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第百五十三話 なんのこと?




 俺は損得勘定で生きる。だからこそ、自分、若しくは仲間や守るべき人にメリットが大きく、デメリットの少ない選択をする。たとえそれが、無関係でその範囲内に入って無い人が大勢死のうとも。


 「これからどうするの?」


 騒がしい部屋に、明るさが戻って来たことを心做しか喜ぶ傍ら、腕にくっつくシルヴィアを軽々と剥がしながらルミウは言う。気配も無く、足音もなく、ただ背後を悠々と歩いて。


 あれこれギャーギャー言うシルヴィアを右手だけで宥めながらも、その顔はどこか楽しげ。そして不満げ。


 「決めてないな。正直情報はもう必要はないと思ってるし、手助けも必要はない。知性を持つ魔人に出会えれば、と思っていたからな。御影の地の環境が知れたとこで、結局はその中身は不明瞭。魔人の力を知ることが今求められるってとこだし」


 何もかも、最終的には我が命こそ優先。神傑剣士である俺らは仲間の命だが、それは例外。だからこそ、その命を削る可能性の最も高い要因である、魔人の力量を知ることが今後の役に立つ。


 予想ではマークスは下々の魔人だ。あそこまで容易く敗れるほど弱者の蔓延る地でもないだろう。向かって帰ってこれない理由は魔人による滅殺が大半。環境要因はそこまで大きく関わってはないはず。


 その証拠に、ここに攻めてきたってことだろう。


 「目的がない、か。その内自然と出てくるのを残りの期間で待ち続ける?」


 顔は向けず下を向き、何かを考えるように右手をシルヴィアの顔から顎へと運ぶ。


 「それしか考えはないが、最善とも言えないのが悩みどころだな。探索って言っても未知は手がかりすら残さないから、そこが懸念点ではある」


 「そうだね」


 どの道リベニアに居ても得られるものは何もなかった。しかし、魔人と戦えるという点に於いては少しだけメリットは大きかったかもしれない。


 悩みに悩み、この先の計画を立て直そうとする俺らに、背後から嫌な気配が近づく。出会って2日3日程度。それでも覚えてしまうほどに、印象的な大貴族。


 「すまん、ちょっといいか?」


 肥満体型に権力と財力を見せつけるかのような、動きに支障を来すだけの邪魔なアクセサリー。風呂に入れないこの期間なら仕方ないだろうが、不潔な顔面と臭い。どこから見ても好印象は持てない。


 近づいて来んなよ。


 「何?」


 振り向く寸前、いや、今も尚、とても嫌そうに顔を顰めるルミウ。心底面倒そうに、関わりたくなさそうに低い声音。


 「私がヒュースウィットでの貴族としての待遇を受ける話についてだが――」


 「何の話?」


 続きは聞く必要はないと、遮ってでも続ける。


 「お前が我が王国での待遇?意味が分からない」


 「……は?だから、約束をしただろう?救援要請をヒュースウィットに伝えに行けば、それで私の地位を確立してくれると」


 ルミウが知らないふりをしていると気づいて、何もかもをすぐに理解してほしい。だが、薄々この先何が待つのかを悟るからこそ、大貴族は顔を一瞬引きつらせる。


 「してないよ?そもそも他国の人間を貴族にすることなんてしない。たとえ神傑剣士の力を行使したところで、お前のような人間を貴族に推薦するようなことを私がするとでも?」


 出来ないとは言わない。それは神傑剣士として王国を統べることをも許される高い地位の特権。それを軽々とこんな人の心を持たぬ自己中心的な大貴族に与えることはない。


 「くっ!貴――」


 小さくも柔い堪忍袋の緒が切れる大貴族。だが、それを見越していたからこそ、ルミウは止める。無駄に叫ばせないように、そして注目を集めないように喉を的確に叩く。


 声帯を一定時間だが潰し、声を発させないようにする。力加減を考えたとはいえ、猛者からの高速の突きは大きな威力を与える。


 「お前が過去の何を知ろうと、私はそんな契約を結んだことは忘れた。それに契約とて口約束。神傑剣士の紋章に騙されて頷いたお前が悪い。それを気に食わないからと、ここに居る誰にでも迷惑をかけようとするな」


 最近はシルヴィアの暴走を止める係だが、普段は宥める係ではない。しかし、こうして他人に迷惑をかけるような人間は、真正面から力で捻じ伏せる。まとめ役を担うには適役か。


 触れた手を、ローブのポケットから布を取り出して拭く。目の前で堂々と「汚い」と言いながら手をひらひらさせて、煽りながら蔑むように睨むとこ、ドSが垣間見える。


 「分かったなら礼儀正しくサントゥアルの民とともにそこに座って。今はもう、お前は大貴族でもなんでもないただの人間。平等に公平にその地位に満足しろ」


 言葉遣いも普段とは異なる。まだ20歳であり、女の子らしい口調のため、低くとも女性としての麗しさや凛々しさを放つ声音。だが、怒りを交えると男口調になり、若干の殺意を込めて相手を制しようとするので、ドMには大好評だろう口調になる。


 言われた大貴族。名を聞いたが既に忘れた俺は、その名を知ろうともしない。「くそっ」とも言いたげな顔に、声を発せないことが命を救った。


 今のルミウに反抗するのはとてもよろしくない。


 「はぁぁ、あれは面倒だよ」


 去り行く背中に殺気を飛ばしては、不満げに愚痴を溢す。


 「あれが火種になってルミーに襲いかかるパターンだね」


 「言うなよ。それで当たって戦うのは俺らだからな?大歓迎だが、絶対にあいつの魔人化は弱いって」


 「まぁ……ファイト」


 「面倒」


 ため息をつくルミウと俺。厄介事が増える気は今まさにしていた。それも的中する。


 ため息後、息を吸おうとした瞬間――。

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