出国してからずっとそういう安らぎに触れられて無かったし」


 「うん。私もいいと思うよ。流石に今からとか、近いうちには無理だろうけど。でも、2ヶ月後とか、ある程度サントゥアルが戻ったら全然あり」


 未だに完璧とはいかない復旧。王都の1割とはいえ、広大な土地の1割はバカに出来ないほどだ。他国の手も借りて、やっとこの2週間でその1割の1割を復旧したところ。


 これからヒュースウィットの他にも要請はするだろうが、受けてくれるか次第で、この王国の存続が揺さぶられる。


 まぁ、俺には関係ないことだが。


 「なら決まりー。どうせすることもないし、落ち着いて来た辺りで出かけようか」


 「場所は分かってるのか?」


 「それはもちろん。私はそれなりに詳しいんだよ」


 サントゥアルに足を踏み入れたのは、ルミウと俺、そしてシルヴィアだって初めてだ。それで分かると言うならば、その読んだ書物がどれほど信頼出来る物だったか。


 「ということで、私はやる気が湧いてきたので、ここらで刀に触れてこようかと思います」


 ピシッと短刀で敬礼をすると、神傑剣士として目の前にいる俺らに、正式な対応をするかのように朗らかな笑顔でその場を立ち去った。


 出会った時から変わらず、衝動的に動くのがシルヴィア・ニーナだった。気づけば見失う、好奇心旺盛の幼気な女の子。歳は1つ上だというのに、それを感じさせない。


 「ああいう子が好きなの?」


 そんなシルヴィアを口角を上げて、癒やしと捉えて見ていた俺を、横から気配を消して低めの声音で聞いてくる。


 「俺の気持ちなんて知らないが、好き勝手自分って性格を貫いた果てに元気にしてくれる。そんな人を好きじゃないなんて、言える人は居ないだろ?ルミウだってそうじゃないのか?」


 良い意味で場違い。テンションが低くても、それを引き上げるかのように隣に来る。疲れてても、構わずハグを求める。俺に限定せず、人をよく観察してるわけではないのに、自然とその行動に元気が与えられる。


 シルヴィアは関わる人には重宝される、唯一無二の宝物だ。


 あっ、解体の件はどうにかしてほしいけどな。


 「そうかもね。シルヴィアは人を選ぶけど、選んだらその先に不幸は無いような性格だからね」


 解体って不幸があるぞ。


 「私の聞いた答えでは無かったけど、まぁ、良さそうな話だったからいいや」


 「そのモヤモヤさせるのやめろよ。気になるだろ」


 「良いんじゃない?モヤモヤするのも、最強には必要だよ」


 「必要ない。今度ルミウにもモヤモヤさせてやろうか?」


 「ふっ、遠慮するよ」


 心底嬉しそう。俺から一本取ったときのように、普段見せないその笑顔は、クールだからこそ際立つ。きめ細やかで繊細な乳白色の肌に、透けない真っ黒な双眸。相まって、女性という美しさの頂点に立つ者の様だ。


 「君と話してると長話になってしまうから、私もここで王都内の徘徊に戻るとするよ。暇つぶしに付き合ってくれてありがとう、イオナ」


 名前を呼ぶ時は、気分が良い時。若しくは、これから良いことが起こる予兆。天啓のようだ。


 「こちらこそ、ルミウを見てると元気になったわ。流石は俺の嫁候補」


 狼狽するルミウを見たい一心で俺は言った。それにルミウは今まで見たことないほど柔らかく、恍惚するほど美しく口を開くと、その乳白色の頬を、若干紅く染めて。


 「でしょ」


 満面の笑みだった。


 見たことなんて無かった。未来永劫そのクールで接するのだと、出会ってから思い続けていた。傍らにも、頭の片隅にもそんな笑顔を見れるとは微塵も。


 女性というか女の子らしく、可愛げのある相好。見た者を虜にすると言われる、その美しさからはかけ離れた、世界で唯一のギャップ。


 その1言だけ残すかのように、足早にそこを去ったルミウ。背中からは、どこか頑張った自分を称えるような、そんな気を感じた。


 「流石だな――」

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