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第百五十六話 幻滅




 止まらない。様々な剣士がその魔人に挑むけれど、5秒もしないうちにどこかへ飛ばされる。それも、大半が屍となって。魔人のその奇行を止める者、いや、止めることが出来る者はおらず、無力に地面へと叩きつけられる。


 真っ只中、私とイオナ、そしてリフェンはようやっとその轟音の場所へと辿り着いた。埋もれた人間。四肢の切断された人間。瓦礫が貫通した人間。鮮血すら出さずに息絶える人間。誰も彼も、死の姿を見せしめのように見せつける。


 「……これは……」


 隣で吐き気を堪えるリフェン。目の前の魔人にか、それとも仲間が無惨にも死を迎えたからか。悪臭はしない。気分も優れるかと言えばいいえだ。


 再び空は薄暗く魔人のステージ。圧に負けない私とイオナ。屈してその気派を流で制御が不可能になり、息苦しそうに呼吸を繰り返すリフェン。死期が迫る。


 「おやおや、飽きないものですね、サントゥアル王国の皆様方。勇敢に立ち向かう姿は素晴らしくも滑稽。私に勝てると思わずとも刀を向ける。実に愉快」


 私たちに気づくと、最後の1人か、剣士の体に突き刺した刀をサッと後ろへ引き、命を奪う。紛うことなき魔人の頂点か。


 その禍々しくも忌々しい。今すぐにでもその体を破壊したいほどの、雑で腹立たしい魔人の外見。高圧的で、負けを知らないような確信の念。不愉快だ。


 「新たに3人ですか。今倒れる剣士は合わせて7人で立ち向かいました。ですが、この結果。3人で何が変わると言うのでしょう。力量?連携?それとも陽動?何にせよ、貴方たちに私を超える力を見せられるのか、それは楽しみです」


 口は笑っても目は笑わない。ただ弱者をいたぶることしか考えない、狂った人間のその果てのよう。人間の憎悪の先がこれならば、生前彼はどのような生き様を描いたのだろう。相当な念を感じる。


 だが、それは敗北した結果の成の果て。まだ生きる私たちだってそれなりに憎悪は持つ。魔人に対して。


 「同じ力量で3人なら何も変わらないし未来はない。だが、そこに倒れる英雄たちの力を優に超えるならば、話は別になる。そうして睥睨して虚飾で相手を威嚇しようとするお前に、俺たちが負けるとは思わない」


 イオナはその身にあった豪胆さを持つ。決して相手に屈しない。負けを知りたくない我儘な子供のように、どれだけ相手が未知であっても、自分が上だと確信する。


 故に、気持ちで押されることはない。常に盤石なのだ。


 「ほう?だが、残念ながら私には貴方たちに私を葬れるほどの力は無いように思えます。特にその端の剣士。高く見積もっても神託剣士。ならば私に刀を交えることすら叶わないでしょうね」


 不敵な笑みを浮かべて、リフェンを更に引き落とそうと眼力で圧倒する。屈するか、若しくはここで引き帰らせるか。その判断を迫られるのはリフェン自身。


 「なぁ、名前を聞いていいか?名持ちなら、だが」


 そんなことを知らないかのように、最強は未知にいつも通り名を聞く。


 「私の名前を知らないのなら貴方は旅人か?私はここに攻め込んだ際、全員に名を轟かせた。だがそれを知らない。あまりのショックに忘れるほどの障害を負ったわけでもあるまい」


 「ああ。帰ってきたらこの有様だ。だから教えてくれ」


 「もちろん。私の名はボグマス。あの御方に認められた、七星魔人の一角を担う者。どうぞ、お見知り置きを」


 深々とお辞儀をしてみせる。その間に襲われることを考えていないような、隙を見せる一礼。武人としての心構えがあるわけでもない。余裕を見せるほどの自信を持つということか。


 そして相変わらずのあの御方。どいつもこいつも、私が相手してはいないが、出会う魔人はあの御方と口を揃えて言う。崇拝され敬愛されるその存在。おそらく最頂点なのだろう。


 「やっぱりお前か。潔く国王殺して引いたと思ってたが、まだ残ってたんだな」


 隣の圧が変化する。戦闘開始の準備。私でしか知り得ない微弱すぎて察せないほどの小さなコントロール。


 「元はその予定でした。サントゥアルからの民の派遣は、私たちの暇つぶしとして役に立っていましたし、何よりあの御方が許していたので。それで、流石にもう弱者を派遣し続けるなら殺して見せしめにしようとなったわけです。ですが、妙に動悸が激しくなりまして、その場に留まることに決めました。ですがやはり勘違いだったようで、その憂さ晴らしにここで虐殺を、と」


 妙に動悸が。それはイオナの気配を第六感が猛者だと悟ったからだろう。猛者として、刀を交えてみたいと感覚がそう言った。しかし、イオナはその気配を完全に消した。人助けを続ける時に。


 まだ潜んで居ると確信して。


 どうにか勘違いをしてくれたようで何より。測られず戦えるのはアドバンテージだ。


 「なるほどな」


 一言呟くとため息を吐きながら瞼を下ろす。


 「最近、身の回りの事件がどいつもこいつも厄介で、慢心して虚飾で強がって、悪辣だったから、いい加減こういうのも飽きてきたな」


 何故だろう。隣に立つ私よりも高いその身長から、相手に幻滅をするような、そんな気を感じる。寂寞に囚われた様子のイオナ。絶望的が絶対的な勝利へと傾き始める。


 「俺、お前の相手は仲間が遊んだ後にするわ。今はもう1からお前の相手をしたいとは思わない」


 私を見てその伝える気持ちに憤りはもちろん莫大。


 「つまり私とリフェンでやれって?」


 「そうだな。死ぬことはないさ、あいつよりもルミウの方が強い。背中を押すわけでもないし、嘘を言って駆り立てようともしてない。普通にそれが正解だから言うんだ」


 偽りも濁りも何も無い。信頼の目に、私は頷く。

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