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第百五十二話 取り敢えずの補給




 雲1つない快晴の下、往復や会議などの必要な時間を含めて、それでもおよそ2日で救援要請に応えた、我が王国の剣士はサントゥアルへ到着した。


 1000近くの鍛え上げられた王国を守るために尽力する剣士。男女関係なく、サントゥアル王国でもその力を発揮することに、この場全員の承諾があった。


 そして何より、神傑剣士ではラザホが来たことに少し驚きだったりする。


 「何でラザホなんだよ」


 不貞腐れるわけでも、呆れているわけでもない。ただ、魔人が跳梁跋扈している可能性も捨て切れないこの王国内で、剣技を使えばそこら一帯を破壊する男が来ては、修復なんて考えるだけで頭痛がする。


 現在最もサントゥアルで相応しくない神傑剣士だ。


 「ガッハハハ!なーに、単なるくじ引きだ。どう話し合おうと決められないのだからと、メンデが提案してな。その結果俺が当たりを引いたってことだ」


 高々に笑ってみせると、その声は咆哮のように響く。王城内のサントゥアルの民を始めとして、既に我が王国の剣士たちは食料を提供したり、羽織るものや厚めの毛布、身の回りを冷気から守るためのアイテムを次々に与えている。


 「それにしても、よくこんなボロボロにされたものだな。王城だけではない。王都なんて一直線に瓦礫の山で、そこを除けば同じ王国か疑うほど綺麗な街並みなのも、意味が分からない」


 「それはそうだな。よく考えれば意味があってしたことか、それとも最速最善で王城を潰しに来たのか定かではないな」


 入国早々にてんやわんやと巻き込まれたので、実際余裕はなかった。手助けをしながらも、その間は剣技に集中したり、助けに応えて忙しかった。常に周りへの警戒を怠ることはなかったのも、その余裕を作らない原因だ。


 いつ襲われるか、どこで誰かが支配されて、従うしかない状況で偵察させられていることだって考えられる。全てのパターンで最悪を考えればきりがなかった。だからこそ、常に。


 通路だけを滅して来たような崩壊の跡。少し考えると、その意味は――もう分かっているような気がした。


 「お前は何をしに?」


 「調査の延長線上、ここに来てなにか有益な情報をって思っただけだ。確かな情報かは分からないが、リベニアでも多くのことを手に入れた。満足なほどだったが、このことを聞いたら欲が湧いてさ。そのまま来たんだ」


 「ほう。リベニアでもそれなりに得られたとは、中々順調そうだな」


 「って思うだろ?順調なのは順調だが、苦労はするぞ」


 「それでも予想外ではないのだろう?」


 向ける顔には怪しむために細めるのではなく、真意をついた確信からの冷やかしをするための目が向けられていた。


 「どうだろうな。予想外だから苦戦するのかもしれないぞ」


 「ガハハハ。変わらないお前で何よりだ」


 変わらない。何が変わらないのか、それによってその意味のあらゆることが変化する。


 別に変わるつもりはないし、変わったとしてもそれを誰かに知られたいとも思わない。縁の下の力持ちでもなければ、表立ってリーダーシップを発揮するタイプでもない。


 変わらないことが、俺にとっても良いことなんだけどな。


 「そうか。満足したなら職務に戻れよ。俺も戻って様子を見てくるから」


 「そうだな。そんじゃ、また後で」


 「ああ」


 そう言ってお互い踵を返してそれぞれのやるべき事へ手を付ける。俺の場合は乗りかかった船である全員の安否確認。開かれ、多くの物資が埋め尽くすように山積みされている謁見の間から俺はゆっくりと足を動かした。


 軋む扉を開けて戻ってくると、やはりここでは予想通りの展開が目の前に広がっていた。ザワザワとして、俺らが来た時より圧倒的に回復した国民たちが、ニコニコと周りの人と会話をしている。


 四六時中体温で暖気のように暖かい空気を送り込んでいたおかげで、誰もが体が寒さに敗北することはなく、次第に回復への道を進んでいた。


 正直めちゃくちゃ疲れたけどな。


 微弱とはいえ、部屋を埋めるほどの気派を常に放出するのはしんどくて、俺を人生で1番殺しやすいタイミングだった。


 今は流石に止めている。寒さに凍える人は皆無。ゆっくり睡眠をしている人も、談笑する人たちの中でも安心して寝れるほど精神面は安定。


 「流石は序列隠しの最強さん。結局、他国の民も救うんだね」


 今はもう気にすることはないのか、右腕にガシッと捕まるシルヴィアは、俺の顎の高さにある大きな黒の双眸で俺の顔を覗く。


 振り払うことも覗くなとも、抵抗はしない。


 「久しぶりに聞いたぞ。序列隠しなんて」


 学園生だった時の、第7座の異名。既に捨てられ、それを覚えている人すら少ないだろう今、耳にするとなんだか懐かしい。1年も経ってないというのに。


 今頃、ヒュースウィットでは俺についてどうなってるのか、気になってくるというものだ。


 感情に浸るかのように、俺は見つめられる顔を窓の外に見える空へと向ける。真っ青ながらも、日差しは確かに届く。時刻的に斜めであっても、俺の足元にしか届かないが、それでも暖かさ、温もりは十分だ。


 魔人が去ったから戻って来たのか、強大な悪が蔓延ると天は暗く染まると謳われるため、その可能性も捨て切れない。


 「まぁ、救ってメリットはあって、デメリットが一切考えられなかったからそれでいい」


 メリットが無ければ――そういうことだ。

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