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第百六十一話 ただの力に恵まれた剣士




 魔人ボグマスを筆頭に、サントゥアル王国への侵略が行われ、撤退をしたその日から早2週間。サントゥアルでは残された国民が、復興という激務に追われていた。


 剣士だからという理由で絶対に働かなければならない偏見からの押し込みはなく、誰もがこの状況を理解し、一刻も早く王国として保てるように手足を動かしている。


 魔人襲撃によりサントゥアル王国の約2000万、王都では880万の民の約20万の命を失ったことが分かった。多いと捉えるか逆か。人の命という点に於いては3桁でも多いと捉えるべきだろう。


 だが、これもまた自然の摂理。相手を完全に把握が出来なかったサントゥアルの落ち度。受け入れる他ない。幸い、王都内の民はそこまで数を減らされては居ない様子。国政に大きな被害は無い。


 とはいえ、国王を含めた王族が完全に消え去り、その上で神傑剣士という高地位の存在もない。ならば大貴族をはじめとした貴族たちの、新たな王族の選抜も始まる。血を変えての新たな歴史の始まり。それに誰が先駆者となり立つか。これは荒れそうな案件だった。


 「はぁぁ、乗りかかった船だが、面倒はあるな」


 「お前が立たなかったら、ここには誰が立ってるんだろうな」


 「さぁな。これも決められた運命ってやつだろ。どうせ、誰も立たないだろうけどな」


 ラザホと会話する俺は、王都内で大貴族当主だけを集めた。契約したという内容を伝えるために。


 俺たち2人を含めた10人の会議。これからのサントゥアルについては彼らの話し合いによって決められる。俺はただ居るだけの案山子。他国に干渉し過ぎると後々面倒が回ってくる。避けるためには空気になる他ない。


 「今日は集まってくれてありがとう。無傷で大貴族が全員生き残っているとは、正直驚きだ。おかげで話し合いも弾むだろうしな」


 8人で円卓を囲み、俺たちは外から話しをする。話し合いに参加しないのだと、遠回しにでも伝えておくべきとの判断故に。


 「早速だが、本題だ。この2週間で分かってくれるなら嬉しいが、単刀直入に言うと、俺は魔人と契約を結んだ」


 バッ!と大貴族たちの目の色が変わる。驚きそのもので、誰1人としてそこに希望を持つ者は居なかった。魔人と契約。それはつまり、高い確率で敵に回ったと言っているようなもの。


 それを軽々と他国の神傑剣士が言うのだから、今この場で殺される、なんてことを考える老いぼれも居ただろう。


 「……それはどのような契約だ?」


 「ああ。俺がこのサントゥアル王国に足を踏み入れてる以上、魔人が御影の地から攻めてくることはない。という誰にでも分かるような契約だ」


 実際は5ヶ月という期限付き。だがどの道俺は5ヶ月後にはここには居ないのだから、言い方を変えたところで意味は変わらない。契約内容だってそうだ。


 「嘘をつくな!私はあの日側にいたから分かるが、貴様はただ戦地に赴いて帰って来ただけだろう!あんな短時間で、暴れる魔人と契約を結ぶなど、不可能にも程がある!」


 ディクスと言ったか、相変わらず王城内の国民も不安に陥れるような行為を容易く行う大貴族。ルミウにより結ばれたと思われた契約も消え、その恨みから醜くも抗おうとするのか。


 「それに魔人と契約だと?本当だとして、内容も、貴様がサントゥアルに足を踏み入れればそれだけで魔人が襲わないなど、完全に貴様に得しか無いではないか!そんな不利益な契約を結ぶわけがない!そもそも貴様では対等にすら契約を結べない相手だろう!」


 「そうさせる方法が1つだけある。自分にしか得がない方法を結べるやり方がな」


 「何だと?そんなことはあるはずがない!」


 「本当にか?お前も知ってるだろ?この世界は剣技、いや、力が全てだ。たとえ知略で勝てようとも、最終的には誰をも凌駕する力があれば、それらを完膚なきまでに潰せる。――つまりはそういうことなんだよ」


 強ばる表情。滲む汗。震える体に、察した時の瞳孔の揺らぎ。どれもこれも、俺は見るのが好きらしい。ディクスのそれらを見て、何やら幸福感のようなものを感じる。


 「つまり……貴様は力で押し込んだ、と?」


 「ああ。そういうことだ。俺はボグマスとかいう魔人よりも強い。だから一方的な契約を結べた。ただそれだけだ」


 本当は俺にも利益はあるんだけどな。ここはこう言って俺への恐怖を駆り立てるとする。


 「いいやあり得ん!神傑剣士が12名全滅したというのに、ヒュースウィットの神傑剣士たった1人が勝てるなど、理想郷での話にしか思えん!」


 「信じるかはお前の自由。だが、2週間という期間を設けたのはその証明をするため。サントゥアルは魔人出現が皆無。他国4王国にも使者を送って聞いてこい。皆無だと答えるだろう。その報告を聞いてからでも本当だと信じるのは遅くないからな」


 自信に満ちた俺の答え。偽りもなく本当と思うしかない、その契約へ辿り着き、結んだという事実。集まる8人の大貴族は、続々と信じ始める。


 「……貴様は何者だ?」


 「ヒュースウィットの第7座だ。そんでもって人間の最大で最強の味方である神だな」


 「やめろ。俺はただの神傑剣士。特別な力に恵まれただけの、正義感に駆られるだけの、強さしか持たない剣士だ」


 ラザホの冗談を遮り、本音で彼らに伝える。人間の味方であるのは間違いないが、神でもなければ運命に抗える猛者でもない。求められたことに応えるだけの、人間だ。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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